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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第3回】苦戦を強いられた中国GP。アタックできずに終わった予選の駆け引きの裏事情

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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第3回】苦戦を強いられた中国GP。アタックできずに終わった予選の駆け引きの裏事情

 今シーズンで4年目を迎えるハースF1チームと、小松礼雄チーフエンジニア。中国GPでは“この週末は戦える”と思っていた矢先に、予選でアタックのタイミングを逃し、決勝レースでは自分たちの目標とするところに届かなかった。一体、彼らに何があったのだろうか。小松エンジニアが現場の事情をお届けします。

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ハースF1代表、決勝で悩むタイヤの問題解決には時間がかかると主張。「バクーも難しいコースになる」

 前戦、第2戦バーレーンGP後のインシーズンテストを終えて、バーレーンGPでは何が問題だったのかがわかったので、第3戦中国GPでは『これをターゲットにしよう』というのがはっきりしていました。ただ金曜日の時点でレースがどうなるかと不安だったのですが、残念ながらレースではその不安が的中してしまいました。

 金曜日から振り返ると、この日はタイヤがうまく機能しなくて大変でしたが、自分たちのターゲットは明確になっているので、タイムがあまり良くなくてもパニックになることはありませんでした。土曜日のフリー走行3回目(FP3)では赤旗でタイムこそ出せなかったものの新タイヤでは良い感触を掴むこともできたので、予選は大丈夫だと思っていました。

 予選は、とにかくQ3進出が際どかったので、Q2からはスリップストリームを使って少しでも良いタイムを出そうとしました。今年のクルマは空気抵抗がすごく大きいので、特に中国のような直線が長いサーキットでは、接戦の中団争いでライバルを倒してQ3に進むためにはスリップストリームの効果が重要になってきます。Q2は予定通りうまくいったので2台揃ってQ3に進めました。金曜日の時点では2台揃ってQ3進出は厳しいかなと思っていたのでよかったです。メルセデスとフェラーリ以外にこれまでの3レース全てで2台揃ってQ3進出を果たせたのはウチだけなので、4年目の今年にやっと安定して予選で速さを発揮できるようになったのは収穫です。

 Q3では新品タイヤが1セットしか残っていなかったので、まずはクルマを温めるために中古のタイヤで1度コースに出ましたが、この時点でタイムを出すつもりはありませんでした。いよいよ勝負の2回目のアタックではどうしてもスリップストリームを使いたかったので、エンジンをかけて、タイヤもブランケットをかけているだけの状態にして他のドライバーがコースに出て行くのを待っていました。でも考えることは皆同じで、誰も出ていかないんです(苦笑)。通常はアウトラップにかかる時間を計算して、それに加えて数十秒のマージンを持つのですが、今回は僕が目安としている時間を切っても誰もコースに出て行きませんでした。

 最後にやっとメルセデスがガレージから出て行くのを見た瞬間に、僕はウチのメカニックにクルマを出すように指示を出しました。しかしメルセデスが出るとフェラーリもレッドブルも、僕らの隣のガレージのルノーもみんな一斉に出てくるわけです。ピットレーンの並びからして、Q3に進んだ5チームの中ではウチが一番ピットレーン出口に近いので、誰かがすでにピットロードを走ってきている場合はなかなかをクルマを出来ません。

 メルセデスが出て行った後に一瞬のギャップがあったので、ドライバーもメカニックも迷わずそこにマシンを出すことができていれば、少なくともケビン(マグヌッセン)はアタックできたと思います。そうすればロマン(グロージャン)もアタックできるチャンスは十分にありました。

 ですが、そこでケビンと彼のナンバー1メカニックが出て行くのをためらってしまいました。ガレージからクルマを出した時に他のクルマとぶつかるようなことがあってはいけないので、ピットレーンを走ってきているクルマの間を探して出さなければばいけません。もし他のクルマの妨害をしてしまった場合はアンセーフリリースといってペナルティーが科せられます。

 また今回のレースではケビンが先に出て行くことになっていたので、彼が出ていかないとロマンはコースに出られません。というのも、どちらが先にアタックをするのかというのは、シーズンが始まった時点でチーム内ですでに決めているからです。昨年のオーストリアGPではダニエル・リカルド(当時レッドブル)が走行順を巡ってアウトラップの最中に不満を口にしていましたが、そういうことは事前に決まっているはずなので走行中にあのようなことを言うのはありえないことです。

 とにかく、今回はメルセデスの後ろでコースに出られなかったので予定より大きく遅れてしまいました。ルノーの2台とフェラーリの2台、それにレッドブル・ホンダの1台が出て行ったあとでケビンを出して、もう1台のレッドブル・ホンダを挟んでロマンが最後に出て行きましたが……最悪の状況となってしまいました。

 もちろんこの時点で、本当に急がないとアタックをする時間がないというのはわかっていました。ケビンの前を走っていたセバスチャン・ベッテル(フェラーリ)はアウトラップでレッドブルとルノーの計3台を抜いて行きましたが、彼はきちんと状況を把握していたのだと思います。

 ウチのドライバーにも「マージンがないから急いで」と言ったのですが、言い方が甘かったというのが反省点です。「タイムを出すのに間に合わないから、とにかく追い抜けるだけ前のクルマを追い抜いて全開で行ってくれ」と言っていれば、アタックできていたかもしれません。ケビンがターン7のあたりにきたところで更に急ぐように伝えたのですが、「スペースを作らないといけない」と返事が返ってきたので、彼には本当に時間がないということが伝わっていなかったようです。

 ベッテルがアタックラップに入ったのは、Q3残り時間6秒くらいでした。ベッテルに追い抜かれたニコ・ヒュルケンベルグ(ルノー)がスタート/フィニッシュラインを通過した時で残り4秒、リカルドにいたっては1秒ないくらいでした。僕の憶えている限り、予選で4台も時間切れとなってアタックを開始出来なかったことはありません。その4台の中にウチのクルマが2台共いたというのは大きな反省点です。

■目標に到達できなかった理由は「クルマの特性」
 決勝レースでは、金曜日の時点で抱えていた不安が出てしまいました。ドライバーふたりはレースペースが課題だと言っていましたが、もちろんその認識は僕も同じです。バーレーンで問題の原因を理解して、何を自分たちのターゲットにするべきかというのが判っていたものの、今持っているクルマではそこまで到達できませんでした。

 その理由はウチのクルマの特性にあって、今使っている部品では自分たちの目標とするところに到達できないんです。それに問題の原因がわかったからといって、すぐに中国GPで部品を変えられるわけでもありません。僕は今持っている部品でもどうにかできると思っていたんですけど、残念ながら無理でした。

 この問題を根本的に解決できるのは、バルセロナ(スペインGP)以降だと思います。ですからその前のアゼルバイジャンGPは今回の中国以上に大きなチャレンジになります。なんとか新しい部品を持って行きますが、それで全て補えるかどうかはまだわかりません。

 バクーは直線が長いので抵抗を減らす為にダウンフォースを削らないといけないし、それでいて低速の直角コーナーがあるので、なかなか難しいサーキットです。やはり予選よりもレースの方が心配ではありますが、バーレーンと中国では何が問題だったのかというのもわかっているので、バクーでは金曜日からそれに集中してなんとか良い予選とレースをしてポイントを獲ってヨーロッパ戦に向かいたいものです。

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