■もくじ
前編
ーライトウエイトファンタジー
ーBMW、過去の過ち ライバルとの戦い
ーいよいよエンジンを始動してみよう
ー乗り心地 運転のしやすさは?
ー気づけば鳥肌が立っている
「生ける伝説」 BMW 3.0CSL vs M3 CSL 当時の時代背景を学ぶ(前編)
後編
ーM3 CSL 乗りこんでみると……
ーM3 CSL 気になるところだらけ
ー強化は、なんのためなのか?
ーシャシーのカリスマ的魅力
ー3.0CSLとM3 CSL どっち?
M3 CSL 乗りこんでみると……
今のMディビジョンのクルマはV8モデルと、ターボチャージャーによる加給が施される6気筒モデルを搭載しているが、このクルマはBMWの究極の自然吸気6気筒S54 B32HPを搭載している。レースのために開発された関連モデルのバットモービルとはまったく別なのだ。
E9 CSLの外観が、鎧を纏ったジャンヌダルク、すなわち、激戦のための装いをした両性具有的な筋肉質の美女だとすれば、エリック・ゴプレンとクリス・バングルがデザインしたE46クーペにハンス=ブルーノ・スタークの官能的曲線をあしらったこのクルマは、水着を着たハイディ・クルムのようだ。
E9のインテリアが軽量構造をビニールトリムで覆い隠して大人しげにみせているのに対して、E46のインテリアはレーシングカーらしさを前面に打ち出している。
E46のそうした企みは明白であり、そのモータースポーツ志向の装備は、21世紀になって実現したBMWのF1進出を予感させる。
特に、アルカンターラでトリムされた太めのステアリングホイール、シフトパドル、露出したボルトヘッド、パッドの薄いハイバックのフロントバケットシート、カーボンファイバー製のセンターコンソールやドアカードなどが目を引く。
ドライビングポジションは優秀だが、オートクラッチSMG IIボックスから突き出た、ずんぐりしたギアスティックの、周囲に似合わないきらめきを別にすれば、コクピットはやや陰気で、暗く寛げない。
短時間、のんびりムードでクルマを走らせてみたが、M3 CSLはどうも落ち着かないクルマだと感じる。
M3 CSL 気になるところだらけ
オートマティックで低速走行すると、侮蔑や退屈さを感じ、妙に乗り心地が硬いため、フライバイワイヤ方式のアクセルに対する苦手意識が高まるばかりだ。
愚かな進化の歩みを止めて、考え直すべきだと私は思う。当然、私は電子システムを利用したからくりをできるだけオフにした。
トラクションコントロールはどうするか? そんなものは必要ない。ギアチェンジモードは? マニュアルだ。ギアチェンジのスピードは? SMG IIはわずか0.08秒でギアチェンジできる。これは活かして遊んでみよう。スポーツボタン? もちろん使わない手はない。
酔わせるようなエグゾーストサウンドが響き渡り、どんどん加速していく。実力をフルに試すには、公道ではなくサーキットが必要だということも次第に明らかになっていく。
高速の法定制限速度の時速113km/hでは、どこか冷たい最近の典型的高性能車としか思わないだろう。秘めた能力を徹底的に実感しようとするなら、免許を失うことを覚悟しなければならない。
そう指摘すると、贅肉を絞り落として100kg以上軽量化し、重心を下げたスペックのために、なぜ標準仕様のM3より£18,720(346万円)も高いこのクルマを買わなければならないのかと疑問に思うかもしれない。
このクルマだけの仕様としては、カーボンファイバーのルーフ、プロフィールを改良した樹脂製トランクリッド、グラスファイバー製のバックバンパーとリアバルクヘッド、ガラスの薄形化、ミシュランのパイロットカップスポーツタイヤを履いた軽量アルミホイールなどがある。
カーボンファイバーのフロントバンパーアッセンブリーや前述のトランクリッド、リアディフューザーは、空力特性の改善に貢献。
さらに性能を強化したブレーキ、スプリング、ダンパー、ステアリングジオメトリー、ボールジョイントで結合したアルミ製トラックコントロールアームがダイナミック特性を改善している。
これらの改善や強化はなんのためなのだろうか。
強化は、なんのためなのか?
改善や強化の理由はサーキットを走れば一目瞭然だ。
前にこのクルマを楽しんだのは数年前なのに、このクルマは元気が湧いてくるような鮮やかなスリルを与えてくれる。今でもその時の経験が目に見えるように蘇る。
ヘッドに手を加えたことにより1ℓ当り113psもの馬力を発生するエンジンは、レーシングライセンス保有者にはリミッターを解除することができる素晴らしいものだ。リミッターなしだと最高速は306km/hにも達する。
回転数の限界に向かって回転が高まっていくときのこのエンジンほど、素晴らしいサウンドを轟かす6気筒エンジンはほかにない。
M30のミドルレンジの唸りや洗練されたサウンドには欠けるが、高めの4900rpmで37.7kg-mのピークトルクを発生するS54 B32HPは、怒気に満ちた金属的で強烈なサウンドで空気を揺さぶる。
レヴカウンターが光る。7500rpmを超えレッドゾーンに入ると、オレンジ色のライトが点灯するのだ。8250rpm時の出力は365psにも達する。
S54は輝かしいまでにリニアであり、狂おしいまでに強烈だ。パドルを軽く操作するか(パドルはステアリングホイールと一緒に回転する)、ギアレバーを引けば、即座にギアがシフトされ、不明瞭さは微塵もない。
窓を開けた状態でアクセルを踏み続けると、VANOSバリアブルバルブのひどく攻撃的なサウンドが耳を楽しませてくれる。天国にいるようだ。
大口径エグゾーストパイプとラム効果を発揮する軽量エアボックスとが、豪快なサウンドで大声合戦を繰り広げ、もっと楽しみたいという気持ちになるが、3桁マイルの速度で競い合うレースは始まったかと思うとあっという間に終わってしまう。
ブレーキの利きはどうだろうか。
シャシーのカリスマ的魅力
ほとんどピッチすることはないが、荷重が移動する間、265/30ZR19のリアタイヤがやや落ち着かない様子を示しながら振動する。
ギアをダウンシフトし、スロットルをわずかに踏み込むと、エグゾーストが急に変化し、高らかに吠えてみせる。
CSL仕様、特に機敏なステアリングホイールのラックと重量比の51:49への変更が(M3は52:48)、ドライバーを良い気持ちにさせてくれる。
ドライバーズシート中心にクルマがまるでピボットするように感じられるほど、CSLはバランスの取れた抜群の俊敏性を示す。
ステアリングのギアもぴったりで、やや無感覚なところがあるが、フロントエンドはシャープで、草で覆われたエイペックスをかすめるのに完ぺきだ。
カリスマ的魅力を持つシャシーは率直そのもので、グリップレベルやヨー角度を含め、最新の情報が如実に伝わってくる。コーナーやS字型で急転換を試みたときにもロールは滅多に感じられない。
ミシュランのタイヤは、寒冷時やウェット状態、あるいは落葉で路面が覆われているときに面白いものを見せてくれる。
このタイヤは、トレッドがゴムに刻み込まれているのでなく、タトゥーで溝が記されているように見える。CSLは、まるでスパイクヒールを履いた陸上短距離選手ウサイン・ボルトのように、コーナー、ときには直進路でもがき、くねり、苦闘した。もうテクノロジーに妥協して、トラクションコントロールを再びオンにした方が良さそうだ。
3.0CSLとM3 CSL どっち?
M3 CSLは、ニュルブルクリンク北コースで8分台のラップを記録し、ポルシェの過大評価された6気筒エンジン搭載の「ビートル」を打ち負かすため生まれたモータースポーツディビジョンのクルマに期待されるすべてを兼ね揃えている。
どんなに曲がりくねった道でも、このクルマは決して慌てたり、対応にまごついたりしない。オリジナルM3の価値ある本当の後継モデルといえるだろう。
しかし、レースから生まれながら、滑らかな乗り心地のE9が、公道車をレースサーキットで調整したE46より洗練されたロードカーだというのはなんとも皮肉だ。
最終的に勝利したのは、炎を吐くように過激なM3 CSLではなく、もっと陽気な3.0CSL「バットモービル」だった。
バットモービルはひとを引き込み、より大きな喜びをもたらしてくれるため、思わずドライバーも虜になってしまう。
もちろん性能はE46の方が一段上だが、高速でも低速でも楽しめるのは、クルマとストレートに会話できるE9の方だ。
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