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イシゴニス賞 豊田章男(トヨタ自動車CEO) AUTOCARアワード2018

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イシゴニス賞 豊田章男(トヨタ自動車CEO) AUTOCARアワード2018

もくじ

ー 「予期せぬ加速」を乗り切って
ー GAZOO Racingを立ち上げ
ー 「もっといいクルマ」の追求
ー 将来のことはわからない
ー 62歳、まだまだ「若造」
ー 豊田章男と会って

英国試乗トヨタ・ヤリス(ヴィッツ)GRMN ホットハッチ名乗れる高評価

「予期せぬ加速」を乗り切って

トヨタのCEOを9年務めている豊田章男が2018年のAUTOCARアワード2018「イシゴニス賞」の受賞者だ。ここまで社長を続けてきた理由は、2009年、彼が社長を引き継いで数週間後に米国市場で直面した深刻な「予期せぬ加速」問題のためだったと彼は考えている。

トヨタ・グループの有名な創業者、豊田喜一郎の孫にあたる豊田さんは、この危機で世界中のプレスの場で何度もさらし者にされ、米国の議会公聴会に引きずり出されてはよくわかっていない政治家にトヨタ車が「安全でない」理由を何度も説明させられた。社内の重鎮が新米のリーダーを社長の器だと認めてくれたのは、この危機を乗り切ったからだと彼は信じている。

以来、彼は何度もそのことを証明している。豊田は卓越したリーダーシップとクルマに対する愛情で世界的に有名になった。社内にも至るところに彼の信奉者がいる。彼の主導でトヨタ、レクサス、ダイハツは自らの立ち位置を見直し、グループ内の各ブランドの位置づけを明確化した。2012年のトヨタGT86に始まる、もっとずっと魅力的な一連のモデルを作る勇気もこうして生まれたのだ。これらのブランドから、さらに「エモーショナルな」クルマも登場するだろう。

豊田は、少なくとも公正な裁判の場においては、悪意がまったくないことで多大な尊敬を得た。社長就任から数年経って、適切な技術的調査が行われた結果、世間を騒がせたトヨタ「スキャンダル」は結局、メーカーの瑕疵ではなくて扇動的な最初の報告書のせいだったことが判明した。

GAZOO Racingを立ち上げ

「最初の4年間が大変でした」と豊田は振り返る。「日本では3代目は家を潰すと言われています。わたしも3代目ですが。修羅場をくぐっていないので困難な状況に対応できないというのです。今回の危機のような。わたしも危機対応は初めてでしたが、うまく切り抜けられたことは大きな助けになりました。そして危機のおかげで社長として期待されていることは何か、何をすべきなのかを理解することができました。リーダーシップを発揮して会社をまとめる以外なかったんですよ」

このように多忙な業務の中でも、豊田は早くからクルマへの愛情を深めてきた。彼は同好の社員を鼓舞するためにGAZOO Racingを立ち上げ、初期のイベントでは「ドライバー・モリゾウ」の名で自ら匿名でハンドルを握った。彼を取り巻く連中の多さを見れば、匿名が失敗したことは明らかだったが。

彼は突然ニュルブルクリング24時間にドライバーとして参加したこともある。本当の話だ。アストン マーティンの社長ウルリッヒ・ベッツと交代で立派にドライバーを務めた。時は流れ、GAZOOは今ではトヨタの有力なレーシング・ブランドに育ち、豊田自身も漫画やアニメのスターになっている。彼にはもっと壮大な計画がある。モリゾウ・レーシングを立ち上げるのだ。

わたしが今まで面会したトヨタの役員はみなフォーマルでビジネスライクな物腰だったので、オフィスで座って彼と話をしたとき、あなたの「カー・ガイ」ぶりはどこからきているのかとまず聞いてみた。確かに、彼の父や祖父は(親愛なるレースの師匠、成瀬弘(故人)と並んで、わたしのヒーローですと彼はいう)ビジネスを育てること、信頼性の高い買い得なクルマを作ることに専心してきた。

「もっといいクルマ」の追求

「生まれてからいつもクルマはそばにありました」と豊田は説明を始める。「でも小さいときには、それが好きだと言ってはいけなかったんです。社長になってGAZOO Racingを始めたことで、そういうことが言えるようになったんです」

楽しさを追求したからといって、世界でもっとも倫理的な自動車メーカーのひとつであるトヨタの屋台骨が揺らぐわけでもあるまい。トヨタの社員は昔から「事故ゼロ」、「死者ゼロ」、「排ガス・ゼロ」は達成可能だと言っている。彼らはまた、日本を水素社会にするために貢献できると信じている。もっともわかりやすいのがミライの発売である。車載の燃料電池(水素電池)で発電して電気モーターで進むクルマだ。停電時など必要とあらば家庭に給電することもできる。

一方で、「もっといいクルマ」への飽くなき追求(先達が造り出したフレーズで、豊田もよく口にする)はいささかも変わらない。ミライ、そして稼ぎ頭のハイブリッドカー・プリウスは、技術的にもっとも複雑なモデルであると同時にトヨタでもっともクレームが少ないモデルでもあるのだ。

話題が将来のクルマの話になると、豊田の考えは極めて明確だ。たとえトヨタのような企業がクルマ販売者からモビリティ・プロバイダーに変わったとしても(大手自動車メーカーはほとんど皆そうなると信じている)、クルマが「パートナー・相棒」でなくなることはない。コモディティ化することはないと彼は主張する。

「愛車」という言葉はトヨタが昔から好きな表現だ。最近でも、トヨタは新型のスポーツカー、スープラの発売を準備中だ(多くの部分をBMWの新型Z4と共有する)。スープラの後にも、MR2の後継車になると目されている第3のスポーツカーが控えている。

将来のことはわからない

いまから10年後、20年後のクルマを取り巻く環境を豊田自身はどう思い描いているのか、聞いてみた。わたしには皆目見当がつかないからだ。「その答えは準備してあります」と彼はいう。「先日、ウォーレン・バフェットがあなたの椅子に座って同じ質問をしたからです。同じ答えをしましょう」

伝説の大富豪と同じインサイダー情報を貰えるとわたしは興奮し、耳をそばだてた。だが肩透かしを食らった。

「バフェットさんにも言ったのですが、将来いったい何が起こるか、わたしにはわかりません」豊田は笑って答える。「バフェットさんはわたしの答えを褒めてくれましたよ。こういうとき、多くのビジネスマンは実現できそうもないことをいうものだと。わたしがそうでないことを知って、彼は満足したようです」

将来に備えるもっとも良い方法は、いつも変化に対応できるようにしておくことだと豊田は信じている。「素早く変化できるように可能なかぎり準備しておかなければなりません。もちろん他の会社と同じように、われわれにも今の目標はあります。でもひとつだけ確かなことは、明日の市場は今日の市場とは違うということです」

この変化に関する会話を通じて、豊田が祖父・喜一郎の格言は今日のように変化の速いデジタル社会においても依然として有効だと強く信じていることがわかり、わたしは魅了された。「祖父は自動織機の会社を自動車会社へと作り変えました」と彼はいう。「今、われわれは自動車会社からモビリティの会社へと変わりつつあります。類似する点はとても多いと思います」

62歳、まだまだ「若造」

「祖父は57歳で亡くなったので、会社やクルマの発展を見届けることはできませんでした。さぞ無念だったろうと思います。わたしはもう62歳です。奇妙に聞こえるかもしれませんが、最近、祖父の代弁をしているように感じる時があります」

「祖父だったらこういうだろうなということを言っているんですよ。祖父には会ったことはありませんが、両親からの話や、祖父がお付き合いした多くのディーラーさん、サプライヤーさんからの話を通じて、わたしはぜったい彼を知っていると感じます。このことは常に考えています」

時間が来てしまったので、最後にもうひとつ質問をした。あなた自身は今後どうするおつもりですか? 企業の3代目は「すべてを潰す」と言われていると彼から聞いた。では日本の伝承では4代目はどうなるのだろう? そして次の社長候補は決まっているのだろうか?

予想通り、豊田は答えをはぐらかせたが、会社をうまく方向転換させてきたことに少し満足しているようだ。「もし3代目が成功したら」と彼はいう。「4代目は単なる後継者に戻ります。それでいいじゃありませんか」

豊田には、そう、引退する前に達成したい遥かなる特別な目標があるのだろうか? またもや詳細は語らない。ひとつには、多くの日本の実業家と違って62歳の豊田章男は「若造」だから。もうひとつには、彼が熱心に語るように、近づけば近づくほどゴールポストはさらに遠ざかるからだ。

「ものを成し遂げようとしたならば」と彼はいう。「それは終わりなき旅の始まりなんです」

豊田章男と会って

わたしが会ったトヨタの社長は、にこやかで物腰が低く、強さを内に秘めた男だった。彼は自分のオフィスがあるビルの前に立ってわたしを出迎えてくれた。これがイシゴニス賞だと聞いて、1980年代にロンドンの投資銀行で働いていた豊田がオリジナルのミニに乗っていたことを知っていた彼のスタッフは、手入れの行き届いた赤いミニクーパーを用意してくれた。これで写真はばっちりだ。写真撮影のため豊田は熱心にクルマを動かし、停車して運転席から嬉しそうに親指を立ててくれた。

われわれが時間をかなりオーバーして話し込んだ彼のオフィスは、ちょっと風変わりだった。部屋の周りはすべて記念品の類でいっぱいだ。トヨタのNASCARキャンペーンからのトロフィー、フォーミュラ1のヒーローたちからのメッセージ、このオフィスの主より少し名前の知られていないひとたちのサインが入った夥しい数の写真や風刺画。

数えきれないほどの自身の人形(亡くなった彼の師匠、成瀬弘の人形もいくつか)、それにいろいろな形や大きさのクルマの模型。棚や陳列ケースに隙間はまったくない。コーヒー・テーブルさえ、破れたレーシング・タイヤでできていることがわかった。

特製の制服を着せられたサーフボードがトロフィー・キャビネットの上に鎮座している。ハワイのトヨタ・ディーラーからの感謝のプレゼントだ。家に持って帰るのはさぞかし大変だったに違いない。

彼にとってどれが一番大切か聞くのを忘れたが、別れた後でこう考えた。目に映る物の向こう側にあるものが彼の宝なのだ。見た目だけでは決して計り知れないのだと。すべてが大切なのだ。

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