2019年は佐藤琢磨にとって、インディカー・シリーズでの参戦10シーズン目だった。
琢磨はインディカーに来て以来、数々の日本人初を記録してきた。
F1カメラマンの熱田護氏がF1取材500戦を記念した写真展を開催。佐藤琢磨をゲストに迎えトークイベントも
2011年にアイオワでポールポジションを獲得し、2013年にはロングビーチで初優勝。2017年には世界最大のレースであるインディアナポリス500マイルレースでの優勝まで果たし、2018年にはキャリア3勝目をシーズン終盤戦のポートランドで挙げた。通算PP獲得回数は2018年シーズン終了時点で7回となっていた。
節目となる参戦10年目、琢磨は自身初となるシーズン2勝を挙げ、PPも2回獲得。優勝した2戦以外でも2度の表彰台登壇を果たした。キャリア優勝数は「5」、PP獲得回数は「9」にまで増えた。
しかし、2019年の琢磨のシリーズランキングは9位。ダブルポイントの最終戦ラグナセカが21位と芳しくなかったことから、自己ベストの8位(2017年)を更新できなかった。
それでも、2019年が琢磨にとってキャリアベストのシーズンとなっていたのは間違いない。しかも、終盤戦のゲイトウェイでマークした勝利は、琢磨にとって初めてとなるショートオーバルでの優勝。
ストリート(ロングビーチ)、スーパースピードウェイ(インディアナポリス)、ロードコース(ポートランドとバーミンガム)と勝ってきた琢磨は、ついにインディカー・シリーズの全コースバリエーション制覇を成し遂げた。
これは現役ドライバーだとトニー・カナーン、スコット・ディクソン、ライアン・ハンター-レイ、ウィル・パワー、シモン・パジェノーの5人しか琢磨以外では達成していない快挙だ。
琢磨は42歳。現役ではカナーンに次ぐ年齢だが、この3シーズンで4勝を挙げており、今もシリーズトップレベル。……と言うより、琢磨の場合はインディカーへのデビュー時よりも、ここ数年の方がパフォーマンスは遥かに高くなっている。
インディカーでは経験豊富なベテランがオーバルで優位と言われるが、琢磨はオーバルで速いことに加えて、ストリートコースやロードコースでのスピードも失っていない。これは特殊な例で、インディカーを戦うドライバーたち、多くのチーム関係者から高く評価されている。
レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングは2019年シーズンに向けて、インディ500で過去3人にポールポジションを獲らせてきたエンジニア、アレン・マクドナルドを迎え入れた。
その結果、チームのスーパースピードウェイでの実力が向上。琢磨はレース序盤に周回遅れに陥ったが、それを跳ね除けて“2回目の優勝か!?”という目覚ましい走りを見せた。
結果は3位に終わったが、改めてアメリカにその名を知らしめた琢磨。40歳を過ぎても見せ続ける速さ、勇猛果敢なドライビング、勝利への強い執念、明るく前向きなコメント、親しみやすいキャラクター……いまのインディカーシリーズでの琢磨人気は凄まじい。
ファンが送る声援の大きさは、はっきり言ってアメリカ人チャンピオンのジョセフ・ニューガーデンに向けられるもの以上だ。琢磨が速さを維持、あるいは伸長させているのは、自分に必要なチーム体制を、豊富な経験を活かして整えているからだ。
チームの体制強化は、琢磨が目指しているものとシンクロしている。チームメイトの力も上手に活用し、琢磨はマシンのパフォーマンスを引き出している。
2019年の第14戦ポコノで1周目に多重アクシデントが起こると、“無謀なドライビングでアクシデントの原因を作った”と琢磨に非難が集中した。
チャンピオン争いをしているアレクサンダー・ロッシと琢磨は接触したのだが、彼がクラッシュし、タイトル争いで大きな不利を被る事態となったため、琢磨が批判されることになった。
しかし、自分が走行ラインを変えていなかったことに確信を持っていた琢磨は、「ロッシらの主張は間違っている」とアピール。SNSは炎上したものの、テレビ放映された以外のアングルからの映像を確認し、レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングが提出した琢磨のステアリング操作のデータも検討した結果、琢磨の見解が正しかったことが後に証明された。
犯人扱いを受け、精神的に追い込まれた面もあった琢磨だが、翌週のゲイトウェイで優勝。ポコノと同じオーバルでフェアに、クリーンに戦っての勝利、それも、1ラップダウンを跳ね返しての大逆転優勝を飾り、琢磨を非難していた世間を黙らせた。
逆にファイティングスピリットに溢れた走り、ゴール目前に繰り広げたカナーン、さらにはエド・カーペンターとのバトルに打ち勝って大歓声を浴びた。ポコノからの一連の騒動を乗り越えての勝利で、琢磨はアメリカのファンをさらに増やした。
2020年も琢磨はレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングで走る。この2シーズン、力を合わせて戦ってきたエンジニアリングスタッフたちは、結束力を高めており、2018年以上のパフォーマンスを発揮することとなるだろう。
一緒に3シーズン目を戦う琢磨とレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングには、これまで以上の期待がかかる。マシンはエアロスクリーン装着で重量が増え、バランスも変わるため、そのパッケージに合わせたセッティングのノウハウが必要にもなる。
これまでのチーム間の力関係がそのまま維持されるとは限らないわけで、琢磨とレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングにとってはひとつの大きなチャンスと言える。2019年よりひとつ多いシーズン3勝をマークし、チャンピオン争いを演じて欲しい。そうなる可能性は十分にある。
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