2019年8月末に日本でも発売を開始し、11月以降に納車が開始される3代目となったBMW1シリーズは、駆動方式がBMW伝統のFR(フロントエンジン・リアドライブ:後輪駆動)からFF(フロントエンジン・フロントドライブ:前輪駆動)となったことでも注目されている。
1シリーズがFRからFFになったことの是非に関しては日本でのテストがまだ行われていないこともあり先送りとして、特に1980年代には合理化のため小型車のFF化が進んだのもありフルモデルチェンジの際にいろいろな事情でFRからFFになったクルマも多かった。
当記事ではFRからFFに移行した代表的なクルマをピックアップし、その是非を考察していく。
文:永田恵一/写真:TOYOTA、MAZDA、NISSAN、ベストカー編集部
【画像ギャラリー】FF化されたBMW1シリーズ(本国仕様)
トヨタカローラレビン&スプリンタートレノ(4代目→5代目)
今でも絶大なる人気を誇るAE86レビン&トレノ(写真はレビン)で、カローラ系の最後のFRモデルとして記憶に残る1台だがバカ売れしたわけではない
カローラ&スプリンターファミリーは、1983年登場の80系で2ドアクーペと3ドアファストバックのカローラレビン&スプリンタートレノを除きFRからFFに移行した。
この時レビン&トレノだけがFRをキープしたのは、「FFのスポーツモデルの新開発のカローラFXもあり、すべてのスポーツモデルをFFにするのは変化が大きすぎるため80系レビン&トレノは一世代FRで様子を見る」、「80系レビン&トレノはエンジン以外の基本コンポーネンツは先代の70系のものを使うため、モデルチェンジ後もモータースポーツで即戦力が期待できる」といった、トヨタらしい慎重な判断が理由だった。
80系レビン&トレノはこの時に新開発された1.6Lのスポーツエンジンである4A-GEこそ素晴らしかったものの、車体の古さもありノーマルカー自体は当時でも決していいクルマとは言えないのも事実だった。
しかしそれだけにモータースポーツやチューニング業界に育てられ、手を加えれば楽しいクルマに成長し、希少なコンパクトFRということもありドリフト業界をはじめ現代でもファンに愛されている。
AE86はエンジン以外は基本的に先代モデルのTE71がベースとなっていたため走りの性能もそれほど高くなく新車で売られていた当時は評価もイマイチだった
そしてレビン&トレノは予定どおり1987年登場の90系でFFに移行する。
90系レビン&トレノはカローラファミリーらしい高いクオリティやミニソアラ的なスタイル、クルマとしてもFF化による軽量化やスーパーチャージャー搭載車も設定したことで格段に速いクルマとなり、商業面など広い目で見れば大成功を納めた。
しかし発売当初はレビン&トレノが90系にフルモデルチェンジされたことで、一時的にコンパクトFRがほぼ絶滅状態となったこともあり、アクセルオンでテールをスライドさせるドリフト走行に代表されるFR車のコントロール幅の広さを好むスポーツ志向の強い一部のユーザーから猛反発があったのも事実だった。
一時的と書いたようにその後S13シルビア(1988年)やユーノスロードスター(1989年)といったコンパクトFRが登場したこともありそういった声は薄れたが、それでも80系レビン&トレノは未だに伝説的な名声を保っている。
【結論】
心情的には受け入れられないにせよ、カローラ&スプリンターが合理性を重視した実用車であるのを長期的な視野で考えれば、正しい選択だった。
レビン/トレノのFF第1弾が90系で写真はレビン。スッキリ系のデザインが受け、FR消滅を惜しむ声をしり目に大ヒットモデルとなった
トヨタスターレット(2代目→3代目)
スターレットも80系カローラ&スプリンターと同様に1984年登場の3代目モデルでFF化された。
実用コンパクトの3代目スターレットは前述したスポーツ志向の強い80系レビン&トレノとはジャンルが異なることもあり、FF化は軽量化や室内空間の拡大、低コスト化など得るものばかりで、正常進化を果たした。
コンパクトなFRとしてビギナーにも大人気。新車だけでなく中古車としても売れた2代目のKP61スターレット。FRの練習車として最適だった
走りに関してもエンジンが1.3L級とパワーが限られていたためFRのメリットがそれほどなかったこともあり、むしろエンジンが新しくなったのと軽量化による動力性能の向上は歓迎された。
さらにモータースポーツでも簡素なベース車を設定しや後にターボ車を追加したこともあり、モータースポーツ業界ではスターレットのシェアはさらに拡大するなど、FF化による悪影響は皆無だった。
【結論】
スターレットのFF化は大成功。
かっとびスターレットの愛称で大人気となったFF初代のEP71は写真のターボが若者から熱い支持を得た。モータースポーツでも活躍した
マツダファミリア(4代目→5代目)
ファミリアの最後のFRとなったのが4代目。地味だが実用的でFRながら室内も広々していたため販売面でも成功。走りもナチュラルなハンドリングに定評があった
ファミリアもカローラ&スプリンターやスターレットと同様に合理化や自体の流れに沿い、1980年登場の5代目モデルでFF化された。
ファミリアは最後のFRとなった4代目モデルも充分成功したモデルだったが、FF化は実用車にメリットが大きいこともあり、前述したスターレットと同じように大成功を納めた。
ファミリア史上最も売れたのがFFになって最初の5代目。赤いファミリアが社会現象になるほど大ヒットした。ファミリアの大きなターニングポイントで大成功
また5代目ファミリアが大成功を納めたのはFF化も大いに関係しているが、それ以上にスタイルを含め全体的に和製VWゴルフと言いたくなるくらい全体的に基本のシッカリしたクルマだった。
3ドアハッチバックでも腕の置き場を確保した快適なラウンジシートや仮眠などに使えるフルフラットシートの採用(このあたりはFF化による広さも好影響を与えた)、基本がシッカリしたクルマだったため後にハイパワーなターボ車を追加しても充分対応できユーザーの選択肢が広がったことなど、クルマ自体に魅力があったことが大きかった。
【結論】
FF化によりクルマの魅力が広がり大成功。
FF化したファミリアはフルタイム4WDも登場させ、この代のモデルによりWRC参戦も実現させ、広くて実用的なだけではない魅力を存分にアピール
日産セフィーロ(初代→2代目)
初代セフィーロは1988年に「スペシャリティながらそれなりの室内空間を持つセダン」というコンセプトで登場。
初代セフィーロは同年登場の熟年層向けながらスタイリッシュな4ドアピラーレスハードトップの6代目ローレルとFFの3ナンバー専用ボディで広い室内を持ちリラックスできるマキシマ、翌1989年に登場でスペースは割り切りスポーツセダン&クーペを極めた8代目スカイラインという4台で、当時売れまくっていたマークII三兄弟の牙城を崩すべく構成されたシンフォニーLと呼ばれたクルマ集団の一員でもあった。
『くうねるあそぶ』のCMキャッチフレーズで有名なセフィーロ。新車時よりもFF化された後に中古マーケットで大人気。AT→MTに換装する人もかなりいた
初代セフィーロ自体はマークII三兄弟のような万人向けのクルマではなかったが、たいていのクルマが売れたバブル期の登場だったこともあり、それなりの成功を納めた。
1994年登場の2代目モデルでセフィーロはバブル崩壊による不景気もあり、マキシマと統合するかたちでFF車にチェンジ。
初代の奇抜なデザインからシックで高級感のある雰囲気のデザインにチェンジし、爆発ヒットはしなかったが根強い人気を誇った2代目セフィーロ
2代目セフィーロはアメリカではマキシマとして販売される重要車種だけに派手さこそないものの堅実なクルマだったのに加え、250万円から300万円台の日産車で代表的な存在だった7代目ローレルと9代目スカイラインがコンセプトのボヤけたクルマだったのもあり低迷。
2台と対照的にコンセプトも明確だった2代目セフィーロは結果的に「日産ファンの有力な選択肢」に浮上し、まずまずの成功を納めた。
【結論】
いろいろな事情が重なった幸運はあるのの成功。
2代目セフィーロをベースにステーションワゴンも登場。FRプラットフォームを使った同じステーションワゴンのステージアよりも広く使い勝手はよかった
日産エルグランド(2代目→3代目)&マツダMPV(初代→2代目)
初代からFRレイアウトを踏襲してデビューした2代目。ミニバンながらFRとしてのナチュラルなハンドリングはアルファードよりも評価が高かった
ユーザーは広さを求めていたなか、3代目で待望のFF化が実現。押し出しの強いフロントマスクは2代目を凌駕していたが、肝心の実用性に難点があった
FRで歩み始めたミニバンだったエルグランドとMPVであるが、エルグランドは2010年登場の現行3代目モデル、MPVは1999年登場の2代目でFF化された。
それぞれに共通するFF化のメリットとしてはエンジンルームが小さくなる、フロアが低くなることによる室内空間の拡大、低コスト化が挙げられる。
いっぽうデメリットはFRの魅力であるアイドリング中ステアリングに伝わる振動の少なさや、前輪が駆動しないことによるクリアなステアリングフィールといった高級感を失ったといったことだろう。
このあたりはミニバンを実用車と見るのか、高級車と見るのかによっても判断はわかれるが、総合的に考えれば現代はFFのデメリットが目立たなくなっているくらい技術が進んでいるのもあり、ミニバンにはFFのメリットのほうが大きいといえる。
初代MPVは当時としては超大型のマルチパーパスビークルとして独自路線をまい進したが、日本のマーケットでは受け入れられず販売面で苦戦
初代の失敗を教訓にFRからFFにチェンジして実用性を大いに高めた2代目MPV。このモデルはミニバンとは思えないハンドリングの評価が高った
【結論】
MPVは販売面も上向き大成功。エルグランドはFF化は当然の流れだったが、FRの2代目よりも室内、ラゲッジとも狭いなど、FFのメリットを生かせなかったのが痛かった。そのため2代目オーナーからの買い替え需要が見込めず苦戦。
3代目エルグランドはFF化したにもかかわらずFFの最大の利点である室内スペースの確保という点で失敗したのが痛い。ゴージャスな室内だったがユーザーは満足せず
まとめ
ジックリ考えてみるとクルマは高級車やスポーツモデルといった趣味性の高いものでなければ、駆動方式よりクルマ自体の出来が重要ということも分かる。
となると新しい1シリーズはプレミアムカーというそれこそ趣味性の高いクルマで実用性やクルマの出来だけでなくイメージなども重視されるモデルだけに、FF化がクルマの評価にどう影響するか注目したいところだ。
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