第18戦マレーシアGPのMoto3クラス決勝レースで、ホルヘ・マルティン(Del Conca Gresini Moto3/Honda)が今季7勝目を挙げて2018年のチャンピオンを確定させた。
予選では毎回圧倒的な速さを見せて、今大会でもシーズン11回目のポールポジション(クラス通算20回目)を獲得したが、年間総合優勝の獲得に関しては、危うさも漂わせた状態でシーズン最後の2戦に差し掛かっていた。
MotoGPコラム:速さと巧さを兼ね備えたマルティン。その秘訣とは
今回の決勝レースを前に、マルティン以外に計算上チャンピオンの可能性を残していた選手は、チームメイトのファビオ・ディ・ジャンアントニオと、KTM勢のマルコ・ベゼッキ(Redox Purestel GP)。ベゼッキとは12ポイント、ジャンアントニオとは20ポイントの差で、両選手に対してマレーシアGP終了段階でそれぞれ25点以上の差を開いていると、マルティンの王座が確定する。
だが、ベゼッキ、ジャンアントニオともに表彰台の常連で、Moto3クラスの毎回の大混戦を考えると、最終戦まで持ち越すことも充分に考えられた。
レースは終盤にマルティンが集団を抜け出して一気に大差を築き、ベゼッキ5位、ジャンアントニオが6位でレースを終えてポイント差が26と35点になったことにより、タイトル争いの帰趨が決した。
「序盤から引き離したかったけど、路面がまだ濡れていて難しかった。その後、路面が乾いてきて勝負どころだと思ったときにも、マルコが常に抜き返してきてなかなか引き離せなかった。大集団のバトルで自分がトップに立ったときに、ここだ、と思ってそこから3ラップは思いきり攻めた」と、レース後にマルティンはこの日の展開を振り返った。
Moto3クラスの新王者は、参戦4年目の20歳。「ウチは裕福な家庭ではなかったので、ルーキーズカップの選考に漏れたらレースを辞めようと思っていた」と少年時代を振り返る。2014年にMotoGPルーキーズカップのタイトルを獲得し、翌年の2015年から世界選手権への参戦を開始した。
最初の2年はマヒンドラのマシンで苦戦が続いたが、2017年にホンダ陣営の現チームへ移籍してから一気に速さを発揮しはじめた。予選ではポールポジション、決勝でも連続して表彰台へ登壇するようになったこの当時の彼に、突然の好成績に自分でも驚いているのか、と訊ねてみたことがあった。
マルティンは日本人のような謙遜をいっさい見せることなく「僕自身は速いライダーなんだよ。僕の速さを発揮できるマシンに今年から乗れるようになって、結果が出るようになってきたんだ」と臆することなく答えた。自分自身に対する揺るぎない自信が、なにより印象的だった。
今年の7月上旬に当コラムで彼を取り上げた際には、彼とのインタビューを通じて精神的な強さの一端を紹介した。だが、日本風に「不動心」や「克己」と表現したくなるほどの彼の強靱な精神力が本領を発揮したのは、今シーズンも後半戦に差し掛かり、ベゼッキたちとのチャンピオン争いが激しくなりはじめて以降のことだ。
夏休み明けの第10戦チェコGP初日に転倒して、左手首を骨折。スペインへ帰国して手術を余儀なくされた。以後数戦の欠場も予想されたが、翌週のオーストリアGPで復帰し、しかも最後まで優勝争いを繰り広げて3位表彰台を獲得した。10月上旬のタイGPでは、レースウィーク中のスポーツマッサージで治癒後間もない左手の神経をいためてしまい、指を開けなくなるという予想外のトラブルにも見舞われた。
これらの例を見ればわかるように、今シーズンのマルティンはけっして順風満帆にチャンピオン街道を進んできたわけではない。これらの怪我やトラブルに次々と見舞われたときに、『もうタイトル争いは無理なのでは……』と諦めかけた瞬間はなかったのか、王座を獲得して間もない彼に訊ねてみた。
「もちろん厳しい一年だったけど、けっして諦めなかったよ」
マルティンはレースが終わっても止まらない汗を額から滴らせながら、笑顔でそう答えた。
「これ以上がんばりたくない、あまりもうハードに攻めたくない、と思う瞬間もあった。でも、自分を信じる気持ちは揺るがなかったし、毎戦全力で戦ってきた。ブリラム(タイGP)で金曜に手が開かなくなったときは、欠場も考えた。でも、医療チームがテーピングを施してくれて、スペシャルグローブも用意してくれたおかげでレースをできた。絶対に諦めないようにと、僕を支えて応援してくれた人々とチームには本当に感謝している」
マルティンは、2019年にKTMファクトリーチームからMoto2クラスへステップアップする。そして遠からず数年のうちに、彼は必ずや最高峰クラスへ昇格してくる。それは、いまここで請け合ってもいい。
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