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MotoGPコラム:さらば、ホルヘ・ロレンソ。18年の歴史で残した”足跡”

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MotoGPコラム:さらば、ホルヘ・ロレンソ。18年の歴史で残した”足跡”

 彼がグランプリにやってきたのは2002年。そのときの所属チームは、宇井陽一がエースライダーを務めていたデルビファクトリーだ。前年にチャンピオン争いを繰り広げて僅差でタイトルを逃した宇井のチームメイトとして登場したのだから、破格の厚遇といっていいだろう。しかし、開幕戦の鈴鹿と第2戦の南アフリカGPは、16歳の誕生日前で規定年齢に達していなかったために欠場し、地元の第3戦スペインGP、ヘレスサーキットで満を持してデビューを飾った。

 まだ挫折らしい挫折を経験していない若さゆえか、「まるでタメ口を利くような態度で接してくる」と宇井が苦笑気味に話していたような記憶がある。とはいえ、このシーズンの獲得ポイントは21点でランキングも21位と、それなりの結果だった。だが、125ccクラス2年目の2003年に、いきなり存在感を発揮しはじめた。

■「ロレンソは“真のチャンピオン”」マルケス、僚友の引退タイミングに敬意示す

 9月の第12戦リオGPで、ケーシー・ストーナー、アレックス・デ・アンジェリス、ダニ・ペドロサと四つ巴のバトルになり、初表彰台ながら劇的な優勝を達成した。0.232秒差で2位に終わったストーナーが、表彰台会見の席上で「今日のジョージはとても速かった」と述べた際には、一瞬、誰について述べているのかと混乱しかけた。だが、彼の名前が英語に訛化しているのだと気づいて、即座に得心がいった。この当時は彼らの相互認識もまだその程度のものだった、ということだろう。

 ところで、彼のキャッチフレーズにもなった〈ポル・フエラ〉(大外からのオーバーテイク、の意)は、たしかこのレースでの激しいバトルが由来になったのではなかったか。

 2005年から250ccクラスにステップアップし、2006年と07年にタイトルを連覇。2008年にヤマハファクトリーで最高峰へ昇格を果たす。開幕戦のカタールGPから3戦連続でポールポジションを獲得し、第3戦のポルトガルGPで優勝。ここから先の彼の活躍は、すでに多くの人の知るところだろう。

 250ccで2回、MotoGPで3回の世界チャンピオンを獲得したが、昨年の秋からケガが続いた。さらに今年の第8戦オランダGPでは、胸椎を骨折。長期欠場を強いられた矢先の第9戦ドイツGPで、降ってわいたように引退説がパドックを賑わせた。

 発信源になったのはイタリアのスポーツ新聞だ。「明日、ウチの新聞に載せるつもりだ」と、その情報を伝えてきた同紙記者の友人に対し、それは信じるに足る情報なのか、ウラは取ったのか、と尋ねたところ「信頼できる情報源だ」と意味深な笑みをうかべるのみだった。

 火種があったからこそ煙が上がったのか、あるいは煙が流れてきた結果、火の粉から発火するような事態に発展したのか。その経緯は、今後時間が経てば明らかになってゆくだろう。

「結果的には、おまえがザクセンリンクで言っていた情報が正しかったわけだな」

 彼が引退を発表した日の夕刻、くだんの友人にそう話すと

「でも、おまえ、おれの情報を信じてなかっただろう?」と、問い返してきた。

「いや、フィフティフィフティかな」と応えると、あのときと同じような意味深な笑みがその貌にうかんだ。

 彼が14日(木)午後に行った引退発表を受けて、チームマネージャーのアルベルト・プーチは「決意を聞いたのは、マレーシアのレース後。彼は、他人に対して心から感謝することのできる紳士的人物。彼のフェアプレイには本当に感銘を受けた。その彼を助けてやれなかったことが残念」と話した。

 ヤマハのマネージング・ディレクター、リン・ジャービスは「9年間彼を活動を共にしてきたので、特別な関係だった」と述べた。

「昨日の会見にはたくさんの人々が出席して、ライダーたちも全員が立ち会い、メディアもたくさん集まった。これは、彼が皆から尊敬されていた証拠。出会ったときは紅顔の若者だったのに、今は成熟した一個の大人になっている。彼と過ごした時代を振り返ると、とても楽しい思い出ばかりだ」

 ドゥカティのスポーティングディレクター、パオロ・チアバッティは「彼を獲得したのはチャンピオンを獲るためだったが、残念ながらそれは達成できなかった。2017年は厳しい一年だったが、次の年も彼は自信を喪わずに努力を続けた」と振り返った。

「彼はとても精密な乗り方で、エンジニアたちも懸命に働いた。ムジェロでは皮肉にも翌年に袂をわかつことが決まったが、そこから2連勝して、オーストリアでも勝ってくれた。本当に気持ちの大きい、素晴らしい人物。今後は素晴らしい人生を歩んでほしい」

 現在はチーム・スズキ・エクスターのチームマネージャーを務めているダビデ・ブリビオは「彼とはそんなに長く仕事をしなかったけれど、MotoGPにステップアップしてきたとき、テスト段階からすごく速かったことをよく覚えている」と、ともにヤマハに在籍していた時代を回顧した。

「バレンティーノ・ロッシがチームメイトだったのは、いろんな意味で難しかったと思う。厳しい関係だったかもしれないけれども、彼はレースでは同じ負け方をしなかった。それが非常に印象的で、いつも学んで改善し続けたことが、彼が成功した秘訣なのだろう。引退するのは残念だけれども、その決意は尊重したい。いろんなものをこのスポーツにもたらしてくれた。本当のタフガイだし、学ぶことの多い人物だと思う」

 ライダー生活最後のレースウィークになった初日金曜、彼はトップから1.145秒差の16番手で終えた。

「昨日の発表後、たくさんのメッセージを貰ったので、今朝は集中するのが難しかった。でも、ツナギを着てヘルメットを被ったら、いつもどおりに走りに専念できた」

 そう話す彼に、「日曜でレースキャリアを終えることになるが、たとえばケーシー・ストーナー氏が鈴鹿で一戦限りの復帰をしたように、今後、何らかの形で一回限りの復活をすることはありえるだろうか」と訊ねてみた。

「それは考えたことがなかったけど、ないと思うよ」

 と、彼は即答した。

「可能性が絶対にない、とはもちろん言わない。でも、今の段階ではそれはない、と思っている。日曜のレースの後は長い休日を迎えることになる。だから、最後のレースに集中したいんだ」

 そう言って、ホルヘ・ロレンソは笑顔を見せた。そこには、なにかを取り繕うような不自然さの陰はもはやなく、今シーズン初めて見る清々しさだけが満面にうかんでいた。

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