昭和は遠くなりにけり・・・か。以前に連載した「昭和の名車」では、紹介しきれなかったクルマはまだ数多くある。そこで、1960年代以降の隠れた名車を順次紹介していこう。今回は「マツダ ファミリア スポルト16」だ。
マツダ ファミリア スポルト16(BFMP型):昭和61年(1986年)7月発売
1985年(昭和60年)1月のフルモデルチェンジで6代目となったファミリアは、ボーイズレーサーとして人気を博した先代の勢いを引き継ぐ形で、見た目の変更より機能の充実に力を入れたモデルとなった。その象徴的存在が10月に追加した日本初のフルタイム4WD1600DOHCターボだが、これはWRCに挑戦するマシンのベース車両。全日本ラリー選手権でも上位を独占する高性能ぶりを発揮したが、あまりに仕様が本格的すぎて、気軽に乗り回せる代物ではなかった。一方、1.5L NA(自然吸気)のEGI XG(95ps)やターボXG(115ps)も軽快な走りを見せたが、DOHCを積み1.6Lスポーツの覇を競いあっているライバルと比べると、 やはり満足度が薄い。
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そんな中、1986年7月に登場したのが、NAの1.6L DOHC16バルブ+EGIを積むスポルト16だ。「さりげない高性能」や「都会派スポーツ」を開発テーマとするだけに、B6型エンジンはいたずらにパワーを追わず、扱いやすさと気持ち良さを重視したチューニングが施される。その中心となったのが新開発の可変吸気システムで、吸気管を中低速用プライマリーポートと高速用セカンダリーポートに分け、コンピュータ制御でエンジン回転数に応じてセカンダリーポートの可変吸気バルブを開閉。慣性過給を全域でフルに利用し、中速域の使いやすさと高速域の伸びを両立させている。
確かに、動き出す時の身軽さや、そこから踏み込んだ時のリニアなレスポンス、5000rpmあたりでカムに乗りフュエルカットが効く7400rpmまで何のストレスもなく直線的に吹け上がる感覚は、高回転型NAエンジンならではの味わいだった。
モーターマガジン誌による実測テストでは最高速が182.51km/h、0→400m加速が16.79秒だから速さで一番ではないけれど、加速の気持ち良さでは負けていない。アクセルを床まで踏みつけ、5速MTを駆使してコーナリングラインに乗せる快感は、ターボや重量スポーツとは一味違う、クルマの「性能を使い切る」喜びでもあった。
この走りを支えるのが960kgの軽量高剛性ボディと4輪ストラット式サスペンションだ。フロントは剛性の高いA型ロアアームを採用。リアはマツダが特許を持つSSサスペンションで、タイヤに前後方向の抵抗が加わると通常はトーアウトしてしまうところを、台形リンクによりトーインを保つ機能を備えていた。ステアリングには回転数感応式パワーアシストが付き、ブレーキもフロントをベンチレーテッドとした4輪ディスクを採用して、連続した屈曲路をヒラヒラと駆け抜けると言う意味では、ターボ4WDを凌ぐ軽快感を実現していた。
ただ、足のセッティング自体はマイルドで、スポルトならもっとハンドリング指向に振って欲しかった、という声もあった。しかしハードな走りは4WDターボの受け持ち。スポルト16は、アーバンスポーツとして優れた資質を持つ高性能車だったと言えた。
外観もボディ下部をサンビームシルバーに塗装したツートーンカラーやスカート一体型大型カラーバンパー、ボディ同色電動リモコン式カラードドアミラー、リアルーフスポイラーなどでスポルト16であることを主張。一方で、入念な仕上げのコクピットには3本スポークの革巻きステアリングに加え、フロントフルフラット&リアフルリクライニングシートや、275L(SAE規格)のラゲッジスペースで使いやすさを訴求するなど、スポーツと実用性を両立させたモデルとして、FFライトスポーツファンから強い支持を受けている。マツダが提唱する「人馬一体」をより強く味わえる貴重な1台だった言えるだろう。
マツダ ファミリア スポルト16 主要諸元
●全長×全幅×全高:3990×1645×1390mm
●ホイールベース:2400mm
●重量:960kg
●エンジン型式・種類:B6型・直4 DOHC
●排気量:1597cc
●最高出力:110ps/6500rpm(ネット)
●最大トルク:13.5kgm/4500rpm
●トランスミッション:5速MT
●タイヤサイズ:185/60R14
●価格:139万8000円
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ファミリアもブルーバードも、歴史的なヒット作だった先代のキープコンセプトだったこともあり、「販売台数は堅調だったけど、なんかパッとしない」という扱いを受けている点がね。