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贅沢&スポーティな週末の移動手段とは? BMW M850i xDrive Gran Coupe試乗記

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贅沢&スポーティな週末の移動手段とは? BMW M850i xDrive Gran Coupe試乗記

BMW「M850i xDrive Gran Coupe」(以下、M850i グランクーペ)は、4.4リッターV型8気筒ガソリンターボ・エンジン(最高出力530ps、最大トルク750Nm)を積んだ4ドアクーペである。 車両本体価格1715万円。現在、8シリーズには、2ドアの8シリーズクーペ、そのオープンボディである8シリーズ カブリオレ、そしてホイールベースを延ばして4枚ドアのボディを載せたグランクーペの3種類がある。それぞれに、さらに高性能なM8バージョンが用意される。

【主要諸元】全長×全幅×全高:5085mm×1930mm×1405mm、ホイールベース3025mm、車両重量2090kg、乗車定員5名、エンジン4394ccV型8気筒DOHCガソリンターボ(530ps/5500rpm、750Nm/1800~4600rpm)、トランスミッション8AT、駆動方式4WD、タイヤサイズ(フロント)245/35 R20(リア)275/30R20、価格:1715万円(OP含まず)。BMWにおけるポジションとしては6シリーズの後継になるが、同社は6シリーズが持つ“5シリーズのクーペ”というイメージを嫌ってか、8シリーズは6シリーズの後継車ではない、と、アナウンスしている。

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8シリーズを、“トップ・オブ・サルーン”たる7シリーズのいわばパーソナルモデルとしてクルマのヒエラルキーをあげたいのだ。8シリーズがライバルと目すのは、メルセデス・ベンツの「CLS」やポルシェ「パナメーラ」といった4ドアのプレミアムスポーツである。

ボディは全長×全幅×全高:5085mm×1930mm×1405mm。独立したトンラクスペースを持つ4ドア・クーペ。M850i グランクーペは、3025mmと3メートル超えのホイールベースに、全長×全幅×全高=5085×1930×1405mmという堂々たるボディを載せる。「750i xDrive M Sport」を例にとると、3070mmのホイールベースに5125×1900×1480mmだから、グランクーペは7よりすこし短いけれど、車幅はなんと30mm広い。カーデザインの文法通り、“ワイド&ロウ”なプロポーションでスポーティさを強調する。2ドアクーペをストレッチした大柄なボディながら、まるで間延びして見えないところは「さすがビーエム!」といったところでしょうか。

楽屋ネタで恐縮であるが、この手のクルマは得てして後席のチェックを忘れがち。さっそく車両寸法のわりに小ぶりな後部ドアを開けて、低い位置にあるシートクッションに座ろうと腰を落としたとたん、火花が飛んだ。ウーン……、したたかに頭をブツけた。思いのほか開口部が狭くて、というか、ルーフからCピラーにかけての下り方が急だった。BMWの、スタイル優先をうたう“偶数シリーズ”をナメてはいけない。

リアシート専用のエアコン(調整スウィッチ付き)&吹き出し口付き。ただし、リアシートは3人がけ。リアシートのバックレストは40:20:40の分割可倒式。痛む頭をさすりながら報告しますと、グランクーペの後部座席はやや足を折った沈み込んだ姿勢になるが、足元、頭上とも、スペース的には実用に足る。ただし、サイドウィンドウとCピラーの圧迫感が強いので居心地は悪い。人というよりは、前席乗員のバッグやかばん、コートなどを置く場所と考えた方がいい。

静かに、そして滑るように駆け抜けるV 型8気筒気を取り直してM850i グランクーペのフロントシートに座る。サイドサポートは控えめであるが、座面、背もたれともクッションの硬軟の配置が絶妙で、やんわりと体を受け止めしっかりホールドしてくれる。見た目はラグジュアリーであるものの、座ってみるとスポーティ。

シート表皮はレザーが標準。試乗車には標準よりさらに上質なレザーがオプション(56万2000円)で奢られていた。4枚のドアはサッシュレス。足の長さに不足がある筆者のような運転者は、シートを前に出すため、フロントスクリーンが近くなってガラスの傾きが強調される。Aピラーもすいぶんと寝ている。

「この空間、ドコかで経験したなぁ」と、記憶を探ってすぐに思い出した。BMW 「i8」だ。6シリーズから遅れること2年、2013年に登場したi8は、そのブッ飛んだスタイルで見る人を驚かせたが、その5年後にあらわれた8シリーズをキチンと予言していたのですね。

インテリアデザインは、ほかの8シリーズモデルとおなじ。パノラマ・ガラス・サンルーフは28万8000円のオプション。M850i グランクーペに搭載されるエンジンは、4.4リッターV型8気筒ガソリン・ターボ。8シリーズは、このほか3.0リッター直列6気筒のガソリンターボ(340ps、500Nm)とディーゼルターボ(620ps、680Nm)と、2種類のストレート6をラインナップする。

くわえて、V型8気筒エンジンには3種類のチューン違いがある。M850i用の530ps、M8の600ps、そしてM8 Competition用の625psバージョンである。最大トルクはどれも750Nmで、過給器の設定で味付けを変えている。

搭載するエンジンは4394ccV型8気筒DOHCガソリンターボ(530ps/5500rpm、750Nm/1800~4600rpm)。M850i グランクーペのステアリングホイールを握って走り始めると、そのスムーズな動力系と乗り心地のよさに呆れる。フロントの8気筒は4.4リッターという排気量を活かして、クランクのまわり始めから分厚いトルクを供給する。

最大トルク750Nmの発生回転数は、わずか1800rpm。過給機の加勢はシームレスで、それでいてターボエンジンならではの浮遊感を伴って2130kgのボディを苦もなく前方へ運んで行く。6段ATがたちまちギアを上げるが、依然としてスロットルペダルに載せた足の重みひとつでグランクーペは目の醒めるような加速をみせる。

静止状態から100km/hまでに要する時間は3.9秒。タイヤサイズはフロント245/35 R20、リア275/30R20。ことさら回転を上げる必要を感じさせない、明らかにトルクで走らせるタイプだけれど、「鈍」なイメージがまったくないのは、V8エンジンのレスポンスのよさゆえだろう。もっぱら低回転域を使うので、結果的に静かなパワーソースである。

足もとの20インチホイールには、前サンゴー後サンマルという薄いタイヤを巻く。245、275という太さであるが、路面からの入力を上手に遮断して、乗り手に突き上げを伝えない。よく動くサスペンションの恩恵か、むしろソフトな印象を受ける足まわりだ。2トンを超える車重、前:後=1140:990kgと、BMWにしてはややフロントヘヴィなグランクーペ。たとえばサーキットで追い込むような走りをするとまた違った顔を見せるかもしれないが、いうまでもなく公道では限界のはるか手前でドライブするので問題はない。

足先の動きひとつで静かに、そして滑るように駆け抜けるV 型8気筒ターボの方が、1.5リッター3気筒を搭載し、人工で生成したサウンドを響かせるi8よりむしろ未来的なドライブフィール……と、いったら言い過ぎか。

最小回転半径は5.5m。8ATのシフトレバーはクリスタル製。ステアリング・ホイールは電動調整式。贅沢でスポーティな移動空間バイエルンのトップモデルだけあって、ハイテクにも積極的だ。大きなアウトプットを無駄なく路面に伝えるxDriveこと電制多板クラッチを用いた四輪駆動システムは、後輪駆動をベースに必要に応じてフロントにもトルクを送る。そして「インテグレイテッド・アクティブステアリング」なる四輪操舵システムと協調してハイウェイでの高いスタビリティを保証する。60km/h以上では後輪をステアリングと同位相に切って安定性を増す一方、低速では逆位相に動かすことで小まわりを助けてくれる。

M850i グランクーペのドライバーは、しかしそうした電子デバイスを意識することないし、むしろ意識させないのが21世紀のハイテクだろう。室内では、何種類もの表示が可能な12.3インチのメーターディスプレイや10.25インチのタッチパネルを備えたインフォテインメントシステム「iDrive」が先進性をアピールする。

メーターはフルデジタル。ラゲッジルーム容量は通常時440リッター。各種運転支援装備が充実するなか、ことにユニークなのが、直近50mのルートを辿って自動的にバックしてくれる「リバースアシスト」だ。住環境が厳しい都心にすむエグゼクティブにとって、もっとも実益ある新装備のひとつかもしれない。

美しいステッチが施されたフルレザー内装に人工皮革「アルカンターラ」のルーフライニング。ATシフターはクリスタルガラスのようで、頭上には大きなグラスルーフが広がる。見るもの触るものすべてがラグジュアリーでないと気がすまないといったインテリアである。

M850i グランクーペは、オンタイムでは7シリーズやそのストレッチ版のリアシートを温めるような人が、プライベートな時間に苦もなく高性能を手にして、贅沢な移動時間を楽しむためのクルマだ。まっさきに後部座席の実用性をチェックするような人間が拒絶されるわけである。

文・青木ヨシユキ 写真・安井宏充(Weekend.)

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