日本ではAT、CVTなどいわゆる2ペダルの自動変速の比率が高く98%にも達する。マニュアル車はラインナップも少なく、販売比率も少ないが、上手い下手は別にしてクルマを操っているという感覚に浸れるのがいい。
マニュアル車なら何でもOKというわけでなく、出来のイマイチのマニュアル車だとクルマの性能を引き出せず魅力をスポイルすることだってある。同じ乗るなら出来のいい、気持ちのいいフィールのマニュアル車に乗りたいものだ。
【楽しくて安全で長く乗れる!!】「高齢者に優しいクルマ」とは
フォーミュラ、ハコなどさまざまなレーシングマシンをドライブしてレースをした経験を持ち、市販車にも精通している現役レーシングドライバーの松田秀士氏が、自身の経験をもとに、気持ちのいいマニュアル車を選んだ。
文:松田秀士/写真:MAZDA、PORSCHE、ベストカー編集部
日本で新車で購入できるマニュアル車一覧はこちら
マツダロードスター
デビュー:2015年5月
価格:255万4200~325万6200円
FRのマニュアル車特有のダイレクト感、ショートストロークの操作感とも極上。ロードスターの走りの楽しさにシフトフィールが大きく影響している
スパッ、スパッとシフトチェンジできる気持ちよさを持っているマニュアル車の代表選手といえばマツダロードスターということで異論はないと思う。
縦置きエンジンのFR車のマニュアル車は、シフトレバーの真下にトランスミッションを配置することができるためダイレクト感がある。それに対してFF、MR、RRはトランスミッションとシフトレバーの間に距離があるためワイヤーやリンクを介して操作する必要があためどうしてもダイレクト感が薄れてしまう。
そんなFR+MTのなかでもロードスターの気持ちよさはナンバーワンだ。
初代から一貫してショートストロークのトランスミッションを採用しているのも大きな要因だが、ボクはシフトレバーが短ければいいとは思っていない。ショートストロークキットなども販売されているが、バランスが重要だと考えている。
初代からショートストロークを採用しているが、シフトレバーが短いだけでなく、クラッチの踏力、ストロークとのバランスも群を抜いている
そのバランスはシフトそのものの長さ、クラッチの重さ、クラッチのストロークがそれぞれリンクしていて初めてダイレクトで気持ちのいいシフトフィールが実現できる。そのバランスに最も優れているマニュアル車がロードスターなのだ。
初代ポルシェケイマン(987)
デビュー:2006年1月(日本でのデリバリー開始)
価格:777万円(デビュー時)
ケイマンはポルシェのいいエンジンありきとはいえ、シフトチェンジの醍醐味であるシフトダウン時がスパッと決まった時の気持ちよさは格別のものがある
すでに絶版になっている過去のモデルから1台選ぶとするとポルシェケイマンだろう。
マニュアル車を運転していてシフトダウンして回転がうまく同期してバシッと決まった時の気持ちよさは格別で、シフトダウンこそマニュアル車の醍醐味といっていい。
シフトダウン時はダブルクラッチを実践するのがベストだが、クラッチを切らずに気持ちのいいシフトダウンが行えるか、というのも気持ちよさの指標としていて、ケイマンの6MTのシフトダウン時の気持ちよさは半端ない。
これはポルシェのエンジン特性としてフライホイールが軽く回転の落ちが早いため、シフトダウン時にタイムラグなくスパッと決まる。クラッチを切らなくてもできるところに最高の気持ちよさがある。
縦置きのミドシップのケイマンは、エンジンの後方にトランスミッションを配置してワイヤーで操作するためダイレクト感はないが扱いやすい
ポルシェの場合、911はRRでトランスミッションはエンジンの前方、ケイマンの場合はMRで911を逆にしたかたちでエンジンの後方にトランスミッションが配置され、ワイヤーを介して操作するということでダイレクト感は薄いが、シフトダウン時の気持ちよさは病みつきになるものがある。
現在中古マーケットでは200万円を切る100万円台のモデルも多く出回っていて買い得感はかなり高い。
ホンダシビックタイプR
デビュー:2017年7月
価格:450万360円
スパルタンなシビックタイプRの走りを支える大きな要素である6MTの仕上げはすばらしい。レブマッチング機能はダウン時だけでなくアップ時も有効
世界最速のFF車の1台であるシビックタイプRは6MTのみという硬派な設定で、その6MTのできはすばらしく、フィーリングも極上ときている。
シフトアップするとエンジン回転は下がり、シフトダウンするとエンジン回転は上がる。この回転数を同調させるのがマニュアルを操作する楽しみだが、回転が合わないとギクシャクしてしまう。
それを防止する機能として、変速後のギアに最適な回転数になるようにエンジンの回転数を自動制御する『レブマッチング機能』がシリーズ初搭載された。楽しみという点では賛否はあるかもしれないが、シフトアップ、シフトダウンがスパッ、スパッと面白いように決まるのは気持ちいい。
タイプRの伝統であるチタン製シフトノブを採用、操作感が気持ちいい。専用開発のクロスミッションによりエンジンの性能を常に引き出すことができる
それからタイプRの6MTは1~6速のギア比をクロスさせたクロスミッションとなっている点も見逃せない。
例えばワインディンを走っていて、2速では上に当たるので3速にシフトアップするとスカスカで思うように楽しめない、という経験を持っている人のいると思う。自分で自在に操ることができるマニュアル車だからこその不満だが、クロスレシオのシビックタイプRなら小刻みにシフトチェンジして自在に操る気持ちよさがある。
ターボエンジンの場合ある程度回転域に入れておく必要があるが、このクロスレシオのミッションならストレスなく走ることができる。
シビックタイプRはDCTではなく6MTを採用。速く走るためだけならシフトチェンジスピードに優れ、パワーの跡切れのないDCTが有利ななか、操る楽しみを残してくれたことに感謝したい。
マツダマツダ3ファストバック(SKYACTIV-X)
デビュー:2019年12月(予定)
価格:314万4200~362万1400円
日本では12月中旬から発売を開始するマツダ3のSKYACTIV-X搭載車にはしっかりと6MTをラインナップしていてそのフィールは極上レベル
日本では12月中旬に発売予定のマツダ3のSKYACTIV-X搭載車にはほかのマツダ車の例にもれず6MTが設定されている。
プロトタイプに試乗して、この6MTのシフトフィールの気持ちよさを体感した。
SKYACTIV-Xは24Vのマイルドハイブリッド仕様なのだが、シフトアップの時にモーターの回生を入れることでエンジンの回転数が下がる。これによりクラッチを踏まなくてもスコスコと入る気持ちよさがある。
各ゲートの位置がわかりやすいという構造も気持ちよくシフトチェンジできる要因のひとつとしてある。
FF車でありながらダルな感じがなく扱いやすいのもセールスポイントとなっている。
SKYACTIV-Xは24Vのマイルドハイブリッド仕様で、シフトアップ時にモーターの回生を入れることでスムーズでジャストタイミングのシフトアップが可能となっている
スズキアルトワークス
デビュー:2015年12月
価格:150万9840~161万7840円
アルトワークスの小気味よい走りを堪能するには5MTが最適。FFの軽自動車ゆえ5MTの軽さがフットワークに好影響をもたらしている
スズキのスポーティカーのMT車といえばスイフトスポーツとアルトワークスが代表格となり甲乙つけがたい。しかしボクはATやCVTが主流になっている軽自動車こそMTをお薦めしたいという考えからアルトワークスを選んだ。
軽自動車の場合車重が軽いためトランスミッションの重さはハンドリングや動力性能に及ぼす影響が大きい。特にFFの場合は顕著なのでAT、CVTより軽いMTが断然有利。
アルトワークスの5MTは、ショートストロークでスパッ、スパッと気持ちよくシフトチェンジできて気持ちいい。
アルトワークスに搭載される5MTはワークス専用に開発されたというから驚き。ダイレクト感を出すために設計段階からこだわったという
軽くスムーズな操作フィールを実現するためにアルトワークス専用部品、専用チューニングが施されているというから恐れ入る。コストにシビアなスズキとしては珍しいが、走りの気持ちよさ、シフトフィールの気持ちよさに対するその効果は絶大と言える。
1~4速のギア比をクロスさせることでエンジンのおいしいパワーバンドがキープしやすいのもマニュアル車として出来のよさを誇る。
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