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ホンダRC213Vの強さ徹底解剖。開発のキモは「スイートスポットの広さ」/MotoGPインタビュー前編

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ホンダRC213Vの強さ徹底解剖。開発のキモは「スイートスポットの広さ」/MotoGPインタビュー前編

 世界のサーキットで熱いドラマが展開された2018年シーズンのMotoGP。最高峰クラスでホンダが2年連続3冠(コンストラクター、チーム、ライダー)を達成した原動力となったのが、ホンダRC213Vである。ホンダ・レーシング・コーポレーション(HRC)でレース部門の責任者を務める桒田哲宏氏に、その強さの秘訣を聞いた。

■勝てるレースできっちり勝っていく戦略が大事
 レプソル・ホンダ・チームは2018年シーズンにおいて、2年連続3冠を獲得している。その圧倒的な強さはどこからくるものなのだろうか。

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「我々としてはぜんぜん圧倒的だったとは思っていないですよ。ここ数年、ライバルとトータルパフォーマンスの差が縮まってきています。最終戦までもつれ込んだ2017年は特にそうでした。ヤマハとは昔からいい勝負でしたが、それに加えてドゥカティが強くなっているし、2018年はスズキも調子を上げてきた。簡単には勝たせてくれませんよ」

 傍から見るほど楽勝というわけではなかったようだ。勝てる要素として、チームとマシンとライダーの、どれが欠けてもダメ。3つの実力がそろわないと勝てないため、そこをきっちり整える努力をしているそうだ。

「マルク(・マルケス)やダニ(・ペドロサ)たちライダーも、メンタルも含めて常に上を見てトレーニングに励んでいます。チームとしてもライダーを支えつつ、マシンの方向性を見極めて開発を進めています」

 自分たちの強み、弱みを把握して、どこを中心に開発を進めれば良い結果が出るのか、ライダーが戦いやすいマシンになるのかなど、選択と集中を繰り返しながら目標を立てて開発は進められていく。今のご時世、HRCほどの超一流コンストラクターでも、湯水のように予算を使えるわけではないのだ。

「すべてのサーキットで勝てるわけではありません。それが理想ではあるけれど、現実的には難しい。ではどこで勝つか。勝てるところではきちんとポイントを取って、苦手なコースでも表彰台は逃さない。年間を通じた戦略が大事になってきます」

 ホンダにとっての強み、弱みとは何なのだろう。この究極とも言える質問に桒田氏はこう答える。

「最近のホンダのMotoGPマシンはブレーキングには強いと言えますが、逆にコーナー脱出からの加速が弱くなっていると感じます。ライダーの乗り方にもよると思いますが」

「また、タイヤがミシュランになったことも影響しているかもしれません。タイヤの個性をどう使いこなしていくかは、大きな課題です。そのためには、開発でもスイートスポットが広いマシンに仕上げていく必要があると考えます」

 2ストローク500cc時代から『パワーのホンダ』のイメージが強いが、今はそう言い切れないらしい。それはホンダが弱くなったのではなく、周りが強くなっているからだという。

 パワーと聞くとエンジン出力だと思われそうだが、それだけではなく空力やトラクション性能など、トータルパッケージとしてパフォーマンスを上げていかなければ、勝てない時代なのだ。

■スイートスポットの広さのぶんだけ強さになる
 2016年シーズンから供給されているミシュランタイヤは、以前のワンメイクタイヤサプライヤーだったブリヂストンと比べてどうなのか。

「ミシュランタイヤは、最初は苦労しましたね。最近は性能が安定してきましたが、当初はフロントのフィーリングがつかみにくかった。その点、ブリヂストンタイヤはフロントがわかりやすく、ライダーにも好評でした」

「一方、ミシュランはリヤのグリップに優れるなど、それぞれ違った個性とメリットがあります。年々マシンも進化するので、一概には比較できません。我々としては与えられた条件のなかで、いかに速く走るか。頭を切り替えてパッケージとして良いマシンを造ることを意識しています」

 MotoGP用タイヤは毎年改良されて、進化していく。コンストラクターとしてマシンに合う特性をリクエストすることはできるが、タイヤサプライヤーが公平性を重視する立場にあることはミシュランでもブリヂストンでも同じである。

「我々が特殊なのか、みんなもそう言っているのか、しっかり見極めなくてはならないですね。その上で、そういう(タイヤなどの)外的変化に強くスイートスポットの広いマシンを造る必要があります」

「一発は速いけれどセッティングがピンポイントで扱いづらいマシンでは、コンスタントに結果を出せません。スイートスポットが広いマシンが、最終的には強いと思います」

■数値化が難しい空力カウルの効果
 MotoGPマシンは毎シーズン進化していくが、見た目でそれがわかりやすい部分といえばカウル形状だろう。特に空力デザインはここ数年で劇的に変化しているように見えるが、そもそもカウルに求められる性能とは何だろう。

「たしかに空力に関しては、見た目が違うのでわかりやすいと思います。カウルの役割としては風の抵抗を減らすことにあります。ただ減らすだけでなく、マシンが浮き上がろうとする力にも対応しなくてはなりません。飛行機の逆ですね」

「もうひとつはハンドリングで、これが悪いとライダーは体力を消耗してしまいます。レース後半でへとへとになってしまっては、コンスタントに結果が出せなくなりますよね」

「また、冷却性能も大事です。しかし、風を入れすぎると抵抗になる。そこで、フロントのエアダクトのデザインにも工夫が求められるのです。簡単に言うと過給しているわけですが、その場所や形状が悪いと本来100欲しいものが50になってしまいます。これらの要素をトータルで考えています」

 カウル形状の変化については、特にウイングに関わるレギュレーションが大きく影響しているようだ。ウイングの役割は主にハイパワー化するマシンのフロントリフトを抑止して加速につなげるために導入されてきたが、2016年にその危険性が指摘され、2017年からウイングレットの使用が禁止されている。

 各メーカーとも工夫を凝らしているが、ホンダRC213Vもレギュレーション範囲内の大型ウイングレットや3枚羽タイプ、そして2017型のインナーカウル型を経て、2018型はF1のサイドポンツーンを思わせるブリスターカウルへと進化している。

「ウイングは前に着けるほど効果的ですが、やりすぎるとかえって抵抗が増えてしまうし、フロントを押さえるとハンドリングが悪化することもあります。ライディングの邪魔にならないようシミュレーションしていますが、数値化が難しい。もちろん実装テストも繰り返していますが、非常に難しい部分なんです。ライダーによっても求める要件が異なるからです」

「たとえばダニは体が小さいためマシンの上で動ける範囲が狭く、大柄なライダーのように体力でマシンを振り回すような走りはできないので、特に切り返しなどは軽快性を欲しがります。ハンドリングが重いとライダーの体力的な部分にも影響するわけです。マシンを見ればおわかりかと思いますが、マルク用とダニ用ではカウル形状が異なっています」

 2018年シーズンは第5戦フランスGPから新型ウイングが投入された。そのタイミングや理由について、桒田氏はこう語る。

「シーズン前半戦は新しいマシンを使い込んで慣れていく時期なので、冒険はしたくない。特にウイングはシーズン中に一回しか変更できないので、どうせなら効果の高いものを(投入したい)と思っていました」

「当然ライバルチームも同じことを考えているので、なるべく早いタイミングで投入したかったのですが、ある程度効果がわかってきたところで、ということです。昔みたいに何でもポンポン変えられないので、難しくなりましたね」

■インタビュー後編へ続く

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