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6時間の耐久戦で勝負を決めた、可夢偉の一瞬の判断。「チームはインターと言ったけど、僕は『お願いだからスリック!』と」

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6時間の耐久戦で勝負を決めた、可夢偉の一瞬の判断。「チームはインターと言ったけど、僕は『お願いだからスリック!』と」

 小林可夢偉率いるトヨタ7号車TS050が見事、母国レースの2018年WEC世界耐久選手権富士6時間レースを制した。可夢偉にとってWECのスーパーシーズンで初めての勝利。WECの勝利も2016年の富士戦以来となる2年ぶりの勝利となった。チームメイトでありライバルでもある中嶋一貴組の8号車との戦いをレース後に振り返った可夢偉。今回の勝利は、富士を知り尽くした可夢偉の経験と感覚がキーとなった。

 前日の予選でトップタイムをマークしながらも、最初にアタックしたチームメイトのホセ-マリア・ロペスのピットレーン速度違反によって、タイム抹消のペナルティとなってしまい、LMP1クラスで最後尾となる8番グリッドスタートとなった可夢偉組の7号車。ポールポジションからスタートする中嶋一貴組の8号車を抜いて優勝するために、可夢偉は策を練って実行した。

小林可夢偉擁する7号車トヨタが2018年WEC富士制覇。ポール剥奪、第3戦失格処分の流れ断ち切り大逆転

「スタートはウエットカットのタイヤで行きました。ウエットタイヤの表面にあるブロックをカットして溝を増やしたタイヤです。それを選んだのは、まずはセーフティカーが入ったらタイヤが冷えるし、路面状況としては風があまりないから、そんなに簡単には乾かないと読みました」

「最初のスティントは27周走ればいいので、スタートで最初、雨でタイヤが温まらなくてゴタゴタして抜けないよりも、(溝が多くて温まりやすいウエットカットで)最初にズバッと前に出て、そこからタイヤがタレても1周コンマ数秒落ちで走れれば、とりあえず8号車との勝負権が出てくるかなと」と、可夢偉。

 この富士戦から、TS050は性能調整“EoT(イクイバレンス・オブ・テクノロジー=技術の均衡)”によって前回より26kgのウエイトハンデを搭載することになり、さらにライバルのLMP1のマシンは燃料流量が上がり、直線スピードではTS050をしのぐ速度になった。1周のタイムではまだまだTS050が速くても、普通にドライの状態で走れば、これまで以上に抜くのに時間がかかるのは明白だった。可夢偉はドライになって勝負をするよりも、雨のスタートで混雑する機会を全力で活かせるプランを選んだのだ。

 ウエットコンディションのスタートに賭けた可夢偉はウエットタイヤをカットしたウエットカットで臨んだが、しかし、そのタイヤは失敗に終わってしまった。

「2~3周というよりも、コースに出た瞬間、コーナー3つくらいでタイヤ選択を失敗したと思いました。プライベーターたちは抜けたけど、8号車を考えたら全然、話にならないなと思って。実際は賭けでしたからね。最初に、いかにパッと8号車のところまで行けるか。実際、いつも以上にドライでは簡単には抜けなかったじゃないですか。だから、スタートでそこそこポジションを上げるのが僕ら的には重要だった。結果は失敗でしたけどね。タイヤ選択は僕が提案しましたけど、完全に大失敗でした」

 だが、1度くらいの大失敗では可夢偉は諦めなかった。失敗と言えども、3周目にはLMP1のプライベーター6台をオーバーテイクして8号車に続く2番手まで順位を上げた。可夢偉は次のチャンス、ウエットからドライに路面コンディションが変わるタイミングを狙った。そして10周目、その時点で誰も履いていなかったスリックのドライタイヤにいち早く変更する勝負に出たのだ。

■富士を知り尽くした可夢偉の勘と判断、2度目のチャレンジが2年ぶりの勝利を呼び込む
「チームは『インターミディエイト』、『ドライは早すぎる』と言っていたんですけど、僕はもう『スリック!』と、ウエットからジャンプ(順番を飛ばして選択)した。そこがかなり効いてると思います。その段階ではスリックを履いているマシンがいない状態で、リスクだけど僕の感覚で。これだけ失敗しているから、逆にもうジャンプするしか勝てる方法はないなと思って、『スリックに変えさせてくれ』、『お願い!』って言って、やっと変えてくれて、そうしたらそれが本当に効いたと思います」

 結果的に、このタイミングでの判断が絶妙だった。可夢偉がスリック/ドライタイヤでコースインしたのちに、セーフティカーが入るアクシデントが発生、トップを走行していた中嶋一貴組はそのセーフティカー中にピットに入ってインターミディエイトに交換。しかしその後、路面が乾いてきたためドライタイヤに交換したときには7号車の可夢偉にトップを奪われ、ここで勝負が実質、決した。

 その後、可夢偉はファーストスティントを8号車よりも長くすることになったが、「あまりないパターンですけど、チーム的にはペースが良かったですし、タイヤもどこかで(レース中に使用できるドライタイヤのセット数から)ダブルスティントをしなければいけないから、とりあえず僕のところでダブルスティントしてしまおう」というイレギュラーな判断だったようだ。それでもその後は危なげなくトップを守り、2年ぶりのWEC優勝を果たすことになった。

「まあ、いつか勝てるとは思っていましたが、前回のシルバーストンは勝負としてはディスクオリファイにはなりましたけど勝負には負けていましたので、悔しいなかでこの富士に来て、ちゃんと速さで巻き返せたというのが僕ら7号車にとっては非常に良かったなと思います」

「今日はチャレンジもできたし、チャレンジしてダメなところもあったけど、いい面もあった。失敗したからといってビビらず、チャレンジをし続けるというのも大事だというレースができたのは良かったですね」

「クルマは前回、シルバーストンのときは僕らの方がヤバイなという感じでしたけど、今回は8号車の方がヤバイなという印象があったので、僕らがレースしているときの感覚、どっちが速いかという感覚は結構正しいと思っています。8号車は僕がスタートをして、降りた時くらいから厳しそうだなという読みはしていた。そういう意味では、今日は順当な結果なのかもしれません。これで来週のスーパーGT、その翌週のスーパーフォーミュラと、ここから3週連続で、いい流れで行けるんじゃないかと。3連勝ですね(笑)」

 WECに続いてスーパーGT、スーパーフォーミュラを戦う可夢偉としては、今日の勝利は今後のターニングポイントになるかもしれない大きな勝利。チームもそれを分かってか、今日のレースではスタートに続いて、可夢偉を最後のアンカーに選んだ。

「最後も乗るとは思っていたんですけど、残り30分くらいになってホセ(-マリア・ロペス)は『そのまま乗りたい』と言っていたので、僕は乗らないものだと思って結構、余裕をかましていたら、4周前くらいにいきなり『行くぞ』となってので。飛び乗りました(苦笑)」と話す可夢偉。

 ちなみに、そのロペスは前日の予選のペナルティについて、可夢偉に謝罪などはあったのだろうか?

「(僕が)ロペスの指を落とそうとしました。日本なので、日本のマフィアはこうするんだぞ、と。日本では切腹ではなく指を落とすんだと」と、仲の良さがうかがえる冗談で傷心したロペスを気遣った可夢偉。そのロペスも今日の決勝では見事にトップを守りきり、アンカーの可夢偉にたすきを渡す役割を担った。

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