KLX230が発表された瞬間、編集部は東南アジアで販売されていたKLX150を検索し、その姿と見比べた。はっきりしたことは言えないが、きっとこの150を再開発したモデルなのだろう。そもそもこのご時世に空冷エンジンが新造されるわけがない、と思い込んでいたのだ。しかし、KLX230はまったくの新規車両なのだとプロジェクトリーダーの和田氏は言う。「クランクケースから、新設計なんですよ」と。
おそらくこのマシンは、多くのライダーにとって最速のバイクになる
何を馬鹿なことを…と思うかもしれないけど、僕は知っている。とても大きなオフロードライダーのピラミッドの中で、上層以外の低層・中層はレーサーよりもトレールバイクのほうがタイムを出せることを。その分水嶺がどこにあるのかはわからないけれど、今販売されているトレールバイクのなかで、最も「一般的オフロードにフレンドリー」なモデルは、おそらくKLX230になるだろう。セローは少しトレイルライドに寄っているし、CRF250Lはストリートでの実力がめっぽう高いから車体も大きい。
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とにかく、僕はKLX230に乗った瞬間にそんなことを思った。バランサーの効いたエンジンは、スーパースムーズなパワーデリバリーで、スキルがなくても全開にできる。開けすぎても前に出すぎることはない。それでいて、正立サスペンションも、KLX230のスピード域では十分すぎる動きをしてくれる。このマシンなら、存分に攻め込むことができるのだ。
誤算だったのは、その後に乗ったレーサー版のKLX230Rがさらに輪をかけて素晴らしかったことだ。スペック上の重さは大差ないのに、まったく別の軽さを感じる。軽さをおいもとめてバランサーを取り払ったエンジンは、振動こそ多いモノのピックアップもナンバーレスのファンバイクらしくコシがあって、力強い。前言撤回。最も速く走れるバイクはこれだ!
「KLX230Rの開発は、アメリカから始まりました。ほぼ同時でしたが、アジア向けに開発されたKLX230よりもアメリカ向けのKLX230Rのほうが先に着手されたのです」とPLの和田氏。非常に開発としては珍しいことで、このKLX230/KLX230Rは「他社の空冷ミドルオフロードの対抗馬を作って欲しい」というアメリカ由来のニーズと、「KLX150では満足できなくなったので、モアパワーがほしい」というアジア由来のニーズを満足させるために開発されたのだと言う。どちらがベース、ということはなく、共にニーズを満たすプラットフォームを開発したというわけだ。
意外とKLX230のほうが、速いのかもしれない
イーハトーブの森にある、ミニコースを攻めてみると、圧倒的にKLX230Rのほうが速く感じる。ピックアップもよく、軽快にスピードが乗っていくように感じるのだ。それに比べてしまうと物足りなく感じてくるKLX230は、タルイなと思う。だが、乗り込んでいるとKLX230Rは2速ではだいぶ短いことに気づかされる。減速比の違いで、KLX230のほうは2~3速がかなり長く使える。
それでは…と思い公道へKLX230で出てみると、思った通り伸び感が違う。実際には、KLX230/KLX230Rでレブリミットは変わらないとのことだが、だいぶKLX230のほうがまわるような錯覚にとらわれるのだ。だから、公道で乗っても230ccという排気量ながらまだるっこしさがあまりない。十分元気に走ってくれるし、車速もしっかり伸びてくれる。和田氏は「232ccという排気量は、ファンライドを楽しむための絶妙なバランスを追い求めた結果です」と言う。高速道路での移動や、ツーリングのことを考えていないわけではないけど、土の上をいかに楽しむかを主眼においたからこその、「割り切り」が光る。ある意味、とがったプロダクトなのだ。
さらに感心したのは、公道における車体の安心感。フレームとサスペンションのマッチングは、パーフェクトだと言いたい。コーナリングでしっかり踏ん張ってくれるシャーシに、直進安定感も高い。トレッキングが得意な小排気量バイクでは、高速道路で若干不安定になったりする傾向にあるが、このKLX230ではその可能性はほとんどないはずだ。車体がふらつくようなことが少なく、スタンディングでノーハンドでも恐怖感を感じない。ロングツーリングも、かなり得意な車体だと言えそうだ。
オフロードで感じる「もっと攻められる」というフィーリングもこの辺に由来するのではないだろうか。
秀逸なエンジンストール耐性と、低中速に思い切りふりきったエンジン
試乗会のおこなわれたイーハトーブの森は、最高のコンディション。森の中も、ほどよい湿り具合だった。230という排気量と、小柄な車体はどちらかというとスピード勝負よりも、山の中に分け入っていきたい欲求にかられる。
最低地上高も、そこそこある車体だから、ワダチに入れてみても腹を擦ってしまうような不安感はない。元々の設定で、アイドリングが高めなこともあって、ぱっと乗った感じは極低速の特性に優れるフィーリングには感じないのだが、一旦山でスロウなライディングを始めると、嘘のように粘るエンジンであることがわかる。90年代の空冷4ストエンジンなみに粘る。それでいて、90年代のような古さを感じる吹け上がりではなく、しっかりリニアに吹け上がるからトルクコントロールはとてもやりやすい。
脳裏によぎったのは、ストリートバイクのエストレアだ。カワサキと言えば、とにかくパワー。高回転を達成するためのショートストロークエンジンが主流だと思うのだけれど、思い起こしてみればエストレアは250ccをチョイスしておきながら異例のロングストロークを新設計した、ある意味「漢」を感じる割り切り、そして豊かなトルク特性を感じるものだった。KLX230も、67×66と限りなくスクエアに近いボア×ストローク比で、まわるエンジンではない。実際、頭打ちは早めだが、トルキーな特性と、そしてエンジンストール耐性は、実に秀逸だ。
勉強不足で大変恐縮なのだが、空冷エンジンがどんどん排気ガス規制に引っかかって姿を消していくこの世の中で、なぜ空冷エンジンをチョイスしたのか非常に謎だった。エンジン開発担当の城崎氏は「排気量にもよりますが、今回のKLX230に関しては排気ガス規制対応することは難しくはない」と言う。物価の上昇によって、オートバイの開発費が嵩み、車体の価格に反映されてしまうこのご時世で、空冷のチョイスは必然だった。「エンジン開発の要求と、デザインをあわせこんだ結果、フィンは上から見ると真四角では無く台型をしている」とはデザイン担当小林氏の言。
前述したとおり、この230ユニットはまったくの新設計で、いわば2019年の空冷エンジン。さらには、ロードバイクから借用したモノでもなく、純粋にオフロードの楽しさを追求したものである。森の中を走れば、その意味は自ずとわかるはずだ。
ふりまわせる理由は、ボディにもある
それに…インターフェイスが秀逸だ。
見ての通り、KLX230のスタイリングは00年代のオフロードバイクとは一線を画している。KX的なレーシームードはデザイン性に優れるだけではない。フラットなシートは、まるでKXのように前後へ体重移動ができる。股の前にどでかいタンクがあった過去のトレールとは違い、タンクの上へ座れると言えるレベルでフロントによることができる。
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