■いい味出している邦画に登場したクルマたち
映画に登場するクルマは単なる小道具というだけでなく、映画のストーリーに深く関わることがあります。
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なかにはクルマを題材にしている映画や、カーチェイスなどのアクションが大いに話題となり、使われたクルマの販売に影響したケースもあったほどです。
そこで、日本映画にした登場印象深いクルマを5車種ピックアップして紹介します。
●日産「ブルーバードSSS」【栄光への5000キロ】
石原プロモーションが制作し1969年に公開された「栄光への5000キロ」は、1966年のサファリラリーでクラス優勝とチーム優勝を勝ち取った日産チーム監督の笠原剛三氏が記した、「栄光への5000キロ – 東アフリカ・サファリ・ラリー優勝記録」を原作とした映画作品です。
故・石原裕次郎が演じるレーサーの五代高行(ごだいたかゆき)が、日本を離れ海外のレースで活躍しながらも事故によりチームが解散。
日本に戻り日産ワークスチームから日本グランプリに出場したことで実力を認められ、「ダットサン・ブルーバードSSS(510型)」で東アフリカ・サファリ・ラリーに参加する道を手に入れます。
日本以外にもヨーロッパやアフリカで長期ロケを行った大作で、サファリラリーのシーン撮影は実際に1969年の第17回サファリラリーでおこなわれ、その際にも日産は上位入賞します。
翌年の第18回サファリラリーでは映画撮影用車両と同じ、赤いボディにボンネットだけを艶消し黒にカラーリングした日産ワークスカーが総合優勝を飾るなど「DATSUN」の名前を世界に広めた一台です。
この映画の見どころのひとつとして、前半の日本グランプリのシーンで、当時の富士スピードウェイにあった「30度バンク」をレーシングカーが走るシーンは、レース好きにはたまらないものといわれています。
●ダイハツ「ミゼット」【ALWAYS 三丁目の夕日】
1958年、建設中の東京タワーを望む下町に、家族想いの父、鈴木則文と優しい妻のトモエ、やんちゃな小学生の一平が暮らす、夕日町三丁目の小さな自動車修理工場「鈴木オート」がありました。
青森から集団就職列車に乗って上京してきた星野六子という女子が、間違って鈴木オートに就職してから、六子のまわりで起こるさまざまな出来事を描写した作品が「ALWAYS 三丁目の夕日」です。
この映画のなかに登場するのが、1957年から生産されていた軽自動車規格の三輪自動車、ダイハツ「ミゼット」です。鈴木オートの業務用として使われていました。
当時は車検免除や安い税額などのメリットを持っていた軽オート三輪トラックが、個人商店の需要に合致すると考えたダイハツは、高い信頼性と実用性を備えながら大量生産による低価格販売を実現し、ミゼットはベストセラーカーとなります。
映画プロデューサーの阿部秀司氏が考えていた、自分が少年時代だった昭和30年代の映画を作りたいとの企画に対し、西岸良平氏のコミック作品「三丁目の夕日」をもとに、山崎貴監督と脚本家の古沢良太氏が共同で脚色した、人々の温かな交流を描くストーリーとなっています。
映画に出てくる夕日町三丁目の街並みはすべてセットで再現され、当時のクルマや家電品などは各地から集められた本物を使っていました。
また、建設中の東京タワーや国鉄時代の上野駅、蒸気機関車、路面電車などをCGでリアルに再現した点も、2005年の公開と同時に話題となりました。
●日産「テラノ」【いつかギラギラする日】
1992年公開の「いつかギラギラする日」は、いくつもの銀行を襲い大金を略奪していたベテランギャングチームの3人が、ホテルの売上金強奪計画の仕事を受け北海道に向かい、成功しながらも仲間の裏切りで現金争奪戦が展開され、死闘を繰り広げるストーリーのアクション映画です。
「仁義なき戦い」シリーズや「バトル・ロワイアル」シリーズでおなじみの、故・深作欣二監督作品で、アクションシーンでは、大量のクルマの破壊と火薬使用、銃撃シーンの多さで、当初の制作予算を大幅にオーバーしたといいます。
そうして作られた、爆破やカーチェイスシーンは、日本映画離れした迫力で、後半の木村一八演じる「角町」が乗る赤いポンティアック「ファイヤーバード」と、故・萩原健一が演じるギャングのボス「神崎」が運転する初代日産「テラノ」のカーチィスはとくに見ものです。
なかでも、ラストシーンのテラノによるカーアクションは、日本映画史上でも他に類を見ないもので、いまも語り継がれています。
1986年に発売されたテラノは「ダットサントラック」とシャシを共有するSUVで、本格的な4WD車として人気を博し、劇中のようにタフなクルマでした。
■ストーリーに欠かせない存在だったクルマも
●光岡「ビュート」【探偵はBARにいる】
大泉洋が演じる探偵と松田龍平が扮する「高田」のコンビが主演を務める「探偵はBARにいる」シリーズは、東直己の推理小説シリーズ「ススキノ探偵シリーズ」を原作としたハードボイルド映画です。
アクションシーンとコメディ要素に、男の哀愁が漂うストーリー展開が魅力で、2011年の第1作目公開から老若男女を問わず幅広い層に支持されています。
北海道のススキノを根城とする探偵が、助手で相棒兼運転手の高田とともに事件に巻き込まれつつ、真相を解明していくストーリーはシリーズ共通のもので、探偵は依頼人からの連絡を行きつけのバー「ケラーオオハタ」の電話で受けるために、店の名刺を持ち歩いています。
シリーズ各作品に高田の愛車「高田号」として登場するのが光岡の初代「ビュート」です。ビュートは日産「マーチ」をベースに光岡がカスタマイズしたコンプリートカーで、現行モデルは3代目になります。
劇中ではビュートはボロボロの状態で「優しくお願いしないとエンジンがかからない」というキャラクターづけがされており、走行中にミスファイヤーを連発。
外装もボディはへこみ塗装が剥げている演出がされていますが、探偵たちのピンチを救ってくれる相棒となっています。
なお、2013年に2作目の公開を記念して、光岡から特別仕様車「ビュート 探偵はBARにいる」が20台限定で発売。ケラーオオハタのマークを使ったエンブレムやステッカー、本革シートなどが装備されていました。
●トヨタ「セリカGT-FOUR」【私をスキーに連れてって】
1987年秋に公開された「私をスキーに連れてって」は、スキーの腕前だけはプロ並の総合商社に勤める商社マンの矢野文男(三上博史)が、スキー場で知り合った初心者の女性、池上優(原田知世)にひと目惚れすることから物語が始まります。
スキー場をメインの舞台にする、後のトレンディドラマの原形にもなった作品でしたが、世の中に対する影響力はものすごく、バブル景気も相まってスキー場の混雑はいまでは考えられないほどでした。
スキーは家族で行くものから、友達や恋人と行くというのが流行になります。
「私をスキーに連れてって」には、冒頭のシーンから登場する文男の愛車、トヨタ「カローラII リトラGPターボ」がありますが、映画の影響で人気となったのが「セリカGT-FOUR」です。
1986年に発売されたセリカGT-FOURは、スタイリッシュなボディに、高性能エンジンとフルタイム4WDの駆動方式を採用したクルマで、劇中には佐藤真理子(原田貴和子)と羽田ヒロコ(高橋ひとみ)の愛車として登場します。
文男のカローラII リトラGPターボが、スタッドレスタイヤを履いていたにも関わらず雪道で苦戦しているところを、2台のセリカは何事もないかのように進むシーンもあり、スキー場へは4WDで行くべきであると当時の若者たちの意識の中にすり込まれていきました。
なお、発売当時のセリカGT-FOURの新車価格は297万6000円(東京店頭価格、以下同様)で、FFのセリカの最上級グレード、セリカGT-Rが207万7000円でしたから、かなり高額なモデルでした。
※ ※ ※
映画に登場するクルマの多くは、自動車メーカーとのタイアップの場合が多いため、とくに日本映画の場合はぞんざいに扱うことが難しくなった印象です。
その反面、真面目に映すだけでは話題になることも少なく、昔のように映画を見てクルマを買うという流れも聞かなくなりました。
日本映画でも、もう少しクルマの見せ方を工夫すれば話題になるのかもしれませんが、いまはそういう時代じゃないのかもしれません。
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