スカイラインといえば、人によって思い浮かべるモデルはさまざま。そんな時に7代目スカイライン、通称セブンススカイラインを挙げる人はおそらく少ないのかもしれない。
セブンスの先代R30スカイライン、後継のR32スカイラインといえば歴代スカイラインのなかでもキャラの立ったモデルだったが、その2台に挟まれたセブンスは果たして失敗作だったのだろうか? 実は「隠れた」実力車だったのではないのか、当時を知る片岡英明氏が振り返る。
普及には成長と分配が必要? EVが売れる秘策は安価なモデルと燃費課税にあり!?
文/片岡英明、写真/日産
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■まずは4ドアモデルからスタートしたのだが……
R31の型式を持つ第7世代のスカイラインは、1985年8月にベールを脱いだ。当時を知る人々からは今も「7th(セブンス)スカイライン」の名で親しまれている。開発コンセプトに掲げたのは、時代と環境に調和するソフィスティケイトされたスカイラインだ。キャッチコピーには「ソフトマシーン」というフレーズも使った。
スクエアで端正なフォルム。7thスカイラインはライバルのハイソカー路線を意識した開発にならざるをえず、豪快さが影を潜めソフト化した走りにスカイラインファンは落胆した
この時期、大ブレイクしていたのは、5代目70系マークIIと7代目クラウンに代表されるトヨタの「ハイソ(ハイソサエティ)カー」である。そこでスカイラインも、トヨタのハイソカーを意識しながら開発を進めた。
スカイラインは、7代目に至って初めて4ドアハードトップモデルを設定している。インテリアもゴージャスさを前面に押し出した華やかなものだった。最初は伝統の4ドアセダンに加え、新たに4ドアピラーレスハードトップでシリーズを構成した。
80年代中盤の日産車といえば、ドライバーの前にそびえ立つ角ばったインパネ。「絶壁」とも揶揄され、囲まれ感は強かったが走りのイメージではなかった
■エンジンは次世代ストレート6、RB20系を搭載。しかし滑らか過ぎて不評に
エンジンは6機種を用意していた。当然、注目ユニットは5代目C32ローレルに搭載されてデビューした2ℓのRB20系の直列6気筒エンジンだ。新世代ストレート6と呼び、ケンとメリーの4代目スカイラインのGT-Rに積まれていたS20型を最後に絶えていた直列6気筒DOHC4バルブエンジンを主役の座に就けていたのだ。
日産の新世代ストレート6「RB20DET」エンジン。名エンジンL型から一気に近代化を果たした。しかし気合が空回り? 当初の熟成不足は否めずパンチのないエンジンと酷評されてしまった
ハイドロリック・バルブリフターや電子制御可変インテークのNICS、ダイレクト・イグニッションシステムNDISなど、今までにない独創的なメカニズムを積極的に採用し、フラッグシップは2L最強スペックのDOHC4バルブターボだ。
が、誤算だったのは、鳴り物入りで登場したRB20DE系のDOHCエンジンとターボが、思いのほかパンチがなかったことである。先代のR30系のリーダー、RS系が積んでいたFJ20型直列4気筒DOHCとDOHCターボのほうがはるかにパワフルと感じさせ、パワーフィーリングも豪快だった。
■テーマは「都市工学」。そのハイソカー路線がファンに酷評されてしまった
RB20系は滑らかな6気筒だ。これに対し、FJ20型エンジンは4気筒だから荒々しかったし、パンチも強烈なように感じた。初期モノの常で、RB20DE系は熟成期間が足りなかった。ターボ仕様を含め、OHCのRB20E系のほうが気持ちいい加速フィールを見せたのだ。
第2の誤算は、トヨタファンには絶賛されたハイソカー路線が不発に終わったことである。何台も乗り継いでいる硬派のスカイラインファンからは、「日和っている」、「軟弱だ」、「スカイラインらしくない」、との厳しい言葉が投げかけられたのだ。
ウェッジシェイプを基調としたシャープなフォルムは、それまでのスカイラインの伝統に則ったものだった。が、坊主憎けりゃ袈裟まで、じゃないが、デザインにまで文句を言っている。ボディサイズが大きくなったことも不満のひとつだったろう。
■4輪操舵「HICAS」を搭載しクイックなハンドリングを実現したが……
スカイラインの売りは、スポーティな走りだ。パワーユニットだけでなくフットワークもよくないと気持ちいい走りを楽しむことができない。さすがに足のよさはスカイラインだった。2000GT系のサスペンションはストラットにセミトレーリングアームの4輪独立懸架を受け継いでいる。
だが、DOHCエンジンか、DOHCターボを積むパサージュには、減衰力を3段階に切り換えられるように進化させた3ウェイフットセレクターを採用した。ドライバーが瞬時に切り替えられる。
こちらはマイナー後の4ドアHTパサージュ。2ドア同様のフロントフェイスを与えられ、ハイソカー路線からの脱却を図ろうとしていたことが伺える
また、DOHCターボ搭載のパサージュには後輪を積極的に同位相操舵して絶妙にコーナリングをコントロールするHICAS(ハイキャス)を搭載した。スカイライン史上初となるラック&ピニオン式ステアリングを採用したことも大きなニュースだ。
軽くてクイックな電子制御パワーステアリングも選べた。ステアリングを握ってみれば、痛快なハンドリングを見せ、慣れてしまえば意のままに楽しく走れた。が、身のこなしがダルなそれまでのスカイラインに乗り慣れているファンからは、「クイックすぎて落ち着きがない」と酷評されてしまうのだった。
■病に倒れた櫻井氏を引き継いだ伊藤氏はR31のコンセプトに不安を感じていた
熟成不足を露呈したのは、R31スカイラインの開発が終盤に差しかかった時に、開発主管の櫻井眞一郎さんが病で倒れたことも影響しているだろう。リリーフを任されたのは櫻井門下生の伊藤修令さんだ。次の世代の8代目R32スカイラインを成功に導いた立役者である。
伊藤さんは許認可が下りると、改良に動き出した。9カ月遅れで2ドアクーペGTSを加えることは最初から決まっていたが、これを前倒しして新技術を盛り込んだ。また、マイナーチェンジではモデルチェンジ並みの変更メニューを投入することを決意していた。
エンジン内部に改良を加え、コンピュータを一新した2ドアスポーツクーペGTSが登場するのは86年5月である。エンジンは2L直列6気筒のRB20系だけに絞り込み、主役はDOHCのRB20DE型とDOHCターボのRB20DET型だ。ドライバビリティはよくなり、高回転の伸びとパンチ力も増していた。
2ドアスポーツクーペ GTS-X。セダンに遅れること9カ月。2ドア化により凝縮感が増したフォルムに加え、GTオートスポイラーを装備し、一気に走りのイメージを復活させた
また、驚いたことにタイヤが205/60R15にサイズダウンされ、HICASの操舵も穏やかになった。高速走行時にダウンフォースを増やすために、70km/hになると自動的にリップスポイラーが下りてくるGTオートスポイラーを設定したのも話題のひとつだ。
■改良を重ねた結果、走りのイメージが復活! 名車R32誕生の足がかりとなった
2ドアクーペGTSの投入により、スカイラインは少し信頼を回復した。そして9月には4ドアハードトップにGTSの名を用い、HICASを標準としている。この時にターボにメスを入れ、セラミックターボを採用した。
これに続く87年8月のマイナーチェンジは大がかりだった。6気筒エンジンのパワーアップを断行し、5速MTと4速ATにもメスを入れてドライバビリティを向上させた。また、エボリューションモデルのハードトップGTS-Rを、800台限定で送り込んだ。
マイナーチェンジとともに投入された、800台限定の2ドアスポーツクーペGTS-R。可動式リップスポイラーを大型化の上固定式に、リアスポイラーも大型化されたことが大きな特徴
7thスカイラインの最終モデルに積まれたエンジンは、それまでとは別物のようだった。一段とレスポンスは鋭く、立ち上がりからパンチの効いた加速を味わえた。シャープかつクイックで、よく曲がるハンドリングは洗練度を増した。レスポンスが鋭い応答性はそのままに素直な動きになっていた。
エンジンもスペシャル仕様。ターボチャージャー大型化、専用インタークーラー、等長ステンレス製エキマニ等を装着し210psを発揮。このモデルをベースに国内のレースで大活躍した
この最終型に乗れば、R31スカイラインの凄さと魅力がよくわかるはずだ。失敗作の烙印を押され、販売は伸び悩んだが、悲劇の名車と言えるだろう。実力と伸び代は、先代のR30よりはるかに上を行っていた。正当な評価は与えられなかったが、このクルマで苦労を重ねたことが次のR32スカイラインを成功に導くことにつながったのである。
GTS-Rのシート。このシート形状を見ると、8代目スカイラインのフロントシートかと思えるほど、形状が似ている。すでに伊藤氏によるスカイライン改革が始まっていたと見ることもできる
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