毎年、さまざまな新車が華々しくデビューを飾るその影で、ひっそりと姿を消す車もある。
時代の先を行き過ぎた車、当初は好調だったものの市場の変化でユーザーの支持を失った車など、消えゆく車の事情はさまざま。
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しかし、こうした生産終了車の果敢なチャレンジのうえに、現在の成功したモデルの数々があるといっても過言ではありません。
訳あって生産終了したモデルの数々を振り返る本企画、今回はホンダ S-MX(1996-2002)をご紹介します。
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文:伊達軍曹/写真:HONDA、TOYOTA
■S-MXをS-MXたらしめた「インテリアのあれこれ」
1990年代中盤のホンダは「クリエイティブ・ムーバー=生活創造車」と呼ぶさまざまなRV(レクリエーショナル・ヴィークル)を世に送り出していました。
ホンダS-MXはその第4弾として1996年に登場した、今で言うトールワゴンです。しかし世間的には「若者向けのデートカー」と認識されていたかもしれません。
S-MXのベースは全長4605mmの初代ステップワゴンですが、その全長を3950mmまで切り詰め、前後2列のベンチシートを配置しています。
小型サイズでありながら、個性的な四角いデザインに広い室内空間の確保を目指し登場したホンダ S-MX
このベンチシートは完全フルフラットにすることが可能で、車中泊にも最適な大容量のフリースペースが得ることができました。
S-MXに装着されたドアはスライドドアではなくヒンジ式のスイングドアでしたが、左側は通常のクルマと同じく前後にドアが設けられたものの、右側は1枚だけという変則的なレイアウトです。
搭載エンジンは2Lの直4DOHC16バルブで、低・中速を重視した専用チューニング。なお前期型も後期型も同じ「B20B型」というユニットです。
そしてサスペンションは前輪がストラットで、後輪はインホイールタイプのダブルウィッシュボーン式……という話よりも、S-MXの場合は「インテリアのあれこれ」について語るべきでしょう。
S-MXのインテリアは、まさに「恋愛仕様」といえるものでした。
シフトレバーがハンドル近くにある「コラムAT」を採用し、なおかつサイドブレーキもステップワゴンと違って運転席の右側に配置されましたので、前席ベンチシートに座るドライバーとパッセンジャーは(その気になれば)ぴたりと寄り添うことができました。
正面から運転席と助手席を俯瞰した写真
また前席だけでなく後席ベンチシートもスライドさせたうえで倒せば、S-MXの車内はほぼ完全で快適なフルフラット状態になります。
そのためS-MXは一般的な車中泊に向いていただけでなく、カップルにとっても最適な作りでした。
そしてこれは有名な話ですが、S-MXのシートをフルフラットにした際にちょうど「枕元」となる位置にあるグローブボックスは、市販の「ティッシュボックス」を収めるのにジャストな寸法だったのです。
シートをフルフラットにした状態
そのような「恋愛仕様」(?)として売り出されたホンダS-MXは、最初のうちこそ1カ月平均6000台を超える好調なセールスを維持しましたが、いつしか失速。
2002年3月には生産終了となり、同年8月には販売終了となりました。そして直接の後継モデルは登場することなく、1代限りでホンダの歴史のなかから消えていきました。
■短命に終わった3つの理由とは
ホンダS-MXが1代限りで生産終了となってしまった理由は、基本的には3つあるはずです。ひとつは、後から登場したトヨタbBに市場をさらわれたということ。
S-MXから約4年遅れて登場したトヨタbBは、ヴィッツがベースですので車格としてはS-MXより下なのですが、「S-MXと似たようなコンセプトである」ということと、「それでいてS-MXより安い」ということで、S-MXの潜在顧客層を根こそぎ持っていきました。
トヨタから登場した「bB」。こちらは2016年まで生産され、現在はタンクがその後継として存在する
もうひとつの理由は、申し訳ないですが「車としての出来がイマイチだった」ということに尽きるでしょう。
もちろん、前章で詳述したシートアレンジなどに代表される「使い勝手」に関しては、S-MXは優秀な車でした。4mを切る短い全長でありながら車内は広々と使えましたし。
ただし「走り」はお世辞にもホメられるものではありませんでした。まあ悪くはないのですが、だからといって良いわけでもない……みたいな感じです。
とりわけ「ローダウン仕様」の乗り心地はちょっと酷なモノがありました。
そして第3の理由は「恋愛仕様」のイメージが強すぎた……ということになると思います。
そういったドキッとする感じのマーケティングは、最初のうちはウケるものですが、飽きられるのも早かったりします。
また「ティッシュボックスうんぬん」みたいな話が出回りすぎると、普通に車中泊とかに使いたい人は買いづらくなってしまいます。そんなつもりはいっさい(ほとんど?)ないのに誤解されてしまうのは、心ある大人であれば避けたい事態でしょう。
以上の理由により、最初はスマッシュヒットとなったもののいつしか飽きられ、そして消えていったホンダS-MX。
しかしS-MXの「恋愛うんぬん」といった部分を除いた「純粋な車としてのコンセプト」は、決して悪くなかったように思えます。
ホンダの得意とする空間の有効活用が存分に発揮された1台とも言える
余裕あるベース車をコンパクトに切り詰めて取り回し性能を向上させ、それでいて車内は十分広々と使えるように工夫をこらす。
さらには、動力性能うんぬんではなく「実用車としての使い勝手」にひたすらこだわる。……賛否両論はあるでしょうが「カップルに便利な車を作る」という実用性(?)の追求も、決して悪い話ではなかったと筆者は考えます。
それはさておき、S-MXの直接の後継モデルは生まれなかったものの、その「コンパクトでシュッとしたカタチのなかに抜群の実用性を織り込む」という考え方は、現在のホンダ フリード+に受け継がれている気もしないではありません。
■ホンダ S-MX 主要諸元
・全長×全幅×全高:3950mm×1695mm×1750mm
・ホイールベース:2500mm
・車重:1330kg
・エンジン:直列4気筒DOHC、1972cc
・最高出力:130ps/5500rpm
・最大トルク:18.7kgm/4200rpm
・燃費:11.2km/L(10・15モード)
・価格:164万8000円(1996年式S-MX)
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