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スポーツ 2019.3.7

【HRD Sakura独占取材】「テストベンチは面白い!」第1回:テストベンチの役割とは?

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 レース現場で取材をしていると、時折思いもしていないような話にぶつかることがある。

 ホンダのスーパーGTとスーパーフォーミュラのラージプロジェクトリーダー(LPL)を務める佐伯昌浩氏は、我々がサーキットで、よく話を訊く人物のひとりだ。その彼は、ことあるごとにこう言った。

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「テストベンチは面白いよ」

 テストベンチとは、実戦投入を目指して開発されたエンジンの性能を、研究所で実際にチェックする設備……我々としてはそういう理解である。しかしそこでどんなことが行われているのか、どんな人が実際に担当しているのか、そして真の目的は一体どこにあるのか……知ったような気になっているだけなのではないか?

 そう思った我々は、佐伯氏、そしてホンダに協力をお願いし、同社のモータースポーツ開発の心臓部であるHRD Sakuraを訪問。直接話を訊くことができた。

 テストベンチとは、エンジンを開発するうえで、欠かせない手順のひとつということができよう。しかし、一体どこで活躍するのだろうか? それには、まずエンジンがどうやって開発されていくのか、その手順を知らなければならない。

「まずはレギュレーションを読み込み、そのカテゴリーに出るためのエンジンの”コンセプト”を決めます」

 そう佐伯LPLは説明する。

「このカテゴリー(のエンジン)は重心高をどうしたいのか、多少重量がオーバーしてもパワーに振るべきなのか……そういうコンセプトもあります。それと、勝つためにはトルクと特性をどうするかなど、性能面でのコンセプトも重要。このふたつが、開発の方針を決める上で大きなモノになると思います」

「そこから各部品の担当者が、そのレギュレーションの中でベストのパフォーマンスを発揮できるパーツの仕様を決めます。それを持ち寄って、何度も会議を重ねて、パッケージングが決まったところで図面を書き始めます」

 佐伯LPL曰く、このパッケージングを決めるための会議に、非常に長い時間を費やすという。「カテゴリーにもよる」ということだが、長い時にはこの会議を、数カ月にもわたって繰り返す事もあるようだ。

 そうやって決められた仕様に沿って作られたパーツがひとつに組み合わされ、エンジンの形となる。ここから活躍するのがテストベンチである。

 テストベンチとは、施設内でエンジンを作動させ、実際にマシンを走行させる事なく、そのパフォーマンス等をチェックする設備である。燃料を注入し、エンジンを作動させるため、吸排気系は建物の外部と繋げられている。そしてマシンに搭載される時と同じ状況を再現するため、繋がれたコンピュータ・ユニットには、様々な走行データが入れられ、まさにサーキットを走っている状況を再現しているのだ。

 なお、以前は完成版のエンジンをテストベンチで動かす前に、各パーツごとに動作をチェックする事もあったという。しかし現在はシミュレーション技術の発達、そしてこれまでの経験値の蓄積により、完全に組み上げた状態からベンチテストがスタートすることが多いようだ。

 また、エンジンを単気筒で動かすというテストも、今ではほとんど行わないという。

「予算があれば、我々も単気筒を作って、徹底的にテストしたいですね」

 佐伯LPLはそう語る。

「単気筒はパーツ点数が少ないですから組み換えも早いですし、仕様違いのテストを短期間で集中して行うことができます。エンジンを完全に組み上げた段階では、パーツを交換するのに時間がかかってしまいますから」

「ただ難しいのは、単気筒で例えば1馬力上がっても、それを4気筒に組み上げた時に必ずしも4馬力上がるということにはならないということです。エンジンブロックの肉厚も異なりますから熱膨張率も変わってきますし、排気流も変わることでパワーの出方が変わるということもありますからね」

 完成したエンジンを最初に作動させる時も、当然そう簡単にはいかない。想定したデータ、パフォーマンスを基に作り上げられた試作エンジンだが、テストベンチでの最初のデータは、想定とは「だいたい合わない」という。

 そう語るのは、ホンダのHRD Sakuraでベンチテストのオペレーションを担当する河合康平である。河合は主に、スーパーGT用エンジンの開発に携わっている。

「僕は入社して10年目なのですが、今まで経験してきた中では、だいたい目論見通りにはいかないです。それは僕らの検討が甘かった部分もありますが、エンジンが少し変わるだけでも、過去の事象とは異なることが起きてしまいます」

「エンジン内部では燃焼が起き、それをパワーに変えています。燃焼は化学変化なので、どうしても捉えきれないところがあるんです」

「それを目標値に近づけて行くのが、僕たちの仕事です」

 様々な分野のシミュレーション技術は、格段に進化している。例えばレーシングカーの空力も、現在ではCFD(計算流体力学)を多用する時代になってきた。

 シミュレーションと”だいたい合わない”理由はどこにあるのか? それを問うと、佐伯LPLは次のように説明してくれた。

「普通のNA(自然吸気)エンジンなどは、ノウハウが蓄積されたという事もあって、シミュレーションがかなり合うところまではきています。最初の段階で、ほぼベストな諸元は出せるようになっています」

「ただ、NRE(スーパーGTとスーパーフォーミュラで使われている、”ニッポン・レース・エンジン)やF1はちょっと世界が違いすぎて……シミュレーションや我々が想定したことの遥か上を行っています」

「燃料流量規制が行われるようになったことが大きいです。少ない燃料を燃やし切って、パワーを出す技術……つまり熱効率ですね。空気はいくら使ってもいいけど、使える燃料は決まっているということは、燃焼圧力を最大まで上げていくしかないんです」

「短期間で急速に燃料を燃やして、その爆発の圧力でエンジンの仕事量を変えていく……それを行わないと、性能向上はできないんですよね」

「今まで我々がガソリンエンジンで経験したことのないような燃焼圧力に、耐えられるエンジンにしなければいけません。経験値以上のモノを目指さなければいけない。だからこのレギュレーションは面白いんです。まだまだ、探していけば詰められる要素があると思いますよ」

 それを突き詰めていくのも、テストベンチの仕事だ。

「最初にエンジンを動かして、それで終了ではないです。シミュレーションの段階で様々な方向性や可能性が見えていますし、その時点で悩んでいる部品については、何パターンか作ってある。そしてその比較テストをどんどんやっていきます」

「繰り返し行うテストの結果は、我々の想定に対して良くなるか悪くなるかのどちらかなんですよ。でも、良かれと思って作った部品が良い方向に行かないというのがこの世界。ただ悪い方向に行ってしまっても、『それじゃあその逆を行ってみよう』という逆転の発想もできます。それを繰り返して、耐久試験までに仕様を決めることになります」

 まず最優先とされるのが、エンジンのパフォーマンス面。目指すべき性能を満たしているか……それが確認する作業だ。

「出来上がってきたエンジンの性能評価を、まず最初にします。それで出力が足りなければ、別の部品を入れて性能を比較します。そこで優劣を判断し、その要因を分析。その傾向を捉えて、次の方向性も決定します」

 河合はそう説明するが、ただ性能だけを追求するだけではない。必要な距離を走り切るための信頼性も当然確保しなければならない。

「ピークパワーやトルク特性を上げていくのが性能試験の一部です。それと並行して動いているのが、信頼性の確認です。ひと言で言えば”信頼性”ということですが、ただ壊れないというだけではなく、どういう風に走れば、信頼性を確保できるか……という検討もしなければいけません」

「信頼性試験の中で肝というか、大事なことは……信頼性テストでは”目標としている距離または時間で絶対に壊れない”ということを確認しておかなければいけません。レースエンジンは限界を攻めていますから、どうしても想定していないところで、壊れたりもするんです」

 その想定外のトラブルの原因がどこにあったのか? それを解析するのも、テストベンチの重要な仕事のひとつだ。そのためにトラブルが起きたのと同仕様のエンジンを、テストベンチで動かす。その時には、実際の走行データが使われ、トラブルが起きた時と同じ状況を再現する。

 ただその”検証試験”を行う際、そのテストを有効なモノにするためにも、様々な極意がある……。

(次回に続く)

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(motorsport.com 日本版 田中健一)

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