2019年4月17日、日産はGT-Rの2020年モデルを発表、6月から発売を開始しました。
すでにデビューから12年も経ちました。これまで熟成が重ねてきましたが、やり残したところはないのでしょうか? それともやり切ったのでしょうか?
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そこで、元日産開発技術者の吉川賢一氏が、GT-R2020年モデルを試乗し、各部を徹底チェック! 元開発技術者ならではの視点で、GT-R2020年モデルを見ていきます。
日産自動車は、吉川氏にとっては古巣ではありますが、一切忖度なしの厳しい評価をくだす!
本企画は、下記の本文&写真のほか、動画でも紹介していますのでお楽しみください。
文/吉川賢一
動画・写真/エムスリープロダクション鈴木祐子
元日産開発技術者が忖度なしで評価!
GT-R2020年モデルはもうやり切ったのか、やり残したところがないのか、元日産開発技術者の吉川賢一氏が徹底チェック
12年目となった「R35型GT-R」の「2020年モデル」が2019年6月にデビューしました。昨今は「GT-R NISMO」のほうが話題性が大きいのですが、そこはやはり基準となるレギュラーモデルのほうが重要ということで「GT-R2020年モデル」を試乗しました。
実は筆者は、3年前まで日産社員。車両開発のエンジニアとして、操縦安定性と乗り心地の性能設計をしていました。
しかも担当は、スカイラインなどのFR車で、GT-Rは担当ではなかったものの、間近でGT-Rの開発を見ていました。そんな私に今回、GT-Rの試乗レポートの機会をいただき、古巣に戻ることができたようで感無量です。
おそらくこのGT-Rを作ったであろう方々の顔がちらつきますが、本記事では「GT-Rは2020モデルでやり切ったのか?」を忖度なしで評価します。そして、未来の「GT-R」像についても考察していきます。
■GT-Rの価格とラインアップ
GT-R Premium edition/1210万5720円
GT-R Black edition/1253万9880円
GT-R Pure edition/1063万1520円
https://bestcarweb.jp/gt-r2020model
1/GT-R 2020年モデルの改良箇所は?
ワンガンブルーは青色の透明ベースに光干渉顔料を追加することで、ベイエリアなどでの日没の余韻を感じさせるミステリアスな色の変化が楽しめるという
2020年モデルのエクステリアの変更点は、ボディカラーの「ワンガンブルー」。見るからに「R34スカイラインGT-R」をオマージュしており、信号待ちや街中など、どこを走っていても、道行く人の視線を感じます。
また、マフラーエンドにはブルーのヒートグラデーションを与えたチタンフィニッシャーを採用。リアの見た目を引き締めるのに貢献しています。インテリアには専用色の「ミディアムグレー」を設定しました。
GT-Rの持つ「黒&本革&カーボン柄」といった武骨すぎる印象や「エゴイスト仕様」のようなキワモノの臭いは感じられず、現代風の「シュッ」としたスマートなインテリアとなっています。
視界移動が少なくすむ最適な高さのモニターや、直視せずに操作可能なスイッチ類のデザインは「2017年モデル」と変わっていませんので、色味の違いでこれほどに「GT-R」の男臭い印象が抜けたのは大きな驚きでした。
試乗車のプレミアムエディションには高級に仕立てるファッショナブルインテリアが装着されていた(54万円のオプション) 。素材はブラッシュアップしたがメーター、ディスプレイ、インパネなどの造形が7~8年前のデザイン水準
セミアニリン本革シートは座り心地、ホールド性ともに良好
2/走りはどう変わったのか?
570ps/65.0kgmを発生するVR38DETT
エンジンは変わらずV6ガソリンツインターボのVR38DETTです。排気量は3799cc、最高出力は570ps、最大トルクは65.0kgmと、従来から数値の変更はありません。アクセルペダルを踏み込むことを、つい躊躇ってしまうほどの加速力は健在です。
大きな変更点の一つがタービンの効率向上です。この2020年モデルには、これまでNISMOには採用されていた、レスポンスの向上に貢献するターボ高効率化技術(アブレダブルシール)を採用しています。
アブレダブルシールとは、ターボハウジングに樹脂を射出することで、シール機能を持たせた構造です。吸入した空気の漏れを最小限にし、最適なクリアランスを維持することで、過給レスポンスをよりいっそう向上させています
2020年モデルの特徴の一つ、アブレダブルシール
2020年モデルから変更された「Rモード」選択時の制御。センタークラスターに3つのスイッチが備わり、左からトランスミッション/ダンパー/VDC-R(横滑り制御装置)をそれぞれ任意の3パターンに切り替えることができる。トランスミッションは真ん中が「ノーマル」で下に押すと燃費重視の「SAVE」に、上に押し上げるとスポーツ走行に最適な「Rモード」に変更される
そして、ミッション制御の「Rモード」を改良、加速時のギアのつながるタイミングを鋭く、よりアグレッシブに変更されています。
2020年モデルでは、TCU(トランスミッション コントロール ユニット)ソフトウェアを新たに設定し、コーナー進入前のブレーキングで積極的に低いギア段を選択し、より鋭いコーナー進入(旋回減速時のアンダーステア低減)と、より鋭いコーナー加速を実現しています。
タイムを0.1秒刻むための技術が入っていると考えると、レギュラーモデルとしても、いまだ速さを諦めていないスタンスが伝わります。
サスペンションに関しては、2020年モデルではバネ下の軽量化(ロードホイールの軽量代は2017年モデルに対し-140g/台で過去最軽量)に合わせたサスペンションセッティングのリファインとともに、いっそうのロードホールディング向上に貢献し、より“よく動く足”にしたそう。
しかも、ロードホイール剛性は維持したため、ネガとなりうる音振性能も両立する設計がなされています。
3/試乗してわかったGT-Rのココが凄い ココがダメ
アルミホイールはレイズ製鍛造ホイール、フロント9.5J×20、リア、10.5J×20で
レイヤードブラックコート+切削光輝ハイパーチタンカラーコート。ブレーキはフロントがブレンボ製モノブロック対向6ポッドキャリパー 、φ390mmフルフローティングドリルドローター。リアはブレンボ製モノブロック対向4ポッドキャリ パ ー 、φ380mmフルフローティングドリルドローター
このクルマの凄さは、「心臓を持っていかれるほどの強烈な加速」にあります。しかし、こんな「暴れ馬」にもかかわらず、タービン効率を改善した効果かアクセル操作も扱いやすくなっているようです。
また、セミスリックのような強力なグリップのタイヤによって軽々とコーナーを旋回し、かつブレーキ踏力は軽く、操舵力も適度に感じます。
「アクセルを踏み込まなければ」簡単に操作できるのが、最大の魅力です。このGT-Rのアクセルを踏み抜けるのは、プロドライバーやきちんとした運転訓練を受けた「猛者」だけでしょう。
ただし、2017年モデルから大きく改善したとはいえ、この「絶対的な速さ」と引き換えに「快適性」が犠牲になっています。
絶え間なく車内に入り込んでくる高周波のロードノイズが、1200万円を超える高額車としての許容レベルを超えていると、筆者は感じます。
インテリアの質感が上がっているのに、音振性能が不十分なことで、「動的質感」を感じられないのです。
なお、電子制御機能付ショックアブソーバーの「コンフォートモード」にすれば、ボディモーションを許容してショックを和らげてくれますが、元々バウンド側のサスペンションストロークがそれほど確保されていないので、それでも足が固めの一般車のレベル。
しかも減衰力制御では、前後方向のショックはいなしきれず、20インチの高剛性のタイヤ縦バネが悪さをしています。
そのため、高速道路などの路面突起では、「ガツッ」という前後のショックと、大き目の乗り越し音がドライバーを襲い、「快適に移動する」とはどうしても言えないのです。
「ポルシェ911もロードノイズは同じようなレベルなのだからいいじゃないか」という理屈もありますが、「12年目のスーパーマルチパフォーマンスカー」です。音振性能をないがしろにしていい理由にはならないと思います。
ただし、ポルシェの新型911カレラ4Sが1772万円に対し、GT-R 2020年モデルの1210万円という価格は、依然としてコスパがよく、ブランドを選ばないのであれば、GT-Rのほうが圧倒的におススメといえます。
4/2020年モデルはやり切ったのか?
元開発技術者の目線から、GT-Rはやり切ったのか、重箱の隅を突く要領で辛口評価
さてデビューから12年も経ち、熟成が重ねられてきたわけですが、GT-R2020年モデルはやり切ったのでしょうか?
筆者はNOだと考えます。それは、前述したとおり、操作性や乗り心地など「快適」な方向に進化しているとはいえ、まだ「音振性能」はもっと改善できる、と考えられるためです。
きっと今後も、細かく検討を重ねねがら改善を続けるのでしょうが、現状のGT-Rコンセプトを貫きつつ、快適性を飛躍的に上げていくことは、もはや物理的に不可能にも感じます。
なぜなら、パフォーマンスは最高だけどNVHの厳しいエンジン、改良したとはいえ操縦性を最優先としたタイヤ性能、絶えず作動音が発生するトランスアクスル、高剛性過ぎるサスペンションのブッシュ類など、「音振性能」を改善するためにブラッシュアップしなければならないコンポーネントが多すぎます。
それに、このクルマを作っている日産としては、これ以上、走りの性能を削ってまで快適性を上げる気は、毛頭ないでしょう。あったとしても「GT-Rのコンセプトを捻じ曲げる」発言はできないのかもしれませんが。
そんな悩めるGT-Rに対して、元開発技術者だった筆者からの提案は、
「目標性能を見直せ!」です。「ポルシェ911」をベンチマークとするのをやめて、1000万円以下の価格帯のスポーティカーに変更し、目標値を見直す。
そして、ハンドリングと乗り心地だけでなく、音振性能が良くて「動的質感の高いGT-R」を目指すのはどうでしょうか。
R34スカイラインGT-Rをオマージュした「ワンガンブルー」を出すなど、R35 GT-Rの現状は、「古き良き時代へのコンプレックス」があるように見えます。
NISMOとレギュラーモデルで開発方針を分けることに成功したのですから、それならば、手の届く価格からとびぬけてしまった「GT-R」を、頑張れば買うことができそうな「スカイラインGT-R」にして、カムバックしていただきたい。それこそが、皆が待つ「GT-R」の姿なのではないでしょうか。
まとめ
「GT-Rにワンガンブルーを採用」、「スカイラインを日産バッヂに戻して丸目4灯化」、「400Rの再ネーミング」など、昨今の日産は回顧主義のように見えます。
しかし、「頼れる資産」があるのなら頼ったらいい、と筆者は考えます。なぜならファンは、過去からつながっている将来のGT-Rのストーリーを楽しみにしているからです。
GT-R開発は日産の開発エンジニア達の夢です。今が正念場のニッサン、どんなストーリーで登場してくるのか、次世代の「GT-R」が待ち遠しいです。
<元開発技術者目線から見た辛口採点チェック!!>
■コーナリング性能/10点
旋回中の切り増し、旋回中のブレーキング、加速、車両挙動は乱れずに至極安定している
■高速直進安定性/9点
基本的には良いのだが、路面の轍を拾いワンダリングを若干感じる
■乗り心地/7点(Normal)
Comfortモードは8点、Rモードは6点。フラットな乗り心地だが、突起段差ではショックを感じる
■ロードノイズ/5点
一般道(60km/h)、高速(100km/h)を問わず、常に「コー」という高い音が前後から聞こえる
■エンジンフィール/9点
ややガサツな回転フィール、シルキーな回転ではない。排気サウンドは男らしい
■加速フィール/9点(ミッションがRモードだと10点)
3000rpmあたりを超えた先での暴力的な加速には爽快感を超えて恐怖すら感じる
■走りの質感/7点
音振が弱い。ロードノイズ、その他機械音、微振動など、長時間乗ると疲れる
■居住性/8点
狭いが4人乗りできるレイアウトは加点できる
■インテリアの質感/8点
素材はブラッシュアップしたがメーター、ディスプレイ、インパネなどの造形が7~8年前のデザイン水準
■コストパフォーマンス/9点
性能を存分に発揮できるドライビングスキルと環境があれば10点
■合計点/81点
※個別項目は10点満点、総合点は各項目を集計したものです(100点満点)
ニッサンGT-R 主要諸元
■全長×全幅×全高:4710×1895×1370mm
■ホイールベース:2780mm
■車両重量:1760kg
■駆動方式:4輪駆動
■エンジン:VR38DETT型V6ツインターボ
■排気量:3799cc
■最高出力:570ps/6800rpm
■最大トルク:65.0kgm/3300~5800rpm
■トランスミッション:6速DCT
■サスペンション前後:前/独立懸架ダブルウィッシュボーン式
後/独立懸架マルチリンク式
■タイヤ前後:前/ 255/40ZR20(101Y)
後/ 285/35RF20(104Y)
■WLTCモード燃費:7.8km/L
■価格:GT-R Premium edition 1210万5720円
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