2018年のスーパーGT・GT300クラスにおいて、大きなトピックスのひとつと言えるのが、aprの31号車TOYOTA PRIUS apr GTに、二度のGT500チャンピオンである平手晃平が加わったことだろう。GT300に活躍の場を移すにあたって「悩んでいた」という平手は、どんな気持ちでプリウスGTの初ドライブを終えたのか。平手に聞くことができた。
1986年生まれの平手は、フォーミュラトヨタを経て2003年からヨーロッパに渡り、F3ユーロシリーズでは06年に初勝利。07年にはGP2にも参戦し、トヨタF1のテストドライブも行った。08年に日本に戻ってからはフォーミュラ・ニッポン/スーパーGTに参戦し、LEXUS TEAM ZENT CERUMOに移籍してからはトップドライバーのひとりに。2013年、そしてLEXUS TEAM SARDに移籍してからは16年にもチャンピオンを獲得し、二度のGT500王座に輝いている。
スーパーGT:aprの31号車に平手晃平が加入。パンサーはレクサスRC F GT3にスイッチへ
アグレッシブなレース運びにはファンも多いが、2017年のシリーズ終了後、平手は2018年に向けて、LEXUS TEAM SARDのシートを失ってしまう。まだ31歳の平手は、「自分はまだぜんぜんGT500で戦える」とオフの間、思い悩んでいた。しかし、15台しかいないGT500のシートはその時点でほぼ固まっており、二度の王者が乗り込むシートの空きは、他メーカーも含めてなかった。
■思い悩んだオフシーズン
オフに平手と話をした際に、彼は自分の“これから”について大いに悩んでいたが、そこに08年に所属した経験もあるaprから声がかかった。ただ、GT500で二度の王座を獲ったドライバーとして、GT300に行くべきなのかどうか……。ちなみに、これは平手だけではなく、これまでGT500からGT300に活動を移した他のドライバーからも数多く聞いていた悩みだった。いまやGT300はGT500に勝るとも劣らぬレベルの難しさはあるのだが、やはり世間からの目は“カテゴリーを落とした”という見られ方もあるからだ。
しかし平手は、aprからのオファーを受け、GT300に身を転じることを決断した。環境を変え、2018年はひとりのドライバーとして「活躍の場を広げる」ことを決断したのだ。
「オフはいろいろと悩んではいましたが、自分はいまの環境をすごくポジティブに考えています」と平手は語ってくれた。
「GT500でメーカーと契約していると、融通が利きづらいところもある。でもGT300なら、チームの承諾があれば、いろいろなレースに出られると思うんです。だからいろんなチャンスがあると思いますし、こうしてaprから声をかけてもらえるくらい、まだ速さはあるはず。今年は新しいものに挑戦する年になるんだと思っています」
■平手加入で“勝つためのパッケージ”に
平手を起用することになったaprの金曽裕人監督は、起用の理由について、「晃平みたいのがウチに来たらいいよね、とチームで常々話していた」という。
「(昨年ドライブした)久保凛太郎も可愛かったから、育てたかった。でも、いまのGT300は即戦力が求められる時代。そんなことないと思って、石浦宏明や大嶋和也、そして平手晃平みたいな存在がウチのクルマをドライブしたらどうなるんだろうね、という話をチームの中でしていたんです」
「今年はクルマが速い、遅いではない。GOODSMILE RACING & Team UKYOの谷口信輝と片岡龍也のようなパッケージが組めるんです。やはりチームにとって、彼らは強みだと思う。ひと昔前……なんて言ったら怒られそうだけど(笑)、かつてaprにいた新田守男と高木真一のようなコンビは強かった。そういうパッケージの“強さ”に対して、aprとしてもっと欲を出さなければいけない。その答えが晃平なんです」
こうして平手は、金曽監督のオファーを受け、TOYOTA PRIUS apr GTをドライブすることになった。3月8~9日に鈴鹿サーキットで行われたメーカーテストで、平手は初めてプリウスGTのコクピットに収まった。
■プリウスGTは「パッと乗った感じ『すごいな』」
迎えた8日は雨のなかでの走行となったが、2日目は午前の途中からドライに転じ、平手はどちらのコンディションでもプリウスGTをドライブすることができた。
「GT500とGT300で違いはありますが、クルマの剛性がすごく高いですし、エンジンのフィーリングもFニッポンで使っていたものなので、レスポンスがいい。“ちょっとダウンフォースとパワーが少ないGT500”みたいな感じですぐに馴染めました」と平手はプリウスGTの感想を語ってくれた。
「ABS付きのクルマに乗るのが初めてで、ウエットの初日はそこに苦戦しましたね。でもABSに任せる走り方に切り替えることができたので、そこは慣れだと思います。パッと乗った感じ『すごいな』と思いました」
また、平手によればプリウスGTの特色でもあるハイブリッドの回生についても、ブレーキの変化等があり、新たな体験となったようだが、平手ほどのドライバーならば、すぐに慣れることができるはずだ。
平手の走りを見守っていた嵯峨宏紀も、チームメイトに迎えることを喜んでいる様子だ。
「カートの時代から『西の平手、東の大嶋』みたいな感じで、昔から知っている間柄なんですよ。速さという部分では今さらどうこうということもないし、コメントを聞いていても自分とほぼ同じような内容なので、『間違っていなかったな』と僕が安心した(笑)」と嵯峨。
「昨年は若手を引っ張らなきゃいけないと思っていましたが、今年は良い意味で楽ができそうです。彼の速さを活かせる環境を作ることができれば、おのずとチャンピオンに届くんじゃないかと思っています」
■「他のカテゴリーにも出てみたいと思っている」
迎える2018年。平手の目標の最優先は「GT300でチャンピオンを獲ること」だが、先述の平手のコメントにもあったとおり、さまざまなことに挑戦していく1年になりそうだ。
「もちろん最優先はGT300のチャンピオン獲得ですが、他のカテゴリーにも出てみたいと思っています。鈴鹿10時間にも出てみたいですし、海外とも話をしています」と平手。聞けばヨーロッパだけでなくアメリカも視野に入れているようだが、英語が堪能な平手ならばどの地域でも可能なはずだ。
「今年はいろいろな挑戦をしていきたいです。でも来年に向けての目標は、あくまでGT500に戻ること。それがどこになるかは分かりませんが、それに向けて楽しく、いろいろな経験を積んでいきたいですね」
TOYOTA PRIUS apr GTは平手の加入で、金曽監督のいう『パッケージ』ができあがり、さらなる戦力アップに成功したのは間違いないだろう。平手が挑んでいた頃からは比較にならないほどの混戦になっているいまのGT300で、新しい挑戦はどんな結果となるだろうか。
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