2年計画でレーシングビートの記録更新を狙う!
Day.1(8/14 Sat.)
「2年目の戦い、はじまる」フルチューンFC3Sで世界最速に挑んだ男の物語/前編【DANDY×FC3S最速王座・奪取計画at2010】
スタート準備の最中にミッションが異音を放つ!?
遥か彼方まで続く塩の湖と澄み渡った空。白と青のコントラストがまぶしすぎるソルトフラッツに、2010年もダンディFC3Sが帰ってきた。
今回ステアリングを握るのは、前年のドライバーを務めたFC3Sオーナー常世田サンの親友、塩井 玲(写真左)。ボンネビルに挑むのは初めてだ。田中サンいわく「ウチのお客サンの中で、いちばん踏みっぷりがイイかもよ」とのこと。
前年は安全装備面の不備を指摘され、ロールケージの溶接補強など大がかりな作業を現地で行わなければならなかったから、車検に通ったのがレース2日めの夕方だったけど、今年はレース初日の午前中にパス。
ただ、前日の車検時にインスペクターから手直しを求められていたポイントが5ヵ所、あるにはあった。
まずはホイールナット。テーパー部の直径が小さく、最低1インチ(2.54cm)以上のモノに交換せよとの指摘が。そこで、レンタカーで借りてたクライスラーのミニバン用ナットを装着。「レギュレーションにはそんなこと書いてないのにね」と田中サンがボヤく。
続いてシート位置。ドライバーが座った時、ヘルメットとロールケージのクリアランス確保のため、内側にオフセットさせなければならなくなった。ただ、シート自体の取り付け位置をセンタートンネル寄りにはできないから、左側を浮かせるようにして対処することに。
さらに、リヤロワアーム。万が一に備えて、完全に脱落しないよう補助ワイヤーを追加した。それ以外の2ヵ所は、パラシュートを開くワイヤー位置の変更と、フライホイールがベルハウジングを突き破った際、燃料ラインを保護するスチールプレートを追加したことだ。
また、車検に合格するとドライバーの緊急脱出テストが行われる。ヘルメットやレーシングスーツを着用してシートベルトを装着し、ドア&サイドネットが閉まった状態から5秒以内に車外に出なければならないのだ。
これでスタートの準備は万端。運転席に収まった田中サンが暖気のためエンジンを始動すると、細かくビートを刻む歯切れのいいペリターボサウンドがピットに響きわたる。調子はすこぶるよさそうだ。
エンジンが暖まってきたら、ミッション&デフにもオイルを回すため1速とリバースに交互にシフトしながら、ゆっくりと前進、後退を繰り返す。クラッチの切れがよくないのか、何度もペダルを踏み直してシフト操作する田中サン。ギヤが入った瞬間、ガクン…とクルマに衝撃が伝わるのが、傍から見ていてもわかる。なにか様子が変だ。
バキッ、ガラガラガラガラ…。FC3Sが突然、明らかに普通でない音をたて始めた。
すぐにエンジンを止めた田中サンが、クラッチペダルとシフトレバーの感触を入念に確かめる。
「ペダルストロークもシフトタッチもおかしい。もしかしたらミッションは2速か3速のギヤが飛んでるかも…。1998年に、このFC3Sが初めて走った時もクラッチがトラブったんだ。ココにくると必ず何か起こるね」。
スタートを目前にまさかの駆動系トラブル。当然、自走は不可能で、手もとにはスペアパーツもない。去年果たせなかった“打倒、レーシングビートFC3S”を目標にソルトフラッツまでやってきたのに、このまま走らずに終わってしまうのか?
田中サンとメカニックのノグたんが作戦会議。出ている症状からトラブル発生ポイントを絞り込み、まずはミッション&クラッチを降ろさずに問題を解決する方法を話し合う。
ミッションを降ろす前に内部の問題か、それともレバー側の問題かを判断するため、レバー側からオイルを注入。シフトフィールに変化がなかったから内部の問題と断定して、ミッションを降ろすことになった。
そこに助け舟を出したのが、前年に続き今年も手伝いにきてくれたアメリカ人のジョー。カリフォルニアでBMWのチューニングショップを開いていて、FC3Sの純正ミッションを持ってる知り合いがいるという。すぐに連絡を取ってみると、「現地に持っていくから月曜まで待ってくれ」とのこと。これでミッションは手配できた。
残るはクラッチ。「ファイナル比が2.73と超ハイギヤードだから、去年は60km/hくらいまで半クラッチを使いまくりだったでしょ。それでプレートが熱を持って反っちゃってるのかもしれないね」と田中サン。
とりあえず、日本のATSからアメリカ営業所に連絡を取ってもらい、新品のプレートがあることを確認。それをジョーの知り合いが引き取り、純正ミッションとともに持ってきてくれることになったのだ。
Day.2(8/15 Sun.)
塩の上でバラシ作業開始、トラブルの原因を追究
田中サンとメカニックのノグたんが、朝9時からクラッチ&ミッションを降ろし始める。とはいっても、ココは塩の上。FC3Sをウマにかけた状態で、人力だけによる作業だ。
プロペラシャフトを取り外すまでが大変。まずマフラーを外し、そのあとホーリングのデフキャリア部から伸びるリヤサスアームの前端をフロアから切り離さなければならないからだ。
ピット脇のロングコースを駆け抜けていくマシンのエキゾーストサウンドを聴きながら、ふたりは手ぎわよくパーツをバラしていく。
作業が制約される限られたスペースの中で、メカニックのノグたんがミッションの取り外しに成功。
早速、降ろされたHKS製6速ミッションをチェックする。2~3速のタテのラインだけギヤが入りにくくて、一度入ったらなかなか抜けず、しかもニュートラルに入れててもメインシャフトが回らないことが判明。ギヤの歯飛びや2重噛み合いなど、おそらく内部は致命的な損傷を受けているに違いないと判断された。左端が純正ミッションを手配してくれたジョーだ。
田中サンいわく、「昨日は、2~3速がなければ1速9000rpmシフトで4速にチェンジ…というのも考えてたけど、この感じだと、たとえ走らせても、いずれブローしたりギヤがロックしたりする可能性が高かったハズ。降ろして正解だったね」とのこと。
一方のクラッチは予想通り、プレッシャー&センタープレートが反っていた。それも目で見てわかるほどだから、クラッチペダルを踏みこんでも、クラッチが完全に切れてなかったことになる。その状態でシフト操作すれば、当然ミッションにもダメージが及ぶ…今回のトラブルの原因は、そう推測された。前年の“ツケ”が、こんなタイミングで回ってくるとは…。
作業と各部のチェックがひと段落したところで、田中サンがぽつりとつぶやく。「このFC3Sは前期型だけど、明日持ってきてもらう純正ミッションは後期型用。だから、ちゃんとつくのかどうか、ちょっと不安なんだ。ジョーに確認してもらったら問題ないみたいだけど、もし合わなかったら、そこで終わっちゃうからね」と。
ちなみに、プロペラシャフトはノーマルを使っているから、ミッションケースの寸法さえあえば搭載可能だ。それと、5速直結のHKS製6速ミッションに対して、純正は4速直結の5速ミッションになるのが大きな違いだけど、田中サンとしては直結ギヤで最高速を狙っているから、HKS製でも純正でも計算上のトップスピードは変わらない。
ただ、直結ギヤに到達するまで4速あるのか、3速しかないのか。そこは間違いなく中間加速性能に影響を及ぼす。
出走取り止めという絶望的な状況からはなんとか脱することができそうだけど、一方で新たな不確定要素が田中サンを悩ませることになったのだ。
Day.3(8/16 Mon.)
トラブルを克服してスタートラインにつく!
朝10時半。ジョーの友だちが運転するピックアップトラックに載せられて、純正ミッションとクラッチプレートがカリフォルニアから届けられた。
しかも純正ミッションは万が一、後期ターボ用が搭載できなかった時の保険としてNA用(北米にはFC3SのNAモデルが存在した)まで持ち込まれたが、ジョーが言うように後期ターボ用を使えることが確認できた。これには田中サンも思わずニンマリ。
「走行距離が不明で程度はわからないし、メインシャフトがサビてたからクラッチと組み合わせにくかったけど、細かいことは気にしてられないでしょ。これで走れるようになるんだからさ。とにかく1200kmも自走して持ってきてくれたジョーの友だちには、ホント感謝だね」と田中サン。
クラッチは、熱で反ったプレッシャー&センタープレートを新品に交換。13時にはミッションが載って、ドライブシャフトの接続やリヤサスアーム&マフラーの装着まで完了した。
一方、手こずったのはジョーが持つミッションマウント。ブラケットはミッション側にターボ用、フロア側にNA用を使ったせいか、その間になかなかゴムブッシュを入れることができずひと苦労。時間的なロスを最小限で食い止めるため、ようはミッションを支えられればイイと割りきって、ゴムブッシュの代わりにワッシャーを挟み込んだリジッドマウントで対処することにした。
ミッション載せ換え作業。後端をガレージジャッキで持ち上げながら、メインシャフトのスプラインをクラッチディスクにかませる。「メンドラがサビてたから、なかなか入ってくれなくて…」とノグたん。
苦労してつくったワンオフミッションマウントを装着して完了。作業が終わったのは15時半。運転席に座ってエンジンをかけた田中サンが、クラッチペダルを踏み、ギヤを1速に入れる。ボディに変な衝撃が伝わることなく、そろそろとFC3Sが動き出すと、チームスタッフから歓声が上がった。これでやっと走れるのだ!
初日、2日目と作業に時間を取られたけど、「もうダメかも…」という状況から見事に復活!! 走らせることを決してあきらめなかった田中サンの思いと行動力が実を結んだのだ。走りたくてウズウズしてたレイからも、自然と笑みがこぼれる。
コースごとに決まっているアタック後のクルマを退避させる方向を最終確認。それを間違えると、大きなアクシデントの可能性が高まるだけでなくレースの進行にも大きな支障をきたすから、念入りに確認する。
陽が傾き始めた18時、いよいよ1本めのアタックだ。ライセンス制度が採られるボンネビルスピードウィークでは、所有ライセンスによって計測区間での上限スピードが設けられている。つまり、パフォーマンス的に400km/h出せるクルマでも、ライセンスがなければいきなりアクセル全開にはできないのだ。
初参戦となるレイの場合、初めはライセンスなしだから、まずライセンスEを取得。徐々に上限スピードを上げながら、D→C→B→Aと順に取得していかなければならない。
また、ライセンスCまでは全長5マイルのショートコースしか走れず、B以上を手に入れると全長8マイルのロングコースでアタックすることが許される。レイがまず獲得を目指すライセンスEは120MPH(193km/h)以下で走行しなければならない。
各ライセンスの獲得に必要なスピードは、ギヤポジションとエンジン回転数で示される。机上の計算に加えて実測値との誤差を補正係数としてかけてるから、そこから弾き出される数値は極めて正確なのだ。
スタートラインについたFC3S。レーシングビートが持つクラスレコード、238.442MPH(383.653km/h)を塗り替えるための闘いが、いま始まる。
ボンネビル初走行となったレイいわく、「ビックリしたのはスピード感がまったくないこと。200km/h近く出てるのに、体感的には80km/hだからね。当然、クルマも問題ナシ! 半クラッチはちゃんと使えるし、この速度ならエンジンにまったく負荷がかかってないニュートラル巡航をしてるみたい。路面はフラットなのに下ってるように感じる…って言えばイイのかな。だから、クルマが前に行こうとしてるのを抑えるように走ったよ。ただ、2速から3速へのシフトアップでエンジン回転数の落ちこみが大きい。3速でしっかり加速させるには8500~8800rpmでチェンジしないとダメだね」とのことだ。
■ATTACK for ライセンスE
計測地点 通過速度
2mile 108.233MPH(174.147km/h)
2.25mile 108.156MPH(174.023km/h)
3mile 108.384MPH(174.390km/h)
※取得の条件:120MPH(193.080km/h)以下
●PHOTO:小林克好(Katsuyoshi KOBAYASHI)/TEXT:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)
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