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【ヒットの法則55】997型911カレラ4/4Sの操縦性には日常領域から安心感があった

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【ヒットの法則55】997型911カレラ4/4Sの操縦性には日常領域から安心感があった

2005年に997型ポルシェ911に追加されたカレラ4/カレラ4S。優れたトラクション性能を誇る911に、なぜ4WDが必要なのか。ポルシェが911の4WDモデルを作り続ける理由はどこにあるのか。911シリーズの中で4WDモデルはどんな存在だったのか。「当時、911の販売の半分以上が4WDモデルだった」というデータもふまえ、モナコを拠点に行われた国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2005年8月号より)

RRでもハンパないトラクション性能を示す997型911
1989年に初代カレラ4がリリースされて以来、ポルシェが911シリーズに常に4WDモデルを加え続ける真意は一体どこにあるのだろう? 無論、ポルシェ社が自信を持って続けている事柄だけに、単なる流行などとは無縁であるのは間違いない。が、こと911の場合、FFレイアウトをベースとしたモデルに特にそうした例が多く見られるような、「ハイパワーな心臓を搭載するゆえのトラクション能力を賄うため」という単純な理由からではないのは確かであるはずだ。

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なぜならば、リアのオーバーハングにエンジンを搭載するという911ならではのRRレイアウトが生み出すトラクション能力は、そもそもハンパなものではないからだ。事実、少なくともその走りのシチュエーションを「舗装路上」と限るのであれば、たとえそれがヘビーウエットという状況下でもそのトラクション性能に不満などまったく生じないというのが911というクルマの走りのひとつの大きな特徴だ。

となると、いよいよ「4WD化の目的はどこにあるのか?」という疑問が湧いてきても不思議はない。それを知りたいのならば実際に4WDの911に乗ってアクセルペダルを深く踏むことだ。911の場合、RRモデルとの操縦安定性の違いというのは、ある程度スピードが乗って来ないと正直わかりにくい。

新しい911、すなわち997型のビークルダイナミクスの素晴らしさはすでに世界各地で報じられている。中でも、「もはや完成形にあるのでは」と思われた996型の仕上がりを予想以上の歩幅で飛び越え、再び世界のベンチマークに足る運動性能とともにファットな19インチのタイヤを履くことが信じられないほどのコンフォート性能を両立させた点は、ぼくにとっても「驚き以外の何物でもない」と思えるものであった。

しかし同時に、RRレイアウトゆえのナーバスな挙動が完全に消えたわけではないのも、また確かと報告しなければならないだろう。たとえば、高速走行時のアンジュレーションをきっかけとした、後輪側を軸としたピッチング方向の動き。そして、それによる前輪接地感の変化といった事柄は、997になっても完璧にフォローができているとは言い切れない。

もちろんRR仕様の997でも、日常的なシーンでは何の不満も抱かない。それどころか、RRレイアウトの持ち主でありながらあそこまでの安定感を演じられるというのは、むしろちょっと驚異的ですらある。200km/h程度までの速度で乗る限り、997の動きには格別の神経質さは認められない。当然ながら日本の常用シーン程度では、新しいカレラ/カレラSの動きは「どっしりと地に足が着いた感じ」と言っても良いくらい。「997は安定感バツグン」という表現は、そんなシーンでは間違いなく当たっていると言うことができる。

とは言え、今や911というクルマはベーシックモデルでもそのトップスピードが250km/hを優に超える。過給器の助けを借りない状態でも、もう少しで300km/hに手が届こうという超高速性能を手中に収めたスポーツカーなのだ。実際にどれほどのオーナーがそうした速度域にまでトライをするかという問題はひとまず置いて、現実にそこまでのスピードが出るモデルであるということは考慮すべきだろう。

となると、正直なところこれまでのRRの997というのは、オーバー200km/hレベルでの安心感は特に秀でているとは思えなかった。前述のように路面にアンジュレーションがあったりすると、それをきっかけに前輪の接地感は大きめに変化する。

さらに、それがコーナリング中であればそうした挙動が何となく「ノーズが左右に泳ぐ感じ」を生み出して、きれいなコーナリングフォームを維持していくのを難しくすることにもつながっていた。997のビークルダイナミクスは、こうしたシーンにまで踏み込むと「完全無欠」とは言い難かったのである。

日常領域でも味わえる漠然とした安心感
ところが、前輪に伝わる駆動力とそのシステムを構築するために、結果として前輪側に加わることになったおよそ50kgという重量は、ある程度まで限界域に近づいた走りのシーンでは想像以上に大きな操縦安定性への影響を発揮する。前述のRRモデルに見られる後輪側を軸としたピッチング挙動はそのレベルを大幅に減らし、同時に荷重に依存をして増すことになる前輪のグリップ力が、タイトターンでのアンダーステアをも減らしてくれることを実感できるのだ。

先に「飛ばしてみないと操縦安定性の違いはわかりにくい」と述べたが、漠然とした安心感という点では、もっとずっと日常領域に近い部分からその差が感じられることも加えておこう。高速クルージング時の前輪の座り感は明らかにRRモデルよりも高く、リラックスした走りを味わわせてくれる。高速コーナリング中にアンジュレーションに出会った際に必要な修正舵は、その頻度も大きさもより小さなレベルで済む。

もちろん夢物語ではあるが「東名高速を3時間で走破せよ」と言われれば、誰もがカレラではなくカレラ4、カレラSではなくカレラ4Sに好印象を抱くはずだ。仮に同じ時間で走破をしたとすれば、その際の疲労度は全く違ったものになること請け合いである。

もっとも、そんな4WDモデルが失うものがまったくないわけではない。動力性能に関しては50kgプラスの重量によるハンディキャップは事実上皆無。が、ハンドリングの軽快感という点では「やっぱりRRモデルに分がある」と感じられる。

たしかに、特にターンイン時点でのノーズの動き感には明らかな差が感じられる。比べれば4WDモデルの動きはやや重さ感が強く、より高い軽快さを味わうことができるのがRRモデルだ。もっとも、ここで4WDモデルの持つ重さ感というのは、重厚感として好意的に解釈ができないではない。さらに、「そんな部分に軽快さを欲するのであれば、選ぶべきはむしろボクスターの方」とそんな意見も出てくることだろう。

こう考えて来ると冒頭の議題が、「どちらが良いか悪いか」ではなく「どちらがより好みに合うか」という事柄であるのがわかって来る。ちなみに、スポーツカーといえども移動のためのひとつのツールと考えるぼく個人としては、「選びたいのは迷わず4WDモデル」というのが結論。が、同時に「それとは真っ向逆」という意見の人が現れてもそれを疑問に感じることもまったくない。(文:河村康彦/Motor Magazine 2005年8月号より)

ヒットの法則のバックナンバー

ポルシェ911 カレラ4(2005年)主要諸元
●全長×全幅×全高:4427×1852×1310mm
●ホイールベース:2350mm
●エンジン:対6DOHC
●排気量:3596cc
●最高出力:325ps/6800rpm
●最大トルク:370Nm/4250rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:4WD
※欧州仕様。ティプトロニックS 5速ATも設定。

ポルシェ911 カレラ4S(2005年)主要諸元
●全長×全幅×全高:4427×1852×1300mm
●ホイールベース:2350mm
●エンジン:対6DOHC
●排気量:3824c
●最高出力:355ps/6600rpm
●最大トルク:400Nm/4600rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:4WD
※欧州仕様。ティプトロニックS 5速ATも設定。

[ アルバム : ポルシェ911カレラ4/カレラ4S はオリジナルサイトでご覧ください ]

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