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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム番外編】1日の仕事スケジュールに、お給料事情。チーフレースエンジニアの気になるアレコレ

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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム番外編】1日の仕事スケジュールに、お給料事情。チーフレースエンジニアの気になるアレコレ

 今シーズンで4年目を迎えるハースF1チームと小松礼雄チーフレースエンジニア。シーズン中はレースやレースに関わる様々なことを語ってもらうこのコラムですが、今回はサマーブレイク中のため『番外編』ということで、小松エンジニアに通常のレースウィークには聞けないような質問事項を投げかけてみました。

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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第10回】ダブル入賞も、チームオーダー発令が決定。将来を左右する正念場で直面した課題と“プロセス”

Q:小松エンジニアのこれまでの愛車遍歴を教えてください。

小松礼雄チーフレースエンジニア(以下、小松エンジニア):(大学進学を機にイギリスへ行きましたが)最初はお金がなかったので、学生の頃はボクスホール(オペル)アストラのワゴン車に乗っていました。当時は学生寮に住んでいて、春休みや夏休みになると寮から出ないといけなかったので、荷物をたくさん積めるワゴン車を選びました。ポンコツでよくオーバーヒートする車で、何回ヘッドガスケットを変えたことか(笑)。

 大学院に進んでからは少しお給料が出るようになったので、フォードのエスコートMk1を買いました。後輪駆動で、めちゃくちゃ限界が低いのですぐにリヤが滑りオーバーステアが出るので、とても楽しかったです。

 この車は(佐藤)琢磨くんとイギリスF3を一緒にやっていた時も乗っていましたが、昔はよくラリーに使われていました。F3のテストでウェールズのペンブリー(昔はベネトンF1などもここでテストしていたことがある古い小さなサーキットです)に行ったときなどは、サーキットのスタッフが僕の車を見て「俺は昔この車でラリーをやっていたんだ! だから乗せてよ!」なんてとても喜んでくれたこともあります。

 僕は「別にいいけど、ブレーキがあまり良くないからね」と言っておいたのですが、このウェールズの人はラリーが大好きなので、すごく興奮して僕を助手席に乗せて走り出しました。

 1コーナーは結構急ブレーキをかけて入るコーナーなのですが、ブレーキのことを事前に伝えておいたのに、運転した人は『ブレーキが効かない! 止まらない!』と叫びながら慌ててハンドブレーキをかけていました(笑)。車を滑らせて走るのはとても上手で、その後は綺麗にドリフトしまくって走り、隣りに座っている僕はとても楽しかったです。

 エスコートMk1の後はミニに乗りました。ある時、隣に住んでいてMGメトロターボに乗っていたおばあさんが、車を壊してしまってもう必要ないというので、それを100ポンド(当時で多分2万円ぐらい?)で買い取って、その車の1.3リッターのターボをミニに載せ換えました。大学院生の時は学部の機材を自由に使うことができたので、バルクヘッドを切ったり、溶接したり、すべて自分でやりました。時間がかかりましたが、とても楽しかったです。

 ちなみにエスコートMk1の時も、買った時はサビだらけだったので、いろいろな箇所を自分で溶接しました。今はもう車を自分で直したり改造したりする機会がないので、懐かしい思い出です。

 BARホンダに就職してからは、会社のJAZZ(日本名フィット)を月賦で借りたのですが、このとき初めてサビのない車に乗りました(笑)。その後は海外でしか売っていないシビックを気に入って普段の足として乗っていましたが、天気の良い日に走りに行ったりサーキット走行会用にロータスのエキシージにも乗っていました。この車はホントに面白くて、毎回乗るたびに笑顔が出てしまいます。

 その後、子供ができてからはシビックからアウディA4のエステートに買い換えましたが、なんとかエキシージはキープ。最近ではアウディを売って、家族全員で乗れる4シーターのスポーツカーに乗っています。

Q:現役、引退を問わず、小松エンジニアが一番すごいと思ったドライバーと、理想のドライバーラインアップを教えてください。

小松エンジニア:一番すごいなと思ったドライバーは、やっぱりフェルナンド・アロンソですね。ルノーでチャンピオンを獲った年(2005、2006年)はもちろんですが、2009年に彼がチームに戻ってきたときに、フェルナンドほどクルマが出せるはずのない成績を出せる人はいないと思いました。

 フェルナンドはウエットコンディションのレースにおいて、みんながまだドライタイヤで走れない状況のなか、ひとりだけドライタイヤで走ることもできますよね。雨が降った2006年の中国GPでは、フェルナンドが早めにインターミディエイトタイヤからドライタイヤに交換して問題なく走れたので、その2周後くらいにチームメイトのフィジー(ジャンカルロ・フィジケラ)もタイヤ交換を行ったのですが、彼は思うように走れませんでした。

 なかでも一番すごいと思ったエピソードは、2006年にミシュランタイヤでテストをしていたときです。フェルナンドは新品タイヤを履いて最初の5周を走ると、そのタイヤが20周目や30周目にどうなるかといういうのを完璧にわかっているんです。

 それに、たとえば『25周でテストをしたいから、その周回数でタイヤを使い切るように走ってくれ』というと、フェルナンドは20周目か21周目くらいまではきちんとタイヤをセーブし、22周目からはタイムを上げてピットに戻ってきました。あとでデータを見てみると、インラップのセクター3ではもうタイヤが限界ギリギリだった、ということがありました。

 BARホンダ時代にはジェンソン(バトン)とタイヤテストをしていましたが、彼でさえタイヤを完璧に使い切ることができていませんでした。フェルナンドはとにかく感覚が鋭いのでしょう。彼は別次元でした。あとはオープニングラップでの動きもすごいですよね。勝負師だなと思います。

 いちばんきちんと見てみたかったドライバーラインアップは、ルイス・ハミルトンとフェルナンドです。2007年のマクラーレンで実現してはいますが、その後成長した全盛期のふたりが組んだらどうなるのかを見たかったです。

 現役に限らなければ、僕はネルソン・ピケと一緒のチームでやってみたかったですね。息子のネルソン・ピケJr.と仕事をしていた時に、実際に乗っているところを見たことがなくても、父親のすごさが伝わってきました。技術面の話をしていても、息子が理解していない部分を、現代のF1に乗っていないお父さんがスッと理解しているんです。頭良いなと思いました。

 そして何より、精神的にとてもタフです。あれだけの運転能力があって、頭が良くて、あそこまでメンタルが強いドライバーはなかなかいませんよね。ですから理想のラインアップは、僕が一番すごいなと思うフェルナンドと、ネルソンにしておきましょうか。

Q:チーフレースエンジニアのお給料事情を教えてください。

小松エンジニア:チームによって結構差があると思います。正確なところはわからないですが、最低でも2000万円、5000万円くらい出してるチームもあるでしょうね。役職は違いますが、ジェームス・アリソン(メルセデスのテクニカルディレクター)なんかはすごいと思いますよ。あのレベルの人たちは余裕で億単位だと思います。でもこれはあくまで単なる憶測で、事実を把握しているわけではまったくありません。

 エイドリアン・ニューウェイ(レッドブルのデザイナー)なんかはホントにケタ違いだと思います。でも、それがクリスチャン・ホーナー(レッドブルのチーム代表)のすごいところですよね。当時、トップチームを作るために数億単位のお金をドライバーに払うかニューウェイに払うかというところで、ニューウェイに払うと決めたのですから。その後のレッドブルの成功を見れば、これが正しい判断だったのは明らかです。

 チームとの契約形態も人によって様々です。パーマネント契約の人もいますし、3年契約や5年契約という年数別の人もいます。

Q:小松エンジニアがレース観戦をオススメする海外グランプリを教えてください。

小松エンジニア:オーストラリアGPはメルボルンという街自体がいいところですし、レースも開幕戦なので盛り上がります。カナダのモントリオールやアメリカのオースティンもとても楽しい街で盛り上がります。

 ハンガリーは街中からサーキットまでが少し遠いですが、ブダペストの街は本当に綺麗です。アブダビもフェラーリワールドやウォーターパークなど遊べるところもありますし、この5つのグランプリはレース観戦と観光の両方をバランスよく楽しめると思います。

 ベルギー、イギリス、オーストリアなど、昔からある伝統のレースもお勧めです。コース自体が面白いですし、ハードコアなファンが多く詰めかけ、他では味わえない雰囲気があります。ただ、街からは遠いので観光を兼ねたい人には向かないかもしれません。またキャンプして、BBQして飲んで楽しむという感じなので、アウトドア派には特にお勧めです。

■「ファクトリーでのスケジュールは、1日の7割が会議で埋まることも」
Q:ファクトリーではどのようなスケジュールで働いていますか?

小松エンジニア:グランプリが終わってイギリスに帰ってきた後、レースが2週連続開催ではない場合だと、月曜日にまずは前回のレースで何が壊れたのかなど不具合を話し合う会議があります。次のレースまでに何を直さないといけないのか、何を優先すべきかなど、信頼性関連のことを話します。

 あとはクルマの性能解析に関わっている人たちで、前日までのレースを振り返ってもっと良い成績を出すには何が欠けていたのかを話し合います。時間が限られているので、データを解析する前に、何を解析しようかという問題意識の確認と共有が必要です。

 スタッフには火曜日から木曜日の間にデータ解析をやってもらいます。僕はその週によって異なるのですが、レースに関係のないところでもいろいろなプロジェクトがあるので、火曜日はそういうものに関する会議をしたりしています。1日の7割以上が会議で埋まることもありますね。水曜日はシニアマネージメントの会議があったり、木曜日には開発会議や、解析結果をまとめた会議があります。

 レースがない週には、スタッフにも金曜日に代休を取らせています。僕は大体代休をとっても家で仕事をしていますが、それでも子供を学校に送ったり、一緒にお昼を食べたり、迎えに行ったりできるので、一年の半分はレースやテストで家にいない僕には貴重な時間です。

Q:出社時間、退勤時間は何時くらいですか?

小松エンジニア:グランプリから帰ってきた後の月曜日は10時か10時半には出社しますが、それ以外は8時くらいです。夜は家で家族とご飯を食べたいので、18時半には会社を出るようにしていて、子供を寝かせてから少し家で仕事をします。

Q:会議が多いようですが、スケジュールや時間はどのように決めていますか?

小松エンジニア:定例で行われる会議もありますが、僕が日程を決めないと始まらないことも多いので、例えば1週間の間に行われる会議のうち7割くらいは僕がスケジュールを決める場合もあります。会議の間に面接をやったりもしますね。

 会議は必ず時間を区切って行います。そうでないとその次の作業が進まないですし、その会議を元に仕事をしてもらわないといけないですからね。たとえばクルマのパフォーマンスを振り返るミーティングだったら、まずは何を問題としているのか、誰がどの作業をするのかというのを確認して終わります。その時は結論を出さなくてもいいんです。そして3日後のミーティングで、作業結果を報告してもらいます。

 あまり時間もないし、集中力も切れるので、会議時間は最大でも1時間半にしたいと思っています。僕はとにかくダラダラとやるのが嫌いなので、集中して効率よく仕事をして、なるべく早く帰って家族と過ごしてオンとオフをつけるようにしています。とは言っても仕事は膨大にあるので、残っていることは夜に自宅でやっています。

 どんなに忙しくても最近はお昼に時間を取って、ジムで体を動かしています。昔はお昼休みを取らないで仕事をしていたこともありましたが、それだと午後からの生産性が落ちる気がしました。だからどんなに忙しくても、12時半から13時半の間はミーティングの依頼を断るようにして、ファクトリー内のジムで気分転換しています。

Q:レースウィークの移動スケジュールを教えてください。

小松エンジニア:基本的に開催国に到着するのが水曜日。翌日の木曜日の朝9時にはサーキットに入り、11時にはクルマのエンジンをかけ始めます。帰りは、ヨーロッパラウンドであれば日曜日の夜18時か19時にはサーキットを出ますが、これが飛行機に間に合うギリギリの時間です。家に帰るのは、日付が変わって月曜日の1時とか2時くらいです。

 オーストラリアGPや日本GPを含めたフライアウェイの場合は、火曜日に現地に着いて、水曜日の朝から仕事。帰りは月曜日に出国して、火曜日の夜にイギリスに戻ります。アブダビだと火曜日に出発して、火曜日の夜にイギリスへ戻ってきます。

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