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【ヒットの法則133】5代目BMW5シリーズは2005年の年次改良で大きく進化していた

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【ヒットの法則133】5代目BMW5シリーズは2005年の年次改良で大きく進化していた

2005年11月、5代目BMW5シリーズ(E60)の2006年モデルが発表となっている。モデルイヤーという位置付けだが、その内容はエンジンラインナップ変更を伴う大掛かりなものだった。なぜこのような改良が行われたのか、このとき5シリーズはどう変わったのか、振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2006年1月号より、タイトル写真は525i)

大きく変わったのはV8エンジンのラインナップ
2005年11月8日にBMW5シリーズの2006年モデルが発表となった。モデルイヤーごとにキメ細かい改良が施されるのは欧州車の常だが、今回はパワーユニットにもかなり大掛かりな改良とラインナップ変更が行われている。まずはその内容から説明していこう。

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もっとも大きく変わったのはV8エンジンのラインナップである。これまで5シリーズに用意されていたV8は545iに搭載されていた4398ccだけだったが、これがドロップした代わりに、3999ccの540iと、4798ccの550iが登場した。

V10エンジンを積むM5を別にすれば、現時点で標準エンジンのトップエンドとなるのがこの550i。排気量が400cc増えたことにより最高出力は34psアップの367psに、最大トルクは40Nmアップの490Nmを達成している。

ただし今回は試乗車が間に合わず、540iのみを試す。ちなみに、540iは306ps、390Nmという実力。545iに対し400ccほどキャパが小さくなっているためパワーは劣るものの、この新V8は圧縮比が若干高められている上に、最大トルクの発生回転数がやや低くなり、最高出力の発生回転数は逆に高められている。つまり常用回転域がさらに拡大されたわけだ。

おそらくフリクションの低減やバルブトロニックなど、細部にキメの細かい改良が行われていると思うのだが、この新エンジンに関するテクニカルなトピックはあまり詳らかになっていない。そこで今回はあくまでもフィールに関する部分を中心にレポートしていこうと思う。

さて、乗り込んで最初に行うのはンジンの始動だが、その手順もこれまでの5シリーズとは少々異なる。06年モデルではついにプッシュボタン式のエンジンスタート/ストップスイッチが採用されたのだ。キーユニットは7シリーズなどと同じ電波式のボックスタイプとなり、所定のキースロットにセットすることで充電を受ける。

スタート/ストップボタンはステアリングの右側、インパネが一部凹んだ部分に設けられた。従来の内装デザインをほとんどいじらずに追加しているのだが、操作性や視認性にはまったく問題はない。ちなみにエンジンスタートはこのボタンがダイレクトにスターターを回すのではなく、ワンタッチするだけであとはクルマが自動的に電気的なチェックを行い、その後にスターターを回すというタイプだ。

パワフルから軽快なV8エンジンのフィーリング
軽いスターターの音とともに目覚めたV8エンジンは、545iに較べるといくぶんトーンが優しくなった感じで、いかにもマルチシリンダーらしい静々とした音と振動しか伝えてこない。ともかくアイドリングレベルでのエンジンマナーは、どこまでもエレガントだ。

Dレンジに入れてアクセルを踏み込む。過剰な飛び出しはまったくないが、だからと言ってジェントル過ぎることもない。まさしくエンジンとコントロールユニットと足が直結しているかのような、正確で素直なアクセルレスポンスである。

回転フィールも感動的だった。以前の545iはトルクフルではあるものの、回転の上昇と共に沸き上がって来るパンチのようなものが希薄で、ひたすら頼もしいという感じの味わいだった。そんなわけで僕の中では「回してガンガン楽しむなら、BMWはやはり直6にトドメを刺す」という評価が固まっていたのだが、540iは違う。

V8とは思えないほどシュンシュンと回り、回転フィール自体も極めて軽快なのだ。トルク感自体は545iに譲るものの、530iよりも確実にパワフルで滑らかなことは確か。これは相当に魅力的なパワーユニットだ。

残念ながら今回は540iのみの単独試乗だったので、これがV8としては比較的排気量の小さいこの個体特有の持ち味なのか、それとも550iも含めた新しいV8に共通するものなのかは判断できなかったが、もし550iの圧倒的なトルクにこの心地よい回転フィールが加わるのなら、それは現時点でのベストV8だと思う。

さらに、組み合わされる6速ATのレスポンスも満足のいくものだし、ステップトロニックを活用したマニュアル操作のシフトダウン時に過度にならない程度に回転を合わせ、スムーズなギアの繋がりを確保しているあたりも魅力。これらの制御はこれまでの5シリーズと同じだが、V8の回転フィールが表情豊かになったことで、操る楽しみは倍増したと言ってよい。

違和感がなくなったアクティブステアリングとまだ慣れないiDrive
ハンドリングも相変わらず良い出来だ。ともかく凛と締まっていて、回したときの感触が澄み切ったステアフィールが絶品である。また、重厚な乗り心地(今回の試乗車が履いていたグッドイヤーのランフラットは、それ以前に乗った530iのBS製より少しだけハーシュが強めではあったが)と、高速域で抜群の直進安定性を味わわせるにもかかわらず、ステアリングを切り込んだときの回頭性が極めて軽快なのも5シリーズに共通する魅力。

これに較べると圧倒的に安定感を増した新型3シリーズも、まだ高速域のスタビリティ面では5シリーズに及ばないと思わせるほどなのである。

停車時の据え切りロックtoロックが1.9回転とクイックなアクティブステアリングは、慣れないとまだタイミング的に早すぎる操舵を誘発する可能性があるが、駐車場での切り返しなどでは操舵量が確実に減るため、慣れたら手放せなくなる機構だと感じるのは間違いない。

それに速度感応型の可変ギアレシオであるアクティブステアに違和感を覚えるのは、可変率がもっとも高くなるパーキング速度レベルに限られる。ある程度のペースでコーナーをクリアする様な場面では、切れ味の鋭いステアリングといった感覚に留まるからまったく問題ないはずだ。

考えてみればこのステアリングシステムは相当に進化した。2003年の新型登場時に装着されたものは、コーナリングレベルの速度域でもやや過剰なクイック感があり、真っ直ぐ走らせるのに神経を使う場面があった。だが、バルブトロニックの直6を積むようになった05年モデルでは劇的に変わり、通常ステアから乗り換えたユーザーが慣れるまでに少しだけ時間が必要な程度の、完全なる実用アイテムになったと思う。

このように進化の著しいBMWにあって、僕が唯一使いこなせないでいるのがiDriveである。06年モデルではダイヤルノブ式のコントローラーデザインが変わり、頭頂部にレザーを張り込んで質感を高めてきているが、あの複雑な操作ロジックは相変わらずだった。

ただ、これはiDriveの機構的な問題ではなく、画面デザインと操作の階層の作り方に問題があると言ったほうが正解に近いだろう。コントローラーを上下左右に押してナビやオーディオといったファンクションを選ぶところまでは良い。

そこから先、例えばナビに入った後にコマンドをスクロールさせてプッシュ操作で選ぶのだが、このコマンドの配置の仕方と、間違えた操作を行ったときのリカバリーの煩雑さが使い勝手を悪くしている。この種の装置は取説を読まずとも直感的に扱えなければ実用にはならない。その点でiDriveはもう一皮むける必要があると、最近のBMWに乗るたび僕は思っている。

ところで、今回試乗した540iにはオプションながら、もうひとつ面白い装備が装着されていた。それはアクティブバックレスト。コンフォートシート仕様に追加できるこのシステムは、コーナリングのたびにGのかかる腰の部分のサイドサポートを電動で動かして、ドライバーの姿勢のズレを防ごうという、アクティブサポーターとも言えるものだ。

サポートの強さはセンターコンソール下のプッシュボタンで3段階に切り替えられる。最も強いスポーツモードにセットしておくと、けっこう強めの圧迫がハンドルを切った方向と逆の腰部に加わる。最初はギミックと思ったが、これが馴染んでくるとコーナリング中の安定感につながり確かに有効に思えた。

ただ、S字の切り返しでは左右が互い違いにグイ~っと腰を圧迫するため、サイドサポートいうよりも電動マッサージシートのように感じられてしまう瞬間があった。また、横Gをセンシングしているのだろうが、その感度はかなり敏感で、交差点を曲がるような場面でも作動してしまい、逆に落ち着かないこともあった。もう少し感受性を鈍くし、スポーツドライブを楽しんでいる時にだけ作動するようになるとありがたい。

もちろん制御はスイッチでキャンセルもできるのだが、この辺はクルマ側が人間に合わせて欲しいところだ。常に新しい価値を生み出し続け、それを進化させていくのがBMWの魅力だが、このアクティブバックレストにしても、iDriveにしても、やや技術主導が過ぎて人間に合わせることをたまに要求して来るのが、僕が感じる数少ない不満である。

ツーリングにもV8エンジンを搭載するモデルが欲しい
さて、これ以外の06年モデルとしての変更は、全車DSCが拡張機能付きとなり、雨天時にブレーキディスクを乾燥させるブレーキドライ機能や、急制動に備えてパッドとディスクのクリアランスを詰めておくブレーキスタンバイ機能が備わったこと。それに盗難予防のアラームシステムの標準装備化、ボディカラー&インテリアカラーの見直しなどが挙げられる。これらはいずれも装備面のローカルフィットや仕様変更で、クルマ本来の性能とはあまり大きな関係はない。

540iの試乗に先だって、530iツーリングなどの直6エンジン搭載車にも乗る機会があったが、これらは走りに関する部分に05年モデルとの差はほとんどない。今回は新型V8の仕上がりがあまりに良かったため、直6エンジンの記述が少なくなってしまったが、シャシ性能はV8とほぼ同じで、エンジンフィールにも定評のあるこちらも相変わらず魅力的だった。

ただ、5シリーズを6気筒の中から選ぶのであれば、僕は525iよりも530iをお勧めしておく。525iはどこかエンジンが眠たげで、BMWに僕たちが期待する、あの軽やかな走りが大幅にスポイルされている。2.5Lはむしろ3シリーズにこそ相応しいパワーユニットと言えるだろう。

同様の理由で、新しいV8を搭載するのが今のところセダンだけで、日本でのツーリングは直6専用となっているのも残念なポイントと言える。他の実用性重視型ワゴンと異なり、5シリーズツーリングはラゲッジルーム空間の確保にはあまり熱心とは言えず、左右荷室側壁はタイヤハウスの張り出しと面一になるまでトリムを張り出させている。

実用性を必要とする顧客は少数派と言え、それゆえエンジンラインナップも絞り込んでいるのだろうが、今回投入されたV8はそれではもったいないほどの仕上がり。ぜひとも今後はツーリングにも設定して欲しい。

それにしても、5シリーズに乗っていつも感心するのは、その完成度の高さだ。ボディやエンジン種別を問わずどのモデルでも、高い剛性と精緻なサスペンションの組み合わせが生み出す正確で質感の高い走りが楽しめる。

BMWというメーカーのイメージから、高級サルーンながらスポーティな走りを期待するユーザーが多いのだろうが、それでいて粗さは微塵も感じさせず、高速域のスタビリティやドライバーへの寛容さまで存分に味わえる。

そんなこんなで僕はEセグメントのベンチマークをこの数年5シリーズに定めていると、ここで告白しておきたい。走り出して数メートルで「これは素晴らしい」と思わせるクルマはそう多くはない。5シリーズの凛とした乗り味は、それを体現した非常に貴重なケースだと思う。(文:石川芳雄/Motor Magazine 2006年1月号より)



BMW 540i (2005年)主要諸元
●全長×全幅×全高:4855×1845×1470mm
●ホイールベース:2890mm
●車両重量:1780kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:3999cc
●最高出力:306ps/6300rpm
●最大トルク:390Nm/3500rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●車両価格:850万円

BMW 530i ツーリング(2005年)主要諸元
●全長×全幅×全高:4880×1845×1490mm
●ホイールベース:2890mm
●車両重量:1780kg
●エンジン:直6DOHC
●排気量:2996cc
●最高出力:258ps/6600rpm
●最大トルク:300Nm/2500-4000rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●車両価格:762万円

BMW 525i(2005年)主要諸元
●全長×全幅×全高:4880×1845×1470mm
●ホイールベース:2890mm
●車両重量:1620kg
●エンジン:直6DOHC
●排気量:2496cc
●最高出力:218ps/6500rpm
●最大トルク:250Nm/2750-4250rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●車両価格:620万円

[ アルバム : 540i_530i Touring_525i はオリジナルサイトでご覧ください ]

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