もくじ
ー 新旧M3対決
ー 市場比較
ー お互いの誘惑
ー 試乗比較
ー 購入の注意点
ー 結論
長期テスト アルファ・ロメオ・ジュリア・クアドリフォリオ(1)
新旧M3対決
最初にはっきり断っておく。この記事は絶賛を博していた先代E46型M3へのオマージュでもなく、それと同時に現行E92型M3への当てつけでもない。
それではいったい、新型M3を旧型M3と比較する理由はなんなのか?
簡単に言ってしまえばこういうことだ。1000万円を超えてしまったうえにV8を搭載するM3と、中古車市場でお手頃感が出てきた旧型M3のストレート6を選ぶのと、現段階で果たしてどちらが幸せになれるのか、それが知りたかったのだ。
市場比較
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新型が出て、中古市場でのE46型M3の値は一気に下がった感がある。今では400万円台という個体もチラホラ出始めた。
今回試乗に借り出したこの2002年式の個体は、BMWのスペシャリストとして定評のあるミュンヘンの「レジェンド・オブ・アッシュダウン・フォレスト」で、わずか400万円の希望価格が付けられている。
走行距離は8万kmに満たず、純正のナビやオプションだった19インチ・アルミホイールも装着されている。しかも内装は柔らかいタッチのナッパレザーで、ミッションはSMGだ。
新車時、特にこのM3の価格はオプションを含めて乗り出し1000万円を超えていただろうが、今や新車の320iよりも安い値段だ。もちろん、経年劣化と走行距離がこのクルマの動力性能にその価格なりのヤレを生じさせているだろう、とお考えの方がいても不思議ではない。
しかし、実際はちがった。
お互いの誘惑
胸を張って保証するが、2002年式のこの個体は、343psの性能は新車当時と微塵も変わりなくそのままである。最新のE92型M3と2台並んで疾走しても、このクルマはいささかの後れを取ることもなかった。
では、E92型M3を新車で購入するときのシミュレーションをしてみよう。
まず、前金を払ってから実際にクルマが自宅に到着するまでには、数カ月は待たされることを覚悟しなければならない。ただし、それもある情報筋によれば急速に短縮されつつあるようだ。
というのは、実際に納車されたM3が気に入らず、すぐに手放してしまうひとがけっこうな数でいるらしいのだ。また、E92型M3が公道を走るのを見て(または試乗なぞをしてみたりして)、ウェイティングリストの権利を売りに出し、その代わりに低走行距離の最終ロットに近いE46型M3を購入するひともいるらしい。
少なくとも、わたしの近所でもこうしたひとをふたりは知っている。
加えて新車でこのE46型M3と同等のオプション装備を付けるとなると、そのコストは1003万円のベース価格から、少なくともさらに100万円は上積みしなければならない。
そして、もし2ペダルの新型M3を望むのなら、さらに納車までの待ち時間が長くなる。BMWによれば最短でも2008年末までは2ペダル仕様は登場しないとのことなので、納車は確実に2009年になってしまうだろう。
試乗比較
新型M3は実際のところ、ドライビングツールとしての切れ味はそれほどシャープではない。E46型M3のほうがよりクリーミーでより素直なステアリングであり、エンジンのレスポンスも特に低速から中速にかけてキビキビして感じられる。
それは3000rpmでスロットルを全開にすれば明らかだ。E46型M3のレスポンスはE92型M3のV8よりもさらに迅速だし、エグゾーストの咆哮も少なくとも最初の時点ではより腹の奥に響く。
ドライビングポジションも旧モデルのほうが自然だ。E46型M3のほうが着座位置が低く、ステアリングホイールのリムが手の大きさに合った適切な太さであることがその主な理由である。
一方、新型の着座位置は旧型比4cmほど高くなっており、ステアリングはあまりに太すぎて一体感を持った操作ができない。最近、新型のM3を購入したばかりのわが同僚、クリス・ハリスもこの点については同意しており、すでに彼のクルマのステアリングが細いものに交換されているのがなによりの証拠である。
もっともそれ以外のすべてにおいては、新型M3が先代を完全に上回っているのは間違いない。8400rpmまで使えるエンジンの最後の2500rpmを使い切ることを覚えれば、このクルマは乗り手の意志に完璧に応えてハードかつスピーディな身のこなしを披露してくれる。
さらに乗り心地も旧型よりはるかにいい。確かに19インチのホイールを履いたE46型M3は新車当時でも決して乗り味のよいクルマとは言い難かったが、新車から8万kmあまりを経てもダンパーを交換していないこの個体の場合はなおさらで、わだちや路面のつなぎ目を通過する際の「いなし」がいかにもお粗末であった。
購入の注意点
E92型M3のメンテナンスポイントを見極めるには、まだ時期が早すぎるのは言うまでもない。どんなに走ったクルマでも、せいぜい2万kmほどだろう。
しかし、両モデルともになによりも重要なのは、2万kmが推奨されている最初のオイル交換である。新旧問わず、この最初のオイル交換を施してないM3には決して手を付けるべきではない。また、E46型M3の場合には、2万kmでの点検をやっていない個体については保障上の問題も生じてくる。
それでもE46型M3は基本的には信頼性の高いクルマだ。
購入に当たっての注意点はそれほど多くない。試乗でまず確認しておきたいのはデフの状態である。ここに異音がある場合、運が非常にいい場合ならオイル交換だけで済むが、そうでなければおよそ30万円で全交換になる。
リアのコイルスプリングは走行距離の長い個体だと突然折れる危険性もあるので要交換だが、左右ペアで交換しても3万円ほどで済む。フロントのブレーキディスクもハードに乗られた個体だと交換は必須で、パーツ代だけで片側2万6000円かかる。なお、パッドはフロント左右ペアで2万3000円だ。
もしSMGが装備されたクルマを買うことになったら、ソフトウェアのアップグレードがなされているかの確認もしておきたい。初期バージョンに比べてシフトの品質が大幅に向上するよう、プログラムが手直しされているからだ。
そして忘れてはならないのが、もしSMGシステムが壊れた場合だ。システムの全交換しか手立てはなく、約60万円の出費を覚悟しなければならない。テレビやカーナビについても同じことが当てはまり、費用は約34万円と馬鹿にできない。
結論
ここではどちらのM3が優れていているかを結論づけるつもりはない。というのも、通常の比較や対決ではないからだ。言うまでもなく新型M3を1000万円出して買えるひとにとっては、400万円ほどで買える走行距離8万kmのE46型M3など興味の範囲外だろう。
しかし、われわれはここで興味深い事実をひとつ発見した。
ことピュアな運転を満喫できるという点に関しては、中古の1世代前のクルマでも最新モデルにほとんど遜色がなかったのである。確かにE92型M3はより速くなり、はるかにモダンで高級なインテリアを得た。
しかし走りの面においては ──特にステアリングの緻密さと中速域のスロットルレスポンス、それにドライビングポジションの点ではE46型M3のほうに甘美な点が多分に残されており、推奨できる理由が数多くあると知っておいていただきたい。
興味深い驚きはほかにもあった。それはE46型M3のデザインがとても堂々として見えたことだ。試乗で借り出しているあいだ、単に走りがいいだけではなく、わたしの目には所有する対象としても先代M3が魅力的に映っていた。
これまで話をした多くの専門家によれば、ハズレの個体に当たったら大変な結末になるようだが、それは裏を返せばE46型M3の信頼性が非常に高いからにほかならない。
2万kmでの1回目のオイル交換さえきちんと済ませてあり、あとはすべてにおいて常識的な使い方をしてさえいればいいのである。結局、ここでの勝者はBMW M3であって、それはE46であるか、それとも(新しくてより魅力的なのは確かだが)E92であるかを問わないのだ。
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