総排気量が1.3L以下のエンジンを搭載するコンパクトカーで注目されるのがトヨタのルーミー&タンクだ。ダイハツが生産を受け持つ背の高いコンパクトカーで、トヨタはOEM車として扱う。ダイハツ版のトール、スバルブランドのジャスティもある。
2019年のルーミーの登録台数は、1か月平均で7638台、タンクも6210台となった。トールとジャスティを加えた4姉妹車合計だと1カ月平均で1万6000台を上回る。
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小型/普通車で販売1位のプリウスが1か月平均で1万466台だから、ルーミー4姉妹車は相当な人気車だ。
ルーミー/タンクはブランニューモデルとしてはここ近年で最もヒットしていると言えるが、その要因としては、両側スライドドアを採用しながらも2列シートモデルであることがユーザーから評価されている。
両側スライドドア車が欲しいが、現状ではほとんどが3列シートモデル(ミニバン)となるなか、ルーミー/タンクは貴重な存在なのだ。しかも2列シートゆえに室内は広々感がある。
そこでルーミー&タンクの実力を改めて探りたい。ライバル車のスズキソリオと比較すると、優劣が分かりやすいだろうということで、この2モデルを対決させる。
文:渡辺陽一郎/写真:TOYOTA、SUZUKI、ベストカー編集部
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ボディサイズと運転のしやすさ比較
ルーミー(写真右)とタンク(写真左)はフロントマスクで差別化。ルーミーはトヨタ店、カローラ店、タンクはトヨペット店、ネッツ店の扱い
標準ボディの大きさは、ルーミー&タンクの全長が3700mmで全幅は1670mm、ソリオは全長3710mm、全幅1625mmになる。
ソリオは狭い裏道や駐車場での扱いやすさを考えて、全幅を抑えた。ただし車幅が狭いと前輪の切れ角が抑えられ、最小回転半径はルーミー&タンクが4.6m、ソリオは4.8mで少し大回りだ。
ソリオは2015年にデビューし、2016年にハイブリッド追加、2016年にマイチェンをしてエクステリアの質感が高くなっている
内装と居住性比較
インパネではメーターの配置が違う。ルーミー&タンクはステアリングホイールの奥側に装着したが、ソリオはインパネ中央の高い位置に備わる。
ソリオの場合、上下方向の視線移動は小さいが、やや左側を見ることになる。インパネの下側にシフトレバーとエアコンスイッチを並べる配置は共通だ。
ルーミー/タンクはセンターパネルが大型化されて目立つこと以外は、きわめてオーソドックスなインパネデザイン
ソリオはセンターメーターを採用。シフトレバーの配置はルーミー/タンク同様にインパネ下部で、扱いやすさを最優先している
シートの座り心地と各部のスペースは、前席については互角になる。
異なるのは後席で、ルーミー&タンクはシートの柔軟性が乏しく、乗員のサポート性もよくない。床と座面の間隔も不足して、足を前方に投げ出す座り方になる。先代タントもこれに似た座り心地だったが、現行型では大幅に改善された。
ソリオの後席も快適とはいえないが、床と座面の間隔は十分に確保され、ルーミー&タンクのような違和感は生じない。
後席の頭上と足元の空間は両車ともに広い。身長170cmの大人4名が乗車した場合、後席のスライド位置を後端に寄せると、ルーミー&タンクの膝先空間は握りコブシ4つぶん、ソリオも3つ半だ。
ルーミー/タンクのリアシートは狭くはないが、座り心地はお世辞にもいいとは言えない。ポジションに問題がある
ボディサイズからしても広々としているとは言えないが、ソリオのリアシートのほうが座った時のポジションが自然だ
ゆったり座れるが、これではリアゲートと後席乗員の間隔が狭まり、追突された時の安全性に不安が伴う。
そこで実際に乗車する時は、膝先空間を握りコブシ2つぶん程度まで詰めると、リアゲートとの間隔を確保できる。
この状態でも、ソリオは床と座面の間隔に余裕を持たせたから快適に座れる。ルーミー&タンクは腰が下がって膝が持ち上がりやすい。居住性は総じてソリオが快適だ。
荷室とシートアレンジ比較
両車では後席の格納方法が異なる。
ルーミー&タンクは、後席の背もたれを前方に倒し、次に後席全体を前側に落とし込むと、床の低いフラットな空間になる。
ソリオは後席の背もたれを前側に倒すと、座面も連動して下がり、ワンタッチで後席を畳めるようにした。その代わり広げた荷室の床に傾斜ができてしまう。ルーミーは荷室容量、ソリオはシートアレンジの利便性を重視した。
そしてルーミー&タンクでは、床面を反転させると、汚れを落としやすい素材が貼られて自転車などを積む時に便利だ。ルーミー&タンクの荷室は、大きな荷物を積んだり、屋外で使うことも考えている。
ルーミー/タンクはリアシートの収納について操作性よりも積載性を考慮している。ラゲッジ優先の場合は魅力的になる
ソリオはルーミー/タンクとは逆の発想で、リアシートの収納については操作性を最優先。もちろん収納力はあるが、使いやすさではルーミー/タンクが優れる
動力性能比較
ルーミー&タンクのエンジンは、直列3気筒1Lで、自然吸気のノーマルタイプとターボがある。
車両重量は2WDの最も軽い仕様でも1070kgだから、1Lのノーマルエンジンでは動力性能が幅広い回転域で不足する。アクセルペダルも深く踏み込みやすく、エンジンノイズも高まりやすい。
ターボは1.4Lのノーマルエンジンと同等の動力性能を確保するが、2000~3000回転のノイズが耳障りだ。
ルーミー/タンクの1L、直3DOHCはパワー不足、直3DOHCターボはパンチ力はあるが、回した時にノイジーになるのが残念
ソリオは1.2Lエンジンのみだが、ノーマルタイプ、マイルドハイブリッド、フルハイブリッドの3種類がある。
フルハイブリッドは燃費向上率が小さい割りに価格が高く推奨できないが、マイルドハイブリッドは経済的だ。
車両重量は2WDが950kgだから、ルーミー&タンクよりも120kg軽く、排気量は1.2Lだからパワー不足を感じにくい。
4000回転を超えると速度上昇も活発になり、元気のいい走りも味わえる。アクセル開度が抑えられてノイズも高まりにくい。
走行安定性と乗り心地比較
ルーミー&タンクは、カーブに進入したり車線を変える時に、ボディがやや唐突に大きく傾く。ボディの捩れも感じられ、進路を乱されやすい。カーブを曲がっている最中に、ステアリングホイールをさらに深く切り込んだ時は、車両の向きが変わりにくい。
ソリオは自然な印象だ。高重心のコンパクトカーだから機敏に曲がる設定ではないが、唐突感を抑えて安定性にも不満はない。背の高さを意識しないで運転できる。乗り心地は両車ともに硬めだが、ソリオは少し粗さを抑えた。
ソリオは1.2Lということでルーミー/タンクに対し200ccの余裕があり、走りにもそれが如実に出ている。特に質感は大きな差となっている(写真はマイチェン前)
安全装備比較
衝突被害軽減ブレーキは、ルーミー&タンクがスマートアシストIIIを装着する。ダイハツの軽自動車と基本的に同じタイプだ。2個のカメラをセンサーに使い、歩行者も検知して衝突被害軽減ブレーキを作動させる。
ソリオもデュアルカメラブレーキサポートだから、2個のカメラを使う方式だ。
ルーミー/タンクはダイハツのOEMということでダイハツの軽自動車に搭載されている安全装備であるスマートアシストIIIが搭載されている
誤発進抑制機能は、両車とも前後両方向に対応する。障害物に向けて必要以上にアクセルペダルを踏み込んだ時、エンジン出力が制御され、ソリオの後退時についてはブレーキの作動も可能にした。
ルーミー&タンクは、サイド&カーテンエアバッグを全車にオプション設定しており、ソリオバンディットは標準装着した。ただしソリオの標準ボディは対応が異なる。
サイドエアバッグは主力グレードに標準装着したが、カーテンエアバッグを装着するのは、上級のハイブリッドSZとハイブリッドMZのみになる。
ソリオの安全装備はスズキのセーフティサポートで、基本的に軽自動車と同じ。衝突被害軽減ブレーキはデュアルカメラブレーキサポート
価格の割安感
ルーミー&タンクの買い得グレードは、標準ボディのG(171万6000円)だ。このグレードにオプションのサイド&カーテンエアバッグ(5万600円)、LEDヘッドランプ(6万6000円)、LEDフォグランプ&イルミネーションランプ(2万2000円)、14インチアルミホイール(4万4000円)を加えると、合計189万8600円になる。
ソリオの買い得グレードはハイブリッドMZ(199万1000円)で、ルーミー&タンクGにオプションで加えた装備を標準装着する。それでも約10万円高いのは、ルーミー&タンクのエンジンが直列3気筒1Lなのに対して、ソリオは直列4気筒1.2Lマイルドハイブリッドになる対価と考えれば良い。
JC08モード燃費は、ルーミーGが24.6km/L、ソリオハイブリッドMZは27.8km/Lになる。
※価格はFFのもの。ルーミー/タンクはNAエンジンにのみ4WDが設定され17万6000円高、ソリオはフルハイブリッド以外に4WDが設定され12万8700円高
総合評価
機能と価格のバランスは同等だが、総合評価ではソリオが買い得だ。ソリオはルーミー&タンクに比べて、後席の座り心地、動力性能、走行安定性、操舵感、乗り心地、静粛性で勝っているためだ。
ただし収納設備はルーミー&タンクが使いやすく、荷室容量を拡大して汚れ防止の処理を施したから、用途によってはソリオよりも実用性が高い。
ルーミーとタンクではルーミーのほうが常に販売台数が多い。これは販売会社の力にもよるところが大きいが、驚異的な販売台数をマークしている
商品力に差が付いた理由は、開発方法と期間にある。ルーミー&タンクの開発者は、「約2年間で開発した」という。発売は2016年11月だから、開発のスタートは2014年だ。
この年には先代ハスラーが爆発的に売れ、ダイハツとスズキが、在庫車の自社届け出を含めて猛烈な販売合戦を展開した。
その結果、2014年(暦年)は、国内の新車販売における軽自動車比率が41%に達している。2019年の37%よりもさらに多かった。
全体的にソリオの優位が目立つが、最大のアドバンテージは、マイルドハイブリッド、フルハイブリッドの両方をラインナップしていることだろう
この時に焦ったのがトヨタだ。小型車から軽自動車に流出するユーザーを食い止めるべく、ダイハツに大急ぎでルーミー4姉妹車を開発させた。
新しいプラットフォームは間に合わず、初代パッソから使われるタイプを利用して、エンジンも既存の1Lを搭載する。
動力性能が不足してターボを装着したが、開発者は「ノイズや振動に関しては、対策し切れない面が残った」と悔しそうに振り返る。
走行安定性も同様で、プラットフォームが想定する車両重量は800~900kgだから、1070kgでは重すぎる。
ルーミー&タンクの開発には、時間的な制約を含めて数々の困難が伴ったようだ。この事情を聞いていると好調に売れてよかったと思うが、ユーザーの皆さんには関係のない話だ。
皆さんがクルマを選ぶ時は、ルーミー4姉妹車、ソリオ、さらにシエンタやフリードなど、コンパクトで空間効率の優れた複数の車種を実際に試乗して、自分の使い方を考慮して判断するのいいと思う。
※スペックはFFのもの
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みんなのコメント
何故なら、リアの乗り心地で長距離を年配の方に
乗ってもらえるレベルではなかった。
この手の形の車は、必ずリアシートに乗ってから
判断したほうがいい。
モロに車格が出ます
16000-(7638台+6210台)=2152台
多く見積もっても3000台が、残りトールとジャスティの販売台数か…。
トヨタの販売能力のスゴさですね。