舞台は白銀のソルトフラッツ、目標は390km/hオーバー!
まずは“ソルトフラッツ”と“スピードウィーク”を知る
「ボンネビルスピードウィークのすべて」フルチューンFC3Sで世界最速に挑んだ男の物語/予告編【DANDY×FC3S 最速王座・奪取計画 at 2009】
そもそも、ソルトフラッツってどんなとこ? スピードウィークってどんな競技? かつては日本のチューナーたちが大挙エントリーしていた時期もあって、その都度OPTION誌でレポートしてたから、昔からの読者にはおなじみだと思うけど「ボンネビルってなに?」という人もいるハズ。そこで、まずは最高速アタックの舞台となる“ボンネビルソルトフラッツ”と、そこで開催される“ボンネビルスピードウィーク”を紹介しよう。
ロサンゼルスから北東に約900km、ソルトレイクシティから西に約200kmのところに位置するユタ州ボンネビルソルトフラッツ。ここはそのむかし塩湖だったけど、長い年月をかけて水分が蒸発していった結果、塩だけが残ったというわけ。
実際その上に立ってみると、見渡すかぎり塩の平野が続いている。それもそのハズ、面積は412km2…大ざっぱにいえば20km四方に匹敵する広さってことだ。ちょっとした街と同じか、それ以上の面積なんだから、これで広さを感じないわけがない。
また、肝心のコースコンディションだけど、ひとことで言うなら圧雪路に近く、細かい凹凸もあったりして、思っているほどフラットではないかも。レンタカーで走った限りだとグリップレベルはそこそこで、アスファルトの上をスポーツラジアルで…とはいかないまでも、圧雪路をスタッドレスタイヤで走るよりは断然食いついてくれる。ただ、数100kmを出すエントリーマシンにとっては、まるでグリップしない…ということになるハズだ。
ちなみに、標高は1000m前後。日本でいうと軽井沢くらいだけど、8月の日中の最高気温は35~40度にも達する。それでも、幸いなのは湿気がないことで、体感温度としてはむしろ日本の夏よりもラク。ただ、陽射しの強さとそれを受けた白い地面からの照り返しがハンパなくキョーレツで、肌は“焼ける”というより“焦げる”かんじ。
一方、日の出前や日没後は気温が17~18度まで低下。日中の暑さがウソのように思えるほどで、真夏なのにTシャツ1枚じゃとても外にいられないほど冷えこんだりするのだ。
走ってきた田舎道が、そのまま塩の上につながってるという非日常的な光景。その入口に立つ看板には「ボンネビルソルトフラッツインターナショナルスピードウェイ」と書かれてる。ということはココ、国際格式なの? それとも、言ったもん勝ちってこと?? 真偽は不明。
現地での足として走りまくったマツダ6、日本でいうアテンザ。ピットとスタートラインが4マイル(約6.4km)も離れてるから、撮影&取材のため行ったりきたりするだけでみるみるうちに距離が伸びる。ちなみに1週間、塩の上だけで300マイル(約480km)も走った…。
ボンネビルスピードウィークが開かれる1週間、塩の湖の上にショート&ロングコースが現れる。まず全長5マイルのショートコースは、ボンネビル初参戦のドライバーや2年間有効な独自のライセンスが切れてしまったドライバーが、徐々にスピードに慣れていくために走る“予選”のようなモノと思ってもらえばイイ。
ここでは、ライセンスに応じた目標スピードが設定されていて、たとえばライセンスを持たない初参戦のドライバーのばあい、2/2.25/3マイルの3ヵ所の計測地点を120MPH以下で走り、まずライセンスEを手に入れなければならない。
続いてライセンスD(125~149MPH)→C(150~174MPH)→B(175~199MPH)と順にクリアしていくんだけど、いずれも計測地点を目標スピードの範囲内で走ることが鉄則。それを下回った時はもちろん、上回ってしまってもライセンスをもらえないのだ。
こうした制度を取り入れてるのは、言うまでもなく安全確保のため。「障害物のないソルトフラッツなら、いきなり全開でも危なくないでしょ?」というのは大きな間違いで、最高速が300km/hを超えてくるクラスでは、スピンして宙に浮いたマシンが地面にたたきつけられ、ドライバーが帰らぬひととなるという事故が、毎年必ず起きていたりする。そういった事故をできるだけ回避するためのライセンス制度というワケ。
さて、ライセンスBまで獲得すると、いよいよロングコースを走る権利が手に入る。こちらは全長8マイルで計測地点も2.25/3/4/5マイルとなり、より最高速を狙いやすい環境が整えられる。ライセンスAは、ここで200~249MPH以上をマークすることが条件で、その上にAA(250~299MPH)、いちばん上にアンリミテッド(300MPH以上)と、計7つのライセンスが存在する。
さらに、クラスレコードの更新だけど、まずライセンスランでこれまでの記録を上回り、かつ翌日に行われる“レコードラン”との平均速度でも上回った時、初めて正式なクラスレコードとして認定されるのだ。
ちなみに、コースが設定される場所はソルトフラッツの中でとくに決まってるワケではなく、毎年イベントの前にオフィシャルが下見をして、塩の状態がイイところを選んでいるとか。また、イベント開催中に雨が降って状況が悪くなった時には、よりコンディションがいい場所にコースを移すこともあったりするのだ。
コースレイアウトはこんな感じ。例年はショートコース(青)とロングコース(赤)の2本だけだけど、2009年はエントリー台数が多かったからか、もう1本5マイルのスペシャルコース(黄)も設けられていた。また、それぞれのコースから引かれた細い線がリターンロードで、アタックをおえたマシンが牽引されてピット、あるいはスタート地点に戻るための通り道となる。
リターン&アクセスロードを突き進むとコースを指示する看板が現れる。ところが、この先はアバウトに並べられたパイロンで仕切られてるだけだから、スタートラインまでの道すじがちょっとわかりにくかったりするのも事実。そのへん、なんともアメリカ的だ。
ココが0マイル、つまりスタート地点。各コースには1マイルごとに距離を示す標識が設置されている。最高速に挑むドライバー&ライダーたちは、ここから地平線を目指してアクセルを全開にするのだ。
スタート地点のようす。各コースともマシンは2列で並び、交互にスタートしていく。ただ、イベントの性格なのかお国柄なのか、そこにはサーキットでのレースにありがちなピリピリした雰囲気はまるでナシ。わりとのんびりしたムードだったりする。
ロングコースとショートコースの中間にあるコントロールタワー。ここで全エントリーマシンの最高速を集計する、いわばボンネビルスピードウィークの中枢だ。モーターホームだけど、冷房も完備されてるから、快適なことこの上ナシ!
さて、ここからは参戦マシンのクラス分けについて説明したい。最高速を出すためだけにつくられたストリームライナーやレイクスターをはじめ、1930年代のビンテージカーから今どきのスポーツカー、さらにはピックアップトラックまで、さまざまなジャンルのマシンが一堂に集まるボンネビルスピードウィーク。
となると、クラス分けも大変そうだけど、その基準になるのは「排気量」「過給機の有無」「使用燃料」「ボディ形状」の4つと意外にもシンプルだったりする。ゼッケンの近くに見られるアルファベットがそれを示し、上記の順で表記されているのだ。
まず、排気量は大きいほうから「AA」ではじまり「A~K」まで12段階に分類。吸入/圧縮/爆発/排気行程を持たないガスタービン車などは「Ω」となり、エンジンの製造年やメーカー、排気量などを限定した「XF」「XO」「V4」クラスなども存在する。
過給機の有無を見分けるのは簡単で、「B」の表記があれば、ターボやスーパーチャージャーなど過給機付きということ。表記がなければNAと判断できる。
また、使用燃料は「F」がニトロメタンやアルコールを、「G」(もしくは表記なし)がガソリンを、「D」がディーゼルをそれぞれ示している。
さらに、最も細かく分かれてるのがボディ形状で、なんと26クラス!! もあったりするのだ。
2009年のエントリーマシンの中から、代表的なクラスのマシンを以下に紹介しよう。
■ストリームライナー
V4/GSクラス=フォードエンジンで、ガソリンを使用。
AA/GSクラス=排気量8210cc以上で、ガソリンを使用。
■レイクスター
B/BGLクラス=排気量6110~7200ccの過給機付きで、ガソリンを使用。
D/FLクラス=排気量4270~5000ccで、ニトロメタンやアルコールを使用。
■モディファイドロードスター
F/BFMRクラス=排気量2010~3000ccの過給機付きで、ニトロメタンやアルコールを使用。
■ストリートロードスター
D/STRクラス=排気量4270~5000ccで、ガソリンを使用。
■モディファイドスポーツ
C/GMSクラス=排気量5010~6100ccで、ガソリンを使用。
■グランドツーリングスポーツ
D/GTクラス=排気量4270~5000ccで、ガソリンを使用。
■モディファイドピックアップ
D/BMPクラス=排気量4270~5000ccの過給機付きで、ガソリンを使用。
●PHOTO:小林克好(Katsuyoshi KOBAYASHI)/TEXT:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)
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