「A6」だと言っていたけど、「A8」に変わったんだ……。
その日の朝、待ち合わせ場所のいつもの駅前で、編集イナガキ氏が乗ってきた銀色に輝く大型セダンを見た私はそう思った。うな重の上が来るはずが特上がきた。くーっ、大歓迎。というのが人情というものである。
リアのドアを開けてバッグを置き、後席を目視すると、いかにも高級車然とした革張りのシートがあって、レッグ ルームも広い。帰りは後席も味わわせてもらおう……。イナガキ氏に運転を頼んで。内心そんなことを思いつつ、まずは運転席に座って、見覚えのある液晶画面と相対する。やっぱりA8はいい。しかるに、いや、これは新型A6です、と助手席に移ったイナガキ氏がいう。
【主要諸元(55 TFSI クワトロ Sライン)】全長×全幅×全高:4950mm×1885mm×1430mm、ホイールベース2925mm、車両重量1880kg、乗車定員5名、エンジン2994ccV型6気筒DOHCターボ(340ps/5200~6400rpm、500Nm/1370~4500rpm)、トランスミッション7AT、駆動方式4WD、タイヤサイズ245/45R19、価格1035万円。え、これがA6!? 知らなかったなー、こんなにリッパになっていたなんて! 2018年に本国でデビューし、2019年3月に日本で発売となった新型A6、写真と実物とでは大違い。ボディは先代とほとんど変わらない。先代からして、すでにデカかった。全長4950×全幅1885×全高1430mmの新型は先代比、5mm長くて、10mm幅広いだけ。全高はちょっぴり低くなっている。
一方、筆者が見間違えたアウディの旗艦A8はというと、全長5m、全幅1.9mを超え、ホイールベースは3mある。新型A6のほうが数値上、1サイズ小さい。当然である。そうでないとA8の意味がない。
較べてみれば確かに違う。けれど、与える印象は似ている。外観では、高さが低くなって、横方向に面積を広げたシングルフレーム グリルと、クリスタル ガラスのようなLEDのヘッドライトからなるフロント フェイスが、これより上はない、とクールに主張している。少なくとも、私はそう感じる。
アウディ本社が新型A6を発表したときのコピーは“Upgrade in the business class”(ビジネス・クラスをアップグレードしました)だった。ビジネス・クラスを、かつてのファースト・クラス並みにしました、という意味だ。いまのビジネス・クラスは、たしかに昔のファースト・クラス並みになっているから、さもありなん。
ラグジュアリーな印象でもって、5代目A6はA8、A7に続いてマイルド・ハイブリッド(MHEV)をすべてのエンジンに採用している。2019年秋に上陸したSUVの旗艦、「Q8」とも共通の3.0リッターV型6気筒ガソリンターボ+MHEVが試乗車のパワーユニットである。
90度のバンク角を持つこの2994cc のV型6気筒エンジンは、アルミ製のクランクケースを持つアウディの新世代ガソリンエンジンである。ボア×ストローク=84.5×89.0mmのロング・ストローク型で、ツインスクロール ターボチャージャーを組み合わせ、最高出力340ps/5200~6400rpmと最大トルク500Nm /1370~4500rpmを生み出す。
トランスミッションはA8とQ8が8速ATなのに対して、A7とA6は7速DCTとの組み合わせになる。前者はよりスムーズネスを、後者はよりスポーティヴネスを狙っているということだろう。
といって、A6のほうがA8より断然スポーティかというと、そうともいえない。同じ3.0リッターV型6気筒ターボのA8はなかなかスポーティな大型サルーンだからだ。低速からのぶ厚いトルクが印象的で、1900kgもあるボディを軽やかに走らせる。当然A8のほうが重いわけだけれど、500Nmを低中速で発揮するV6ターボにとって、190kgの差はたいしたものではないらしい。
むしろ、A6では軽すぎるのかもしれない。まわさずとも軽々と走ってしまう。ゆえに淡々とトルクを供給する実務型といった体で、さほど前面に出てこない。
100km/h巡航は7速トップで、ディーゼルよりも低回転の1200rpm程度に過ぎず、クルーズ中、エンジン音はほとんど聞こえてこない。
アクセルを踏み込んだときのゲインがやや高いのはスポーティヴネスを強調しているからだろうけれど、そのため、ほんのちょっと踏み込むだけでたいていこと足りる。ガバチョとガス・ペダルを踏み込むと、いかにもターボっぽくドッカンと加速する。そういうときでもたいへん静かで、ガソリンを爆発させているというより、空気の力で走っているかのような印象を受ける。このエンジン、2トンを超えるA8に搭載されたときのほうがスポーティ、A6ではラグジュアリーに感じられるのではあるまいか。
抜群の安定感と安心感駆動方式にも若干の違いがある。A6のクワトロ システムはセンターデフにクラッチを採用し、通常はFWDで走る。前輪が滑りそうな気配を感知すると、クラッチがつながって4駆になる。A8のクワトロは通常のトルク配分が40:60の後輪駆動寄りなのだ。
といって、ではA6は静かで快適なだけの中型サルーンなのかといえば、もちろんそうではない。試乗車が40万円プラスの「ドライビングパッケージ」を装備していたこともあるだろう。「ダイナミックオールホイールステアリング」という名前の4WSと「ダンピングコントロールサスペンション」、すなわち可変ダンピング、それに「ダイナミックステアリング」なるステアリングの可変ギアレシオの3つが、ハンドリング性能を高めるべく統合制御されている。
Sラインということで、19インチが標準となり、試乗車は245/45R19のミシュラン社製「パイロット スポーツ」というスポーティなシューズを履いてもいる。
「アウディドライブセレクト」により、例によってコンフォート、オート、ダイナミック、3つのモードの切り替えができる。ダイナミックを選ぶと、乗り心地は明瞭に硬くなり、ステアリングもグッと重くなる。
車速が60km /以下では後輪を前輪と逆向きに最大5度、60km/h以上では同じ向きに最大2度操舵する4WSのおかげもあって、全長ほぼ5メートル近い大型セダンがオン ザ レール感覚で、箱根の山道で曲がる。
復路、東名高速を走行中に土砂降りに見舞われた。後輪駆動だったら速度を落としたくなる、スコールのような雨だった。そんな状況でも、A6クワトロは抜群の安定感と安心感でもって、シレッと走り続けることができる。まことに心強い。後席も荷室も広くて、静かで楽チン。「A8よりも、A6のほうがショーファー ドリブン向きかもしれない」と、すら思う。
後日、編集イナガキ氏がカメラマンのヤスイ氏に、このクルマの写真の納品期日の確認をしたところ、ヤスイ氏はこういったそうだ。
「A6の写真? A6は撮ってないよ。A8なら、撮ったけど」
クルマ好きのカメラマンですら間違える。アウディA6アップグレード作戦は大成功のようである。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)
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