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公道はおまけ? サーキットマシン対決 M3 GTS対911 GT3 RS 回顧録

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公道はおまけ? サーキットマシン対決 M3 GTS対911 GT3 RS 回顧録

もくじ

ー 圧倒的な動力性能差
ー 約300万円の価格差は
ー 全個体がオレンジに
ー パワーアップと軽量化
ー 明らかにスパルタン
ー サーキットを意識したエンジン
ー 良好なステアフィール
ー すべてにおいて上回るポルシェ
ー フィーリングでGT3 RSの勝利

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圧倒的な動力性能差

現実は非常に厳しい。最初からこんなことを書いてしまうとこれからこの記事を読もうとしている読者諸氏の期待を削いでしまうかもしれないが、しかし現実は本当に厳しかった。

皆さんが今、実際にBMW M3 GTSのステアリングを握っているとしよう。タコメーターの針は8400rpmのレブリミットぎりぎり手前のところを前後し、エグゾーストサウンドはまさに鼓膜を破らんばかりに強烈そのものだ。

けれどM3に乗る貴方のこめかみの血管はひくひくしているだろう。ポルシェ911GT3 RSが背後にぴったりと、しかも平然とついてきているからである。

GT3 RSがGTSを直線で完全に圧倒したのは、実に言いづらくはあるが、まったく偽りない事実である。特に中速域でのトルクに比較にならないくらいの強烈な差があるため、GTSのドライバーはGT3 RSが地平線の彼方に消えて行くのをなす術もなく見送るしかない。

約300万円の価格差は

さらにトップエンドでもGT3 RSのほうがGTSより強烈であり、しかもこちらのほうが違いはより決定的だ。

7500rpmを超えてからのGTSのトルクはじれったいほどフラットで、まるで間違えてレギュラーガソリンを入れてしまったかと思うほどである。いや、むしろガス欠を起こしたかと思ってしまうかもしれないくらいだ。

ストレートで最初にGT3 RSに圧倒されたときには、「別に気にすることじゃない。ある程度は予想できていた。第一、ストレートの絶対的加速なんか、このクルマのように絶妙なステアリングフィールこそ重要なモデルにとってはたいしたこと問題じゃない」と考えるだろう。

しかし、2度3度と抜かれたときには、GTSに対してそろそろ疑問が生じてくる。純然たる動力性能では完全に負けているのに、300万円も高価な価格をいったいどうしたら正当化できるというのか? そして、ストレートでまったく勝負にならないというのなら、いかにステアリングのフィールに優れていようが、それにどれだけの意味があるというのだろうか?

全個体がオレンジに

BMWがGTSを造った由来を理解するためには、このクルマのモデルとなった初代E30型M3が築いた栄光の時代に立ち返る必要がある。そもそもカラーリング自体が、1970年代から80年代にかけてBMWが成し遂げた、欧州ツーリングカー選手権での伝説的な活躍へのオマージュなのだ。

当時のファクトリーカーのほとんどがドイツのリキュールメーカーであるイェーガーマイスターをスポンサーとしており、同社のコーポレートカラーである明るいオレンジに塗られていたのである。

そんな昔のことは憶えていないという方や、もしくは端的にこの色が気に入らないという方がいらっしゃるなら、それは誠に持ってお気の毒な話だ。BMWのMディビジョンが今後12カ月にわたってほぼ手作業で製造していく110台のGTSは、1台の例外もなくすべてこのオレンジを身にまとって登場する予定だからだ。

今回の試乗車は、量産車のなかでもごく初期のロットの1台で(その証拠にグローブボックス真上のカーボンファイバー製パネルには「002」のシリアル番号が打ってある)、しかもすでにロッド・スチュワートがオーナーになることに決まっている個体だ。

広報車としての仕事を終えたら再整備を受け、ちょうどクリスマスの頃、かの有名なセレブのもとに届けられる予定となっているのである。彼は2000万円超の新しいおもちゃをコレクションに加えて、果たして期待どおりと喜べるだろうか?

パワーアップと軽量化

もっとも、そういう背景を抜きにしても、GTSはクルマそれ自体としてさまざまな点でとても魅力的なのは間違いない。動かさずとも、昨年登場したトラディショナルなM3の性格はそのままに、スウェード巻きの豪華なステアリングホイールやサイドに「FIA Approved」と記された深いバケットシートなどを含む、超軽量化された質実剛健なインテリアが目にとまるはずだ。

また、通常モデルならリアシートが置かれているはずの空間には、フルロールケージが備え付けられている。なお、サイドウインドウはプラスティック製で、もたれかかったら割れてしまうから注意が必要だ。

V8エンジンも注目に値する。ストロークが延長されて4.4ℓとなり、8300rpmで450psを発生するようになっているが、GT3 RSとまったく同じ出力となったのは、おそらく偶然ではないだろう。トルクも43.8kg-m/3750rpmに強化されているから、通常モデルよりも低い回転域から強烈な駆動力を発生できるはずである。

こうしたモディファイに加え、欧州仕様車で75kgの軽量化を果たして1530kgとなった重量と、予想はつくだろうがシャシーにも加えられている絶妙なチューニングとを考え合わせれば、どう考えてもこのGTSは素晴らしいクルマに違いないと期待せずにはいられない。

そしてそれは確かに本当だ。ただし、同じことはGT3 RSにも言える。おそらく公道走行可能な911の歴史上、これが最高傑作と呼べるモデルであろうことに間違いはあるまい。

明らかにスパルタン

となると必然的に、ノーマルのM3に比べてどれほどGTSが優れていたとしても苦戦を強いられるはずで、そのうえBMWが価格をGT3 RSよりも300万円も高く設定しているのだから、さらにハードルは高い。

実際のところ、GTSが最高のドライビングマシーンのうちの一台であることは否定しない。走りに徹したかなり騒々しいクルマだが、伝統あるE30型M3からの血統を確かに感じさせてくれる。

ここ10年のあいだ、われわれのような高回転型エンジン好きが待ち望んでいたクルマであり、これに比べたらE46のM3 CSLでさえ、今一歩おとなしいクルマに感じられてしまう。そしてこの言葉だけで、GTSがどういうマシーンなのかについておおよそのところは察していただけるだろう。

乗り込んで周囲を見回すと、普通ならオーディオとエアコンのスイッチが並んでいるはずの場所がつるんとした一枚のプレートに置き換えられている以外、コクピットはお馴染みのM3と見た目はほとんど変わらないように感じられるかもしれない。

だが、よく見るといくつかのパーツがカーボンファイバー製に変更されていて、ドアもノーマルよりかなり軽量化されているのが開閉した瞬間にわかる。そして走り出せば、リアシートがない後部からは反響音がはっきりと聞こえてくる。あからさまにスパルタンな雰囲気がみなぎっており、その目的意識の明瞭さはGT3 RSのキャビンがわずかながら快適志向に感じられてしまうほどである。

サーキットを意識したエンジン

エンジンは始動してすぐに、ほかのどのM3とも違うサウンドで気持ちを高めてくれる。アイドリングでは高級感にあふれた低音の鼓動に重なって頭上からかなり賑やかなざわめきが聞こえ、そして軽くブリッピングすると4.0ℓエンジンより数段素早い反応が返ってくる。

いかにもレースを戦うために組み上げられたエンジンのそれであり、どう考えても公道だけを念頭に置いて設計されたものではあり得ない。

だが、その先入観は多分に幻想のなせる業で、実際に走り出したら決してノーマルのM3に比べて粗っぽさを感じさせるエンジンではないことがわかる。確かに広がった回転域に伴って、もしかすると不快に感じるかもしれないほど音量が強烈になっているのは否定できないが、低回転域でもギクシャクしたところはなく、高回転型のカムに予想されるようなトルクの停滞域もまるでない。

アイドリング時の粗暴さはいったいどこに行ってしまったのかと拍子抜けする瞬間だが、実はコンピュータ制御によって、実際には存在している感覚的なマイナス点を、あたかも何も起こっていないかのように感じさせる演出がなされているのである。

良好なステアフィール

ステアリングも同様にとてもフィールがいい。操舵力を加え始め、そしてアウト側のフロントタイヤに荷重がかかり始めたときの感触は、誠にもって甘美である。ノーマルのM3では、ステアリングが手応えを失う独特の瞬間があった。

ノーズのは正しい方向を指しているのに、目で確認しなければ本当に思ったとおりに進んでいるのかがわからないという瞬間である。それがGTSではステアリングホイールから過剰とも思えるほどの情報が伝達されてくるので、フロントタイヤにどれだけ荷重がかかり、そしてどれだけグリップしているのかを、正確に感じ取ることができる。

もしかすると昼食のあいだに舗装が新しくされたとしてもこの感触でわかるのではと思えるほどにフィードバックは細やかであり、ステアリングへの入力に対する反応にも同じく一体感がある。

こうした収穫を得てGTSから降りたときには、ある種の充実感を味わえたと実感しているはずだ。「これならば2300万円を支払うだけの値打ちはあるだろう」と確信するのが当然だ。

すべてにおいて上回るポルシェ

ひとつ残念なところを挙げるとすれば、マニュアルトランスミッションの選択肢がないことだ。古臭いギアシフトの興奮を味わいたい個人的趣味と言われるかもしれないが、やはりあってしかるべきだとも思う。

もっとも、パドルシフト式デュアルクラッチトランスミッションの変速時間やスムーズさには文句のつけようはなく、これはこれで素晴らしい出来である。総合的に考えて、GTSは運転していて胸の高まりを感じさせてくれる、感嘆に値するクルマであり、絶対的な評価として運転していて「素晴らしいクルマ」であることは間違いない。

GTSにとっての不幸は、GT3 RSに乗り換えて同じ道を走ればさらに速いだけでなく、ステアリングから伝わるフィールはいっそう豊かで、しかもストレートで感じるエンジンのパンチははるかに(正確には比較にならないほど)優っているという結論にしか、おそらく誰であっても到達し得ない点だ。

今回の場合には、GT3 RSが「別物の911」であることなど問題にすらならない。真実は残酷だが、BMWができるすべてをポルシェはよりうまくやってのけるのだ。

フィーリングでGT3 RSの勝利

もっとも、これがごく単純かつ科学的な比較論であればそのとおりの結論、つまりより速くてグリップに優れ、しかも購入コストが大幅に安いのはGT3 RSだという結論に落ち着いてしまうところだが、しかし今回のような比較対決では単純に数字を比べて計算するだけで勝負をつけられるものではないし、今後同様のテストを行ってもそうなることはないだろう。

この2台のようにドライバー指向が徹底しているクルマ同士の場合には、主観的な判断のほうが客観的な調査結果よりもはるかに優先されるのが常である。増して今回はどちらもいかなる基準に照らし合わせても並外れて速いクルマなのだから、なおのことそうならざるを得ない。

誤解のないように述べておくが、いかなる速度域でいかなるギアを選択していようとも、GTSが発生できる以上の動力性能が必要とされる状況など、公道上では絶対にあり得ない。つまり、どこであってもそれがストレートならM3を抜き去るだけの実力がGT3 RSにあるのは事実だが、それが結論を確定する決定的要素には決してなり得ないのもまた事実なのだ。

では、雌雄を決した最大の要因はなんなのか? それは、よりフィール面で豊かであり、より大きなスリルが味わえて、よりサウンドも官能的で、さらに運転する行為そのものにより集中できるのはGT3 RSのほうだという主観的評価である。簡単にいうなら、GT3 RSのほうが純粋さとシンプルさで優れているのだ。価格の大幅な安さは、文字どおり単なる「ボーナス」に過ぎないのである。

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