メーカーの生産台数計画では10年後でも3万台程度にとどまる
今年9月に東京で開催された水素閣僚会議の場で、菅原一秀経済産業大臣が「今後10年で燃料電池車(FCV)を1000万台に増やす」ことを提案したと伝えられた。
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FCVは、トヨタが量産市販を世界ではじめて2014年に実現し、累計3500台にまで達したが、2019年時点でそれを年間販売台数に換算すると、700台/年と計算できる。トヨタは新型MIRAIを東京モーターショーに出展し、その生産台数を3000台/年の規模にする計画であるというが、それでも10年後に3万台である。どのようにすれば10年後にその300倍以上のFCVを世に出すことができるのか? 菅原経済産業大臣に聞いてみたいものだ。
そもそも、既存の水素供給設備において、世界的に70MPa(メガパスカル=約700気圧)でFCVへ水素ガスを充填すること自体、二酸化炭素(CO2)排出量を増加させるとの見解がある。これは本田技術研究所の試算であり、既存のクラリティ・フューエルセル発売時点においても、それが解消された認識ではないと担当者は語っている。
FCV普及を足止めする要因はインフラ面にもある
理由は、水素ガス充填圧力(70MPa)が高すぎるからだ。気体は、圧縮すれば熱を発する。身近な例では、自転車のタイヤに手押しのポンプで空気を入れる場合、操作しているうちにポンプが熱を帯びてくるはずだ。そのように、常圧から700気圧まで水素ガスを圧縮すれば、当然熱を持つ。気体はまた、温められれば膨張する特性を持つ。つまり、高圧で圧縮すればするほど熱を持ち、それによって膨張しようとするため、ある限度以上は圧縮しにくくなるのである。
このため水素充填所で何をしているかといえば、プレクールと呼ばれる装置で圧縮した水素ガスを冷やしている。圧縮と冷却の両方に電気エネルギーが必要になり、結果、再生可能エネルギーに依存するか、原子力発電を普及させるかしなければ、FCVの普及は温暖化抑制に反することになるのである。それが、本田技術研究所の担当者が示した見解だ。かつての、35MPaであればCO2を増やさずに済んだとも言っている。
また、水素充填所(水素ステーション)の設置には、500平方メートル(約150坪)の敷地が必要だ。なおかつその土地は青天井(屋根なし)でなければならない。これは水素ステーション設置関係者共通の見解であるが、FCVがもっとも普及しやすいと考えられる都市部で、150坪の土地にビルを建てられないのは、所有者にとって全く採算が合わない話となるだろう。普及のための社会基盤(水素ステーション)づくりにそうした課題もある。
そのうえで、世界最先端にあるトヨタの量産技術をもってしても、年間に3000台という規模であるならば、後続の他の自動車メーカーがその水準の量産技術を構築するまでには年月が掛かるだろう。その間に、電気自動車(EV)のリチウムイオンバッテリーを中心とした原価低減と、量産体制の確立も並行しなければならない。菅原経済産業大臣の発言は、そうした現状認識を欠いた無責任な内容と言わざるを得ないのではないだろうか。
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