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ニューモデル 2018.7.1

FCV、英国縦断できる? 水素ステーションは全英9カ所 トヨタ・ミライで挑戦

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もくじ

ー エネルギー循環のはなし
ー 全英わずか9カ所の水素ステーション
ー 燃費を気にして走る
ー ブレーキを最小限に止めて水素を節約
ー 思いのほかよく走るミライ すでにFCV普及の地も
ー 移動型水素補給トラック
ー 最終目的地へ 旅の記録

    減っているのに増えている! 「東京モーターサイクルショー」過去最多の来場者数

エネルギー循環のはなし

英国北東部、オークニー諸島。ここでは風力/波力発電がさかんだ。のみならず、潮の満ち引きまでもなんとか活用しようとしている。生まれた電力は理論的には本島のスコットランドへ伝送できるはずだが、2億5000万ポンド(368億円)もかかるという海底ケーブルの敷設コストが問題で、今のところは実現していない。

いまはその余剰電力で水分子から水素を取りだしている。できた水素は圧縮してボンベに充填し、オークニー諸島州都のカークウォールへ航送する。そこでまた水素をつかって取りだすのが……もとの電気だ。

なんとムダなことをと思ったあなた、それはそれで一理ある。

さて、そのことと燃料電池車トヨタ・ミライで英国縦断の旅をすることになんの関係があるのか、ふしぎに思われるかもしれない。でもそこには想像を遥かに超えた意味がある。それはクルマを何で動かすだけでなく、家を何で暖房するかといったことにも最終的に関わってくる話なのだ。

燃料電池自動車は将来のエネルギー産生と消費のサイクルを形成するひとつの要素になるというのが、英国トヨタの代替燃料部門責任者のジョン・ハントの考えだ。クルマにはガソリン、家では暖房や電気音響機器、というさまざまなエネルギーを使う現代の暮らしは、電力会社が家の配電盤に電線をつなぐだけというのに比べると遥かに複雑だ。

おまけに、供給の不安定な再生可能エネルギーと、安定はしているが環境には好ましくない化石燃料由来のエネルギーを取り引きする世相になろうとしている。だが、明日にでも実現できるエネルギー循環システムはもうそこにあるのだ。

全英わずか9カ所の水素ステーション

さしあたり、われわれの任務はここジョン・オ・グローツからアバディーンまで370kmあまりを走破することだ。もちろん従来のクルマなら屁のかっぱだし、純粋な電気自動車(EV)でもちゃんと充電計画さえたてれば恐れるまでもない。

だが、燃料電池車だと話がかわってくる。水素ステーションが全英で9カ所しかないという事実が立ちはだかるのだ。いまのわれわれには何の慰めにもならないが、それでも今年中には16カ所に増えてという。とりあえず、いまはアバディーンにできたばかりの水素ステーションを目指すしかないのだ。

160kmという数字すらときどき絵空事に思える小型EVの航続距離にくらべると、ミライは遥かに長い脚をもつ。いま水素タンクはほぼ満タンといったところで、車内の航続距離計によれば318km走れることになっている。問題は、最初の行程が370kmもあるということだ。

はたして航続距離の変化が即座にモニターに反映されるかどうかもわからないままだが、まずはそっと南へ向かうことになりそうだ。単位は普段のmpg(1ガロンあたりの走行マイル数)とは異なり、走行100kmあたりの水素消費量(kg/100km)で出てくる。2基の水素タンク(車両搭載性の問題で、カーボンファイバー製内筒をグラスファイバー製外筒におさめた構造を2個備える)には、700気圧の水素5kgが入る。

5kgとは少なく思えるし、そのうえいまモニターに100kmあたり2.5kgも消費すると告げられたらそれこそ死刑宣告ものだ。

燃費を気にして走る

だがハントが言うには、はじめに消費率が高く表示されるのは、ガソリンのように一定量が流れるのではなくてあちこち傾く水素の消費量を正しく測るのが難しいという要因もあるとのことだった。

気を取りなおして数km走ってみたところで、消費率は1.2kg/100kmにさがった。だが、370kmをもたせるには平均で0.9kg/100km以下にしないといけないとハントが注意してきた。そんなことをしたらすぐに渋滞をつくってしまうではないか。

さいわい、始めはそんな気配は微塵もなかった。ミライの大胆で独特なデザインのダッシュボードを視界にいれつつ、われわれは80km/hくらいでのんびり走った。もちろんいちばん注目するのは水素消費率の数字だが、センターコンソールやインフォテインメント画面の角ばった縁と急降下を描く枠にも目がいく。

このダッシュボード、とくに彫刻的に美しいわけではない。だが良い意味でうるさいデザインは、いかにも空気を切り裂きながら酸素をぐいぐい飲みこむ感じのボディデザインに通じるものがある。

そうするうちに、時折、交通の流れが悪くなってきた。だがペースが鈍るほど逆に都合はいい。いまや消費率は0.9kg/100kmを切ってはいるが、水素をむだ使いしない(未来の言葉にきこえるが)ようにゆっくり行きたいという気持ちのほうが強いからだ。

ブレーキを最小限に止めて水素を節約

だが、今度は目の前に風光明媚なケアンゴームズのうねった山々がやってきている。海沿いの平坦な道があるのにわざわざ山道を選んだのは、こちらのほうが交通量も少ないし、あとで走るハイウェイM1号線が、ただだらだらと長いからだ。

ミライの荷物を減らすため、カメラマンのルーク・レイシーはランドクルーザーに機材をのせてついてきている。ミライはエアコンも切っているが、春のような陽気のスコットランドではこれが予想以上に参ってくる。ケアンゴームズの上り坂の数々は、いかにミライの水素消費率を上げずに走れるかというチャレンジ意欲を満たすのにうってつけだ。

もちろん、上りがあれば下りもあるわけで、ここでどこまで水素を節約できるか挑戦するのもこれまたある種の楽しみがある。

省エネが楽しい? そう、なるべく下りの勢いをたもち、ブレーキを最小限にとどめる理想の走りを目指すのだ。燃料電池にくわえて通常の充電を受けもつニッケル水素電池が備わるのに、エネルギー回生に役立つはずのブレーキをなるべく使わないというのは変な話にきこえるかもしれない。

だがハントによれば、ミライにはモーターがひとつしかないので発電機としては使えないのだという。もちろん、ブレーキ節約といっても安全をそこなわない範囲ですべきなのだが、ケアンゴームズの下り坂でスピードに乗りながらブレーキをがまんするのは、そうとうなスリルがある。

思いのほかよく走るミライ すでにFCV普及の地も

もうひとつ。道が空いていたおかげで、ミライのあまり予想していなかったとてもよろこばしい一面も明らかになった。車重もけっこうあるうえに、前:マクファーソン・ストラットに、後ろ:トーションビーム・アクスルとサスペンションも比較的シンプルにもかかわらず、かなりのペースでもコーナーを涼しい顔で危なげなくすり抜けていくのだ。

低い位置に燃料電池スタック・ニッケル水素電池モーターという重量物がおさまることで重心も低いのが大きな要因だろうが、シャシーもほどよくバランスがとれている。スポーツセダンとはけっして言えないが、ロールをゆるしながらも速く走れるうえ、そうして速く走りたくなるくらいステアリングも正確だ。

すべてがあいまって、この区間を走るのはとても楽しかった。そのうえ驚いたことに、なんと水素消費率も0.6kg/100kmにかえって下がるほど経済的なドライブにもなったのだ。この時点での残り航続距離は128km。アバディーンまでの道のりよりもかえって5km長くなったのだ。そしていよいよアバディーンに到着したときには、なんと61kmも残っていた。それでもハントによれば、まだ余力はあるというのだ。

とはいえ、アバディーンの真新しい水素ステーションが目に入ってきたときの安堵たるや、いかほどのものだったか。

いま、アバディーンは水素燃料電池を強力に推進している。オークニー諸島とおなじで風力発電の余剰をかかえ、おまけに斜陽となりつつある北海の石油業界では優秀な労働力があぶれているのだ。

アバディーンの水素ステーションはいまヨーロッパでもっとも稼働しているし、じっさいわれわれもいま水素補給に列をなすミライという、ちょっとありえない光景のなかにまじっている。アバディーンとオークニー諸島ではすでに水素燃料電池の経済が成りたっていることを、今回思い知らされた。

移動型水素補給トラック

それでもまだ先行きが長いことが浮き彫りになったのは、2日目の目的地サンダーランドでミライに水素を補給してくれたのがフューエル・セル・システムズ社の水素補給トラックだったことだ。

サンダーランドへの水素ステーションの設置が今年末の見こみなので、タイン・アンド・ウィア州ではいまのところハスケル社の水素工場で補給がおこなわれている。ハスケル社は、高圧のタンクへ水素をとぎれなく迅速に充填できるすぐれた装置を開発している。

施設型水素ステーションでは4分で補充できるが、この移動型水素補給車だと10分ほどかかる。とはいえ、どこでも補充できる利便性の代償としては受けいれやすいだろうし、だいたいそれでもEVの充電時間より遥かに短くてすむのだ。

こんなに便利ならじゃんじゃん水素を使おうという気にもなりそうだ。じっさい、3日目はじめのロザラムまでの区間では、航続距離に悠々おさまることもあって消費量をまるで気にせず走った。まあ、何百kmもの節約走行のあとでは、気ままに走るのもかえって難しかったのだが。とはいえ、予想以上に力強く回転ピッチを上げて最大で154ps/34.1kg-mを発生するモーターの力を存分に出すいい機会だったし、エコ性能よりも動力性能のほうがやっぱり遥かに興味はある。

とはいっても、ミライに複数備わるモニター画面をスクロールしていろんな項目を見わたさずにはいられない。平均の水素消費率や速度のほかにも、パワーの流れをプリウスでおなじみの(あちらほど洗練されていないが)脈うつ矢印をあしらった図で見られるし、1日単位の走行距離と水素消費率の表も見られる。

ミライのできること、そしてミライでできることも目に見えるのは楽しい。じつは、どれだけ資源節約に役立つ運転ができたかもミライが採点してくれるのだ。あまりモニターは見なかったが、そのなかでわたしの最高点は100点満点中84点だった。

最終目的地へ 旅の記録

得点アップの秘訣は発進時にいきなりアクセルを踏まずに、モーターに仕込まれたクリープ機能をうまく使うことと、あたりまえの話だがエコノメーターの緑のゾーンを保つことだ。最終日にビーコンスフィールドのサービスエリアにあるシェルの水素ステーションで補充してから、最後の区間でこれを実践してみることにしよう。

ここで極力節約に励むわけは、ランズ・エンドまでは444kmもあるからだ。いちおう482kmとされるミライの航続可能距離におさまるとはいえ、今回の旅では補給なしでこれほどの距離を走るのははじめてなのだ。くりかえしになるが、そのためにはトレーラーハウスを引っぱるときのように運転することになる。後続車のイライラを引きおこすことはまちがいないが、彼らには前をいくミライからまったく汚染物質が出ないことなど知るよしもないだろう。

デヴォンをすぎるころには、ランズ・エンドまでもちそうに思えてきた。ここから巡航ペースを流れにまじりやすい97km/hまで上げたが、生け垣が道の両側からせまるコーンウォールだけはスピードをおとした。

ついに最終目的地ランズ・エンドに辿りついたわれわれはバンザイを叫ぼうとしたが、どうしたことかどこにもそれを示す標識がない。どうも夜間はここの地権者が標識をしまいこんでいるらしいのだ。まあ彼に10ポンド(1470円)なりを払って標識の写真を撮らせてもらうのは明日においておくとして、ここでオークニー諸島からここまでの行程を整理しておこう。

・走行距離 1785km
・走行時間 19時間40分
・平均速度 90km/h
・水素消費率 0.9kg/100km

ほかには、消費した水素は16.1kgで、その費用が193ポンド(2万8400円)。走行1マイルあたりにすると17.9ペンス(1kmあたり16.4円)の計算だ。補給は4カ所で合計15分、排出した純水は14.5ℓだった。

明くる日、記念写真を撮っているところへ日本人観光客の一団がやってきた。彼らは、標識にかかげたわれわれとミライの記録達成のしるしを見つけると、よろこんでくれた。

さらにミライが日本の誇るトヨタのクルマだと伝えると、いっそうのよろこびの声があがった。彼らもわれわれも、いつの日かあたりまえに燃料電池車を運転する日がくるのだろう。

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(AUTOCAR JAPAN 編集部)

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みんなのコメント

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  • tm1*****|2018/07/01 09:34

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    すごく速度に気を配って運転しなきゃいけない(我慢しなきゃいけない)ように書いてあるから、やっぱり高速では効率悪いのかと思ったが、平均90km/hて。日本の道路事情では、一般的な速度域ですね。ただ、この速度域ってイギリスでは、トレーラーハウスでも牽引してんのかよって思われるほど低速なんですね笑 文化の違いを知る意味で面白い記事でした。

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