近頃、都で流行る大型SUVクーペの試乗会が長野で開かれた。2019年9月3日(火)より販売開始されるアウディのニューモデルにして、Qシリーズの新たなフラッグシップ「Q8」が上陸したのだ。夏の盛り、長野駅まで新幹線で移動し、駅直結の地下駐車場を起点に、白馬のリゾートホテルまでおよそ50kmの一般道と、その周辺でのドライブを楽しむという、リッチなクルマにふさわしい、リッチな試乗会だった。だから申し上げるのではないけれど、いや、体験したからこそ、こう申し上げられる。新しいアウディQ8はリッチなリゾートによく似合い、かつニッポンの都会でもウケそうなクルマだった。
【主要諸元(55 TFSI クワトロ デビューパッケージ Sライン+コンフォートアシスタンスパッケージ)】全長×全幅×全高:4995mm×1995mm×1690mm、ホイールベース:2995mm、車両重量:2210kg、乗車定員:5名、エンジン:2994ccV型6気筒DOHCターボ(340ps/5200~6400rpm、500Nm/1370~4500rpm)、トランスミッション:8AT、駆動方式:4WD、タイヤサイズ:285/40R22、価格:1183万円。第一にスタイルがいい。ひと目で新しく感じる。今後、Qシリーズの新たな顔として位置づけられる、8角形のシングルフレームグリルもLEDライトも未来的でステキだ。オクタゴンの立体的なグリルは、戦前のアウトウニオンの伝説に頼らずともやっていけるという自信のあらわれ、と解することもできる。
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Q8は、クーペ・スタイルのオリジンを1980年に登場した「クワトロ」に求めたという。クワトロは、高速4WDという新ジャンルを確立し、アウディをプレミアム・ブランドへと導いた革新的なクーペである。そのクワトロの直線的なルーフラインとグラスハウス、それに前後フェンダーの膨らみが、Q8に引き継がれている。ちなみにクワトロのベースとなった「80」は巨匠ジョルジェット・ジウジアーロのデザインによるものである。
ボディは全長×全幅×全高:4995mm×1995mm×1690mm。兄弟車のQ7が3列シート・7人乗りであるのに対し、Q8は2列シート・5人乗り。サッシュレス・ドアが採用されているのもQ8の特徴で、ボディ剛性の確保が気になるところだけれど、あえてそうしたのは、ガラス面積をより広くとることによって、横から見たときの軽快感とかフレッシュ感とかを表現したかったのだろう。実際、それはうまくいっているように思われる。
それと、色がいい。われわれが試乗したQ8の「ギャラクシーブルーメタリック」もエレガントでよかったけれど、新色でQ8専用カラーの「ドラゴンオレンジ」は、ほとんどゴールド、すなわち金と同じ魅力を放っているのではあるまいか。2020年オリンピックの金メダリストにも似合いそうである。
5mを切る全長プラットフォームは、Q7とおなじである。ただし、Q7が3列7人乗りもあるのに対して、こちらは2列5人乗りしか設定がない。2995mmのホイールベースは共通ながら、全長はQ7の5070mmに対して、Q8は4995mmと5mを切る。1995mmの全幅は逆に25mm広く、1690mmの全高は15mmhだけ低い。ロー&ワイドというクーペの伝統的デザイン手法が使われているわけである。
試乗車のタイヤはオプションの22インチ。標準は20インチである。もっとも、初めて実車を長野駅の地下駐車場で見た筆者の第一印象は、でっかい、というものだった。映画「スター・ウォーズ」に出てくる帝国軍の象みたいな4本足の戦車(「AT-AT」という名前らしい)を思い浮かべた。顔は、「ストームトルーパー」だし(だからいいのだけれど)。
最低地上高は195mmある。参考までに「A4オールロード クワトロ」は170mmで、25mmの違いが乗降時に際して大きな違いを生む。よじ登らないと着座できない。
インテリアは、最新の「A8」や「A7」と同意匠。インパネは、ふたつの液晶モニターで構成される。上段モニターでは、ナビゲーションマップを表示するほか車両設定などが出来る。下段モニターではエアコンなどの設定が出来る。座ってしまえば、そこはアウディの旗艦A8とも共通するハイテク・ワールドである。SUVの埃っぽさとか汗臭さとは無縁の、無菌室的精密液晶空間があらわれる。
Sラインパッケージのフロントシートは専用のスポーツタイプ(電動調整式)。ドライバーの期待を裏切らないレスポンス走り出して即座に印象的なのは、でっかくて重いタイヤ&ホイールを履いている、という感覚だ。標準は20インチだけれど、S lineの試乗車はオプションの22インチを履いている。
「ドイツ人は大きなホイールが好き」と、アウディ・ジャパンの駐日ドイツ人スタッフが証言している。スタイリング優先の、285/40という薄っぺらいタイヤが車重2200kgを支えている。薄っぺらいだけではなくて、直径56cmもあるホイールはどうしたって重い。標準の20インチのホイールとの差は直径にして5cmほどの違いだけれど、ごく単純に円の面積で計算したら、×3.14だから、半径2.5cmの自乗の3倍以上も違うということである。2インチの差はものすごく大きい。
JC08モード燃費は10.3km/リッター。搭載するエンジンは2994ccV型6気筒DOHCターボ(340ps/5200~6400rpm、500Nm/1370~4500rpm)。40扁平なので、乗り心地は基本的に底の浅いシューズを履いているが如しである。路面の凸凹をよく伝える。前述したように試乗車はS lineなので、「アダプティブエアサスペンション スポーツ」という、その名のごとくスポーティなチューニングになる。なので、動く幅は狭いけれど、強靭な膝が大きな入力は確実に受け止める。最初は硬さを感じるけれど、やがて苦にならなくなる。どころか、速度が上がってくると、むしろイイという印象に変わる。つまり、なんの問題もない。
Q8の最低地上高は195mm。駆動方式は4WDのみ。「アウディドライブセレクト」では、オフロードに適した走行モードも選べる。ハンドリングは、ホイールベースが100mm短いポルシェ「カイエン」ほどシャープではないにしても、大柄なボディがよく曲がる。可変ギアレシオのステアリングもさることながら、「コンフォートアシスタンスパッケージ」のセットオプションに含まれている「オールホイールステアリング」こと4輪操舵システムが黒子として大きな役割を果たしているに違いない。後輪は、ワインディングロードや高速走行時には前輪と同方向に、低速走行時には逆方向に舵を切る。いまや4WSは3m級のホイールベースを持つ大型車にとって必須のアイテムとなりつつある。コーナリング中、内側のホイールに軽くブレーキをかけて曲がりやすくする機能もある。
アウディ独自の4WDシステム「クワトロ」は、通常時、前40:後60でトルクが配分される。さらに、路面状況によってトルク配分を前70:後30~前15:後85のあいだで可変制御する。ステアリングはSライン専用デザイン。「アウディドライブセレクト」をオートにして走っていると、初期ロールは比較的大きく感じる。グラリと来る。ロールの量はさほどでもない。あるところでピタリと止まり、ロールしながら旋回する。
通常の前後トルク配分は40:60で、状況に応じて駆動力の70%をフロントに、最大85%をリアに自動的に配分するということだけれど、ステアリングフィールは後輪駆動寄りのおかげだろう、前輪にトルクの干渉をほとんど感じない。
アダプティブエアサスペンション装着モデルは、減衰特性や車高を走行シーンに応じ自動で制御する。トランスミッションは8AT。Q8は現行「A8」とおなじ、3.0TFSIユニットと48Vのマイルドハイブリッド・システムを搭載する。Q7とおなじ2994ccのV型6気筒過給機付きではあるけれど、Q7がCRE型でスーパーチャージャーと組み合わされるのに対して、Q8はDCB型という型式で、インタークーラー付きターボチャージャーを採用している。CRE型との大きな違いはトルクにある。CRE型の最大トルクが440Nm/2900~5300rpmなのに対して、DCB型は500Nmを1370rpmという低回転で発揮する。おまけに新開発の8速オートマチックのギア比が全体にちょっぴり低められている。
2.2トンの車重ゆえ、フル加速にはさすがにタメをつくってからの加速となる。けれど、よほどアグレッシヴなアクセレレーションでなければ、巨体に比して3.0リッターという比較的小さな排気量にもかかわらず、ドライバーの期待を裏切らないレスポンスを見せる。その裏には、書いても書ききれないほどの膨大なテクノロジーのてんこ盛りがある。
メーターパネルはフルデジタル。メーターパネルには、ナビゲーションマップも表示出来る。事実上のフラッグシップに浮上?しかして、このQ8をだれが買うのか? アウディ・ジャパンの前述のドイツ人スタッフによれば、ふたつの層が考えられるという。ひとつはアラフィフのトップ・マネージメントで、子どもが手を離れ、奥様とアクティヴィティに興じているようなかた。もうひとつは30代後半から40前半の、成功した起業家である。“社会がカジュアル化している”といわれる現代において、大型サルーンが売れなくなっているという現実がある。ライフ・ワーク・バランスの時代にふさわしい、セダンに代りになるモノを人々は欲している。
リアシートはセンターアームレスト付き。シート表皮はアルカンターラ×レザーのコンビタイプ。Sラインパッケージ装着車のエアコンは、4ゾーンデラックスオートマチックエアコンディショナーにアップグレードされる。リアシート用のエアコン操作パネルも備わる。リアシートはスライドおよびリクライニング機構付き(ともに手動)。Sラインパッケージを選択した場合、オーディオ・システムはバング&オルフセンの3Dサウンド・システム(17スピーカー)にアップグレードされる。試乗車のQ8 55 TFSI Quattro debut package S line+comfort assistance packageの車両価格は、1183万円。アウディの新型「A6アヴァント」の55 TFSI S lineは1041万円である。この価格を見ると、目立ち度で軍配が上がるQ8が割安に思える。
ラゲッジルーム容量は通常時、605リッター。リアシートのバックレストは40:20:40の分割可倒式。ラゲッジルームサイドにある車高調製用スウィッチ。A8と最新テクノロジーを共有するQ8が、「技術による先進」を掲げるアウディの、Qシリーズにとどまらない、事実上のフラッグシップに浮上する日は近いのではあるまいか。ま、フラッグシップが割安というのもヘンな話ではあるけれど……、価格以上の価値がなければ選んでもらえない。過酷な時代を私たちは生きている、ともいえるけれど、消費者にとってこれほど喜ばしいこともない。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)
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