■どんなクルマ?
アストン マーティンは今年のはじめ、ヴァンキッシュSのソフトトップオープン版、すなわち「ヴォランテ」を完成させていた。
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しかし、その頃はあまりにも寒く、初試乗はこの暑いさ中まで待つこととなった。
昨年、それもDB11の登場以降は特に、スーパーGTであるべきモデルが「スーパー」と呼ぶには十分ではないと、アストンは感じたようで、ヴァンキッシュを改良した。
そうして、2年の延命が図られたのがヴァンキッシュSである。
■どんな感じ?
2017年ヴァンキッシュS どう違う?
5.9ℓ(肩書的には6.0)の自然吸気V12は、トルクこそ64.3kg-mのままだが、パワーは573psから600psへアップした。
音量も増したが、これは抵抗が減少した新たなエグゾーストシステムによるもの。この排気系と、やはり改良された吸気系が、パワーアップに貢献している。すでにクーペで数千マイルを走っているが、そのサウンドは素晴らしく、少しも飽きるものではない。
ヴォランテならではの変更点も
クーペに施された空力対策は、ヴォランテのエクステリアにも受け継がれた。しかし、オープン化によって、クーペほど効果的に機能しないことが予想される。
クーペとヴォランテで最も大きく異なるのはサスペンションだ。従来から改良を受けたのはクーペもヴォランテも同様で、ジオメトリーやスプリング、スタビライザーは共有する。
しかし、ヴォランテは重量の増加と配分変化に対応して、アダプティブダンパーのレートが変更されている。
見ようによっては、このクルマはオールドスクールなコンバーチブルだ。ミドエンジンのモデルでは、オープン化での重量増加は50kg以下に抑えられるのが当たり前となりつつあり、剛性低下もほぼ認められない。
対してこのヴォランテは、フロントエンジンのアルミ構造を持つ2+2で、後席を持つ分だけキャビンが広く、オープン化では剛性を担う構造部材がより広範囲にわたって切り飛ばされることになる。
そこに重量のかさむ電動開閉機構と、遮音性や耐候性を追及したファブリックのフードを設置すると、補強も含めて100kg程度は車重が上乗せされてしまう。
「クーペorオープン」という次元ではない
クーペモデルよりスポーツ的な要素が損なわれるのは、やむを得ないところだ。しかし、クーペかオープンか、という選択にはならないように思われる。
ヴォランテの比較対象になるのは、フェラーリ・カリフォルニアTやロールス・ロイス・ドーン、ベントレー・コンチネンタルGTコンバーチブルといったところか。
そうしたライバルに対して、ヴォランテの競争力は高い。少なくとも、フェラーリ812スーパーファストまでも相手にしなくてはいけない市場に投入されたクーペよりは。
ライバルとの比較はともかく、オープン化は、クーペにあったヴァンキッシュSのキャラクターをいささかも損なうものではなかった。乗り心地は変わらず良好で、ボディコントロールもタイトなままだ。
たしかにバタつきはあるし、不整路面ではルームミラーにわずかながら震えが出る。ステアリングのキックバックや振動も、剛性の低下を感じさせる。
ただし思うことがある。
快楽を求める、すべての大人へ
そもそも剛性に非の打ち所がないスーパーGTを求めるユーザーは、コンバーチブルを選ばないだろう。それよりも、アストンらしいシャシーバランスが、オープンボディでも味わえる喜びを楽しんでほしい。
ステアリングはリニアなままであり、スロットルのレスポンスは爽快で、8段ATはほんのわずかな遊びを残しつつもしっかりと噛み合い、そのうえ素晴らしいサウンドは耳に届きやすくなっている。
■「買い」か?
このクルマは、現在の市場に出回っているうちでも最高のルックスを備えたコンバーチブルだ。
そして、おそらくはサウンドの面でもベストだろう。最高の1台かどうかは断言できないが、それに限りなく近いものではある。
完全バランスの12気筒で、サウンドを損ねるターボはなく、排気抵抗を減らすフリーフロー・エグゾーストを備えるのだ。
クーペより剛性面で劣るのは間違いない。しかし、コンバーチブル市場においては、極めて高い競争力のある1台だ。迷わず買っていい。
アストン マーティン・ヴァンキッシュSヴォランテ
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