現在位置: carview! > ニュース > スポーツ > 佐藤琢磨を長年追う松本カメラマンが明かすポートランド戦“勝利の秘策”

ここから本文です

佐藤琢磨を長年追う松本カメラマンが明かすポートランド戦“勝利の秘策”

掲載 更新
佐藤琢磨を長年追う松本カメラマンが明かすポートランド戦“勝利の秘策”

 F3時代に渡英した頃から佐藤琢磨を撮り続けている松本浩明カメラマン。ロングビーチでのインディカー初勝利、歴史的偉業となったインディ500制覇とこれまで琢磨の勝利をファインダー越しに見続けてきた松本カメラマンは、今回のポートランド戦でのインディカー3勝目をどのように感じたのだろうか。

■佐藤琢磨は本当にベテランになった
 佐藤琢磨のインディカー通算3勝目は、過去の2勝(2013年ロングビーチ、2017年インディ500)とチェッカーまでの過程が違っていたし、レースの流れを思い返すと本当にベテランになったなぁという感慨も一入だ。

インディカー2019年カレンダーが発表。ラグナセカとCOTAが新たに加わる全17戦で開催

 インディカーで9年目。151戦も走った。F1では91戦だったから、その1.5倍以上だ。そんなにキャリアがあっても、毎年1カ所や2カ所は初めて走るサーキットやトラックがあるのだから、モータースポーツの歴史の長さと奥の深さに呆れてしまう(笑)。

 琢磨が日本人ドライバーとして残している数々の記録も、その長い長い歴史の中のわずかな1ページか、2ページ程度だろう。それでも今の円熟期の琢磨のレースは、見るに値する。いや、この目に留めておかなくてはならない。その記した足跡をくっきりと後世に残すためにも。それが今の仕事のような気さえする。

 このポートランドの週末に、サーキットを離れて和食を食べながら琢磨にインタビューをする時間をもらった。それは別企画でジョーダン・ホンダでF1デビューした時のものだった。そのインタビューが掲載される号についてはまた後日紹介するが、15年以上も前の話に花が咲いた。咲きまくった。満開だった(笑)。

 F1に乗っていなければ、インディカーに来ることもなかったろうし、イギリスF3でチャンピオン取らなければ、F1には乗れなかった……。

 そうやって振り返れば、F3時代の成功がなければ、インディ500日本人初優勝の偉業にも辿りつけなかったし、こうしてポートランドで美酒に酔っていることもなかった。レースキャリアというのは、すべて繋がっている。

 レースウイークの水曜日。琢磨とトラックウォークをした。かく言う僕もポートランドは初めてだ。長いストレートの後からターン1~2と続くシケインはコンクリート。その後、ターン4からはオーバーテイクの難しそうなグルっと回り込むコーナー。長いバックストレッチの後の高速シケイン……。緑も多く1周が短くて平坦なポートランド・インターナショナル・レースウェイだ。

「オーバーテイク出来るのはターン1とターン6~7の進入かな。バックストレッチのシケインは狭いしイン側を抑えられたら、無理……」

 琢磨は要所要所でレースを想像しながら1周を歩いた。

 木曜日にテストデイが設けられたこともあって、クルマは前向きに仕上がっていた。ただ午前中にタイムが出るものの、午後に気温が高くなるとバランスを崩すのが、今年レイホールのチームが抱えていた問題で、ここでもその性格が悪戯した。

 琢磨は土曜午後の予選でグループ2に入り、Q1突破を逃すどころかグループ10番手、総合20番手のグリッドに。予想だにしないグリッドだ。1周57秒あまりでラップし、トップから1秒以内に20台が収まるような大接戦。100分の1、1000分の1秒差が運命の分かれ目だった。

 20番手からのレースをどう戦うのか?

 それがすべてだった。AJフォイト時代には後方からスタートに慣れていたし(笑)、ピットストップステラトジーを変えて前に出たレースもあった。それもうまく運んだとして4位、5位になるのが精一杯だった。 

 3ストップが定石のレースなら、2ストップでいく。それが作戦だろうが、イエローコーションが必要だし、そのタイミングが必ず琢磨の味方をしてくれるかわからない。だが、琢磨の性格からして20番手スタートで、何もしない手はないだろう。

■佐藤琢磨が語った勝利の秘策
 そして、見事優勝を手にした。レース後、琢磨はレース戦略の種明かしをしてくれた。

「予選が終わった後に、エディ(ジョーンズ)と話して、クルマの足回りはほぼ決まっていた。クルマは決して悪くなかったんです。エアロバランスだけ日曜の天気を見て決めようと思っていました」

「エンジニアたちがいろいろシミュレーションしてくれて話したんですけど、2ストップでいくのはペースも落ちるし難しいと。必ず1回イエローがなくちゃいけないし、ずっとグリーンの可能性もあるから。でも3ストップでいったところでなかなか抜けないし、15位になるのが精一杯なら、2ストップに賭けようって。僕はずっとそのつもりだった」

「実はレースはダウンフォースを少し削ってるんです。僕より削ったクルマはなかったんじゃないかな。どうしてかと言うと、2ストップだとしたら、前のクルマのスリップに入って引っ張ってもらうんだけど、単独走行になる時間が必ずあって、その時にすごく燃料を消耗するんです」

「だから、ダウンフォースを削って抵抗をなくした。またそうすることによって、ターン1と高速シケインの10~11で抜かれなくなるし、ターン6~7の進入で抑えさえすればなんとかなる。その自信はあったから」

「ライアン(ハンター-レイ)との勝負になって彼の後ろにいた時に、彼は逃げたけど無理には追わなかったんです。追えば最後のスティントで燃料が厳しくなるから。彼は僕が燃料をセーブしているのを知っているから、ピットストップでのマージンを稼ぐために逃げたんでしょうね」

「最後のピットは彼が先に入ったし、僕がピット終わって出た時には彼の前に出られた。あれが勝負のポイントだった」

「トップに立った時も、98%くらいの走りでタイヤを労わりながら走ってました。彼は最後に必ずアタックに来ると思ったし、そうなった時にタイヤが終わっていないように。ダウンフォースを削った分、タイヤには負担がかかるので、そこは注意しながら走ってましたね」

「プレッシャー? 長いことレースしてますからね。いい緊張感の中で最後はバトルを楽しんでましたよ(笑)」

「無線でチェッカードフラッグ!って、言われたんだけど、その後ろでピットのみんながキャーキャー言ってるのが聞こえたんで、うれしかったけど、思わずプッ!吹き出しそうになりましたよ……」

 勝者は雄弁なものかもしれないが、琢磨のコメントが、レース前の我々の疑問をひとつずつ解きほどくようで面白かった。


 インディカーでこんなレースをするのは、スコット・ディクソンか、エリオ・カストロネベスかと思っていたが、まさか勝利をさらうとは思っていなかった。良くて5~6位くらいかと。2ストップ作戦を取ることを想像していたにしろ、仰天の結果だった。良い意味での琢磨の裏切りだった。

 冒頭に書いたように琢磨の過去の2勝は、ロングビーチもインディ500も予選までに完全にクルマを仕上げ、予選グリッド前方からのスタートだった。予選20番手からの優勝なんて、琢磨の長いキャリアでも初めてのことだ。

 初めて走ったコースでいきなり優勝というのは、強いて思い出せるのは2000年にフランスF3に遠征し、スパで優勝した時だろうか……。

 そんなことなど、いろいろ思い出しながら長いフライトに乗って日本に帰ってきた。

こんな記事も読まれています

VW、実用的な高級車「ID.7ツアラー」 荷物 "積み放題" の電動ワゴン 約1000万円から受注開始、欧州
VW、実用的な高級車「ID.7ツアラー」 荷物 "積み放題" の電動ワゴン 約1000万円から受注開始、欧州
AUTOCAR JAPAN
ヴァレオが電動化技術を中心に出展へ…北京モーターショー2024
ヴァレオが電動化技術を中心に出展へ…北京モーターショー2024
レスポンス
スズキ「ジムニー」が743万円! タイではセレブの趣味車でした。インド生産の「スイフト」の弟分「セレリオ」は143万円。日本導入を希望します
スズキ「ジムニー」が743万円! タイではセレブの趣味車でした。インド生産の「スイフト」の弟分「セレリオ」は143万円。日本導入を希望します
Auto Messe Web
ホンダ、CB650R/CBR650Rにレバー操作不要な「Eクラッチ」設定 外観も一新
ホンダ、CB650R/CBR650Rにレバー操作不要な「Eクラッチ」設定 外観も一新
日刊自動車新聞
バイクニュース今週のダイジェスト(4/15~19)
バイクニュース今週のダイジェスト(4/15~19)
バイクブロス
大型・中型車もAT限定免許、「物流の2024年問題」で警察庁が導入検討[新聞ウォッチ]
大型・中型車もAT限定免許、「物流の2024年問題」で警察庁が導入検討[新聞ウォッチ]
レスポンス
ビッグモーターで「50台以上」が盗難被害に!? 「自作自演?」の声あるが…真相は? 元関係者語る実態とは
ビッグモーターで「50台以上」が盗難被害に!? 「自作自演?」の声あるが…真相は? 元関係者語る実態とは
くるまのニュース
春だね! 桜が描かれた原付ご当地ナンバー
春だね! 桜が描かれた原付ご当地ナンバー
バイクのニュース
アウディの新型電動SUV『Q6 e-tron』にロング版「L」…北京モーターショー2024で発表へ
アウディの新型電動SUV『Q6 e-tron』にロング版「L」…北京モーターショー2024で発表へ
レスポンス
[新型ランドクルーザー250モデリスタ]今回はオフロード感マシマシで「オプカン」ホワイトレターも!! お馴染みのLEDも付いちゃうゾ
[新型ランドクルーザー250モデリスタ]今回はオフロード感マシマシで「オプカン」ホワイトレターも!! お馴染みのLEDも付いちゃうゾ
ベストカーWeb
街で見かけるダイハツ車たちがサーキットを攻める!「D-SPORT & DAIHATSU Challenge Cup 2024」に密着してみた
街で見かけるダイハツ車たちがサーキットを攻める!「D-SPORT & DAIHATSU Challenge Cup 2024」に密着してみた
くるまのニュース
[新型ランドクルーザー250内装解説]12.3インチの巨大モニターもいいけど8インチで十分じゃね??  スイッチとかめっちゃ使いやすいやん絶対
[新型ランドクルーザー250内装解説]12.3インチの巨大モニターもいいけど8インチで十分じゃね??  スイッチとかめっちゃ使いやすいやん絶対
ベストカーWeb
「メーカー公認」で丸目換装!! ランクル250の激推しオプションを見逃すな なぜか不遇の「GX」も泣けるぞ
「メーカー公認」で丸目換装!! ランクル250の激推しオプションを見逃すな なぜか不遇の「GX」も泣けるぞ
ベストカーWeb
ホンダ新型「オシャレ軽商用バン」発売! エレガントな進化に早くも反響!? 130万円台で買える改良「N-VAN」が登場
ホンダ新型「オシャレ軽商用バン」発売! エレガントな進化に早くも反響!? 130万円台で買える改良「N-VAN」が登場
くるまのニュース
ヤマハの電アシ「PAS Brace」 日常使いしやすいスポーティコミューターの2024年モデルを発売
ヤマハの電アシ「PAS Brace」 日常使いしやすいスポーティコミューターの2024年モデルを発売
バイクのニュース
JSR、産業革新投資機構によるTOBが成立 2024年夏にも上場廃止
JSR、産業革新投資機構によるTOBが成立 2024年夏にも上場廃止
日刊自動車新聞
ゲレヴァー好きですか?レストアされたレアなオフローダー「メルセデス 300 GD」で冒険の旅へ、150万キロ感動の物語
ゲレヴァー好きですか?レストアされたレアなオフローダー「メルセデス 300 GD」で冒険の旅へ、150万キロ感動の物語
AutoBild Japan
アルピーヌF1、中国GPで新"軽量版"シャシー投入&フロアアップデートも実施……最下位脱出に向け奮闘中
アルピーヌF1、中国GPで新"軽量版"シャシー投入&フロアアップデートも実施……最下位脱出に向け奮闘中
motorsport.com 日本版

みんなのコメント

この記事にはまだコメントがありません。
この記事に対するあなたの意見や感想を投稿しませんか?

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離(km)

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村