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トヨタ「スープラ」とBMW「Z4」兄弟車の誕生 共同開発の背景を探る

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トヨタ「スープラ」とBMW「Z4」兄弟車の誕生 共同開発の背景を探る

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2018年8月23日に開催されたたペブルビーチ・コンクールデレガンス(アメリカ)でBMWはG29型Z4の初披露を行ない、10月4日のパリ・モーターショーで正式発表された。周知のように、このZ4とトヨタ スープラは共同開発された兄弟車だ。

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BMW Z4はマグナ・シュタイヤー社のオーストリア・グラーツ工場で2018年の年末から生産が開始され、2019年3月に発売される。そして6月末まではオレンジカラーの「Z4 M40i ファーストエディション」を販売すると発表した。



17年を経てスープラ復活

トヨタ スープラは、このBMWのG29型Z4と共同開発されたスポーツカーで、市販段階では「A90型」と呼ばれることになる。カモフラージュ塗装されたプロトタイプ車には「A90」の文字も各所に散りばめられていた。

スープラという車名とA90という型式は、日本では1986年に発売されたA70 型、1993年~2002年に発売されたA80型の後継車であることを意味している。スープラという車名は、正確には1978年に発売されたセリカXXのアメリカ仕様から使用されており、アメリカ市場では新登場のA90型は5代目、日本市場では3代目ということになる。

A90型スープラは17年振りに復活するわけだが、かつてのスープラは5座席、A80型からは4座席のGTカーであったのに比べ、新型A90型は2座席のFRスポーツカーとして登場し、過去のモデルよりスポーツ性能を強く前面に打ち出しているのが特長だ。

A90型スープラの源流は、2007年にニューヨーク国際モーターショーに出展された「FT-HS」((Future Toyota-Hybrid Sport))に遡ることができる。この時点ではA80型スープラの後継モデルとされ、400psを発生する3.5L V6エンジン+ハイブリッドのパワーユニットを搭載していた。

一方、2007年には2.0Lのスポーツクーペ「トヨタ86/スバルBRZ」の企画が正式に承認され、2社による共同開発がスタート。4年という開発期間を経て「トヨタ86/スバルBRZ」は2012年春に発売された。トヨタはこの開発にスポーツ車両開発部(当時の呼称)の人材が投入されていたことと、2008年秋にリーマン・ショックが発生して世界の金融恐慌をもたらし、自動車メーカーにも大きなダメージを与えたため、「FT-HS」の企画は頓挫した。

だが、「トヨタ86/スバルBRZ」の発売を迎えた時期に、ちょうどトヨタはBMWとの技術提携の交渉を開始しており、2012年1月にトヨタ、BMWの協業の正式契約の調印が行なわれるに至った。この協業にはスポーツカーの開発が含まれており、調印と同時に新たなスポーツカー開発のプロジェクトは動き始めたのだ。

共同開発の始まり

A90型スープラの開発を担当するGR開発統括部の多田哲哉氏は、スポーツカー共同開発の責任者として直ちにミュンヘンに飛んだ。これがA90型の企画・開発のキックオフとなった。

この協業のスタートに合わせてトヨタではデザイン・スタディが開始され、スポーツカー・デザインとしてまとめられたのがコンセプトカー「FT-1」だ。「FT-1」は2014年のニューヨーク国際モーターショーでベールを脱いだ。このFT-1はトヨタ・カリフォルニア・デザインセンター(CALTY)でデザインされ、直列6気筒ターボエンジンを搭載したFRスポーツクーペだった。パッケージングは2+2とされ、ホイールベースは2740mmで、2+2のシート配置が可能だったが、実際のA90型は大幅にホイールベースを短縮したため2座席に変更されることになる。

チーフエンジニアの多田哲哉氏は、86のスバルとの共同開発でトヨタ側のチーフエンジニアを担当経験している。トヨタは商品企画、FR駆動、低重心の水平対向エンジンの搭載、4座席のスポーツクーペといった仕様やデザインを担当し、ハードウェアの開発はスバルが担当したが、スバルは2.0Lターボエンジンの搭載を主張したり、商品性での目指す方向の相違など、そもそも開発の企業文化が違う2社の間では課題は少なくなかったが、最終的には折り合いが付き、FRのスポーツクーペとして実現している。

86/BRZは自然吸気の2.0Lエンジンを搭載しているが、ハンドリング性能ではポルシェ・ケイマンを超えるレベルになったとスバル側の実験ドライバーも認識するほどで、両社は納得の仕上がりだと確信していた。

しかし、スープラの共同開発はまた新たな世界の扉を広げなければならず、スバルとの協業の経験はそれほど意味を持たなかった。一方で、BMWとの協業では、巨大企業であるトヨタと、クルマづくりに関してはプライドが高いプレミアム・カーメーカーとの共同開発であり、歴史的にも例を見ない組み合わせでの協業が行なわれることになった。

多田チーフエンジニアは、当初の企画会議でBMW側にケイマンを超えるようなスポーツカーを想定していると語ったというが、当然ながらBMW側は言葉を失った。しかし、その後の長い企画・検討の議論を経て最終的には、ピュアスポーツカーというにふさわしい俊敏なハンドリング、傑出した運動性能を追求することは共有された。

ボディとエンジン

スポーツカーの走りのイメージを具現化するため、クルマの基本諸元から検討された。もちろんベースとなるのはBMWの最新世代のCLAR(クラスターアーキテクチャー)プラットフォームだが、このモジュラープラットフォームはホイールベースやトレッド幅を自在に変更できるため、スープラ/Z4に最適化したショートホイールベース、ワイドトレッドの骨格が実現した。

これまでのZ4のホイールベースは2495mm、トレッドは1510/1535mmだが、新型Z4はホイールベース2470mm、トレッドは1595mm(全幅1864mm)で、トレッド幅が異様にワイドになっている。ちなみにポルシェ・ケイマンのホイールベースは2475mm、全幅1800mmで、Z4/スープラの方がよりワイドである。現在ではきわめて短いホイールベースで、ワイドトレッドな諸元を持っており、コーナリング・マシンを目指していることは明確である。

またZ4はコンバーチブル・ボディ、スープラはクーペボディと2種類のボディが設定されるため、オープントップ走行でも十分なボディ剛性が得られるようにフロア、サイドシルの大断面化が行なわれており、スープラのクーペボディでは静的なねじり剛性は86の2.5倍。トヨタ車として空前のボディねじり剛性が実現しているという。

シャシー部分では、サスペンション、サブフレームの取り付け剛性も最大限に重視されている。操縦性能を高めるために必須のポイントである。ボディ、フレームなどの設計、作り方はトヨタの常識とは大きく違っていたという。

サスペンションは、フロントがダブルジョイント式ストラット、リヤは新開発の5リンク式で、アルミ製リンクが多用されている。ステアリングは可変ギヤ式スポーツ・ステアリングが標準装備される。これはギヤ比も操舵アシスト特性も可変式となっている。なお、シャシーや装備は、スポーツライン、Mスポーツ・パッケージ、Mパフォーマンスの3種類があり、M40iには専用の可変ダンパー付きで、10mmローダウンされたMスポーツ・サスペンション、Mスポーツ電子制御デフ、Mスポーツ・ブレーキと高性能タイヤが装備される。Mスポーツ・デフは左右輪のトルク配分を可変制御でき、ハンドリングとトラクション性能を両立させている。

搭載エンジンはBMWの最新仕様の3.0L 直列6気筒エンジン(B58B30型Mパフォーマンス仕様)で、345ps/500Nm(アメリカ仕様は387ps)を発生する。バルブトロニック、ダブルVANOS(吸排気可変バルブタイミング)、シリンダーヘッド一体型の水冷エキゾースト・マニホールド、350Barの高圧直噴、ツインスクロールターボという最新仕様で、ガソリン粒子フィルターも備え、最新のユーロ6d-TEMP規制をクリアしている。

この直6エンジンはZ4の最もハイパワーモデルであるM40iに搭載される。トヨタにとってはスープラの伝統を守るためには直列6気筒エンジンは必須の存在で、自社では直6を製造していないので、このBMWの最新の高出力、ハイレスポンスの直6エンジンがスープラのシンボルということになる。

BMWはこの3.0L 直6エンジン以外に、2.0L 4気筒のB48B20型ツインパワーターボ・エンジンもラインアップし、Z4 sDrive30i、Z4 sDrive20iに搭載される、この4気筒エンジンも最新世代で、30iと20iは出力違いで、30i用は258ps/400Nm、20i用は192ps/320Nmだ。

トランスミッションは全モデルがZF製8速ATで、スポーツカー用にクイックな変速、ダイレクトな変速感が得られるように開発されている。

0-100km/h加速は、M40iが4.6秒、sDrive30iが5.4秒、sDrive20iが6.6秒と公表されている。

トヨタ・スープラのバックグラウンド

高出力スポーツカーのスープラはトヨタ・ブランドにとって不可欠であり、長らく待望されていた。その背景には豊田章男社長が副社長時代にニュルブルクリンク・サーキットでドライビングの訓練を受けていた時、中古車のスープラのハンドルを握らざるを得なかったというコンプレックスが影響している。言うまでもなくニュルブルクリンクで他社は、最新のスポーツモデルを走らせていた。

新生スープラはトヨタ・ブランドの走りのフラッグシップと位置づけられている。BMWと共同開発を行ない、最後の1年間の熟成チューニングでは、トヨタはBMWの実験ドライバーとは別に、トヨタ・ヨーロッパの熟練テストドライバー、ヘルヴィッヒ・ダーネンス氏を起用し、BMWとは違うトヨタ的な味付けや、GAZOOレーシング・カンパニーのGR開発統括部が求める走りを追求したという。

もちろん走り以外の部分で、BMWとトヨタの社内設計基準の違いがあるため、トヨタの社内設計基準に適合するようなクルマづくりについても摺合せが行なわれている。しかし、それにしても企画のスタートから6年を要しており、開発ための出費の多さ、販売予測からビジネスとしては赤字が想定されるため、社内では開発中止の声も上がったが、GAZOOレーシング・カンパニーの特命プロジェクトとして、発売に漕ぎ着けることができた。

新型スープラは、2018年のジュネーブショーでまず「GRスープラ レーシング・コンセプト」が出展された。これは新型スープラをベースにTMG(Toyota Motorsport GmbH)がGT4仕様として製作したモデルで、レース装備を備えているがベースのボディ・デザインは新型スープラそのものだ。

2018年7月には、トヨタはスープラがアメリカのストックカーレース、NASCARシリーズに参戦することを発表した。NASCARレースはパイプフレームに量産型ボディを架装したマシンだが、アメリカで最も人気が高いモーターレースだ。そのNASCARレースに出場し、スープラのブランド価値を高めようという戦略だ。また同じ7月にイギリスのグッドウッド・フェスティバル・スピードに迷彩塗装の新型スープラが登場し、6気筒サウンドを響かせた。

また2018年10月20日、ニュルブルクリンクのVLN耐久レースに迷彩カラーのA90型スープラがレース出場した。出場クラスはSP8Tクラスで、ドライバーは、モリゾー(豊田章男社長)、矢吹久、ヘルヴィッヒ・ダーネンスの3名だ。A90はレース用の安全装備を備えているものの、リヤウイングなしのほぼ市販仕様で、豊田社長によるスープラの最終チェックを兼ねたレース参戦だった。

BMW Z4の発売開始は2019年3月とされているが、それに引き続きトヨタ・スープラは発売される。6気筒エンジン搭載モデルの価格は700万円台からと予想されている。また生産は、オーストリアのマグナ・シュタイヤー社のグラーツ工場に委託される。

マグナ・シュタイヤー社は、現在ではメルセデス・ベンツのGクラス、BMWミニ・クロスオーバー、BMW 5シリーズ、ジャガーE-PACE/I-PACEなどの受託生産を行なっており、年間生産台数は20万台を遥かに超える自動車メーカー顔負けの規模を誇るが、フレキシブルな生産体制であり、Z4、スープラの少量生産には最適な工場ということができる。

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  • トヨタが「ケイマンを超える車を作りたい」と言ったら、BMWから「じゃあ、ポルシェと組めば? BMWはBMWの車を作るだけだ。」と言われたのは有名な話。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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