先日、ドイツでも史上最高気温を記録するなど、歴史的な熱波に襲われていたヨーロッパ。8月に入ってからは暑さは落ち着き、過ごしやすい夏の天気が戻ってきました。
今回は、さる8月4日。ベルリンのシュパンダウ区で行われた「Oldtimer Open Air」というクラシックカーのイベントについて紹介します。当日は北ドイツらしいさわやかな晴天に恵まれ、多くの来場者で賑わっていました。ベルリンはクラシックカーのイベントが頻繁に行われますが、その中でも特にのんびりとした雰囲気が特徴のこのイベント。普段の記事より写真を増量してお伝えしていきます!
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もともとは別の街だったシュパンダウ区
今回の「Oldtimer Open Air」が行われたのは、ベルリンの12区ある行政区のひとつ、シュパンダウ区にある「Zitadelle Spandau」(シュパンダウ城塞)という史跡の中。建造されたのは1557年から1597年という非常に古い城塞で、かつては監獄や刑務所として使用されたり、第二次世界大戦期には軍による毒ガスの研究施設が置かれたりと、暗い歴史を持ちます。
第二次世界大戦時に破壊を免れた貴重な史跡のひとつで、現在は歴史博物館があるほか、夏の間は中央広場を野外コンサート場として利用しており、多くのミュージシャンが演奏に訪れます。
シュパンダウ区は、ベルリンの中心部からバスや電車で20~30分かかることや、もともと別の街だったシュパンダウが1920年にベルリンへ併合されたという歴史もあり、街の雰囲気は他のベルリンの地区とはまったく異なります。もっと素朴で、穏やかで、のんびりとした雰囲気といったらイメージしやすいでしょうか。
「Oldtimer Open Air」もそんなシュパンダウ区の雰囲気が反映された、ゆったりとした雰囲気のイベントでした。城塞の史跡の中にクラシックカーがずらりと並ぶ様子は、ドイツでもなかなか見られないもの。入場料は10ユーロ(約1,200円)で、城塞の見学も可能です。
会場で見かけた珍車、名車
ずらりと並んだオペル・GT。この写真に写っている以外にも3台が訪れていて、計6台ものオペル・GTが集合している様子は圧巻でした。オペル・GTは1968年から1973年にかけて生産された2シーターのスポーツカーで、日本へも東邦モーターズによって輸入販売が行われていた歴史があります。
フランスのコーチビルダー、「Brissonneau et Lotz」(ブリッソノー・エ・ロッツ)が組み立てや車体製造を行っていた独仏合作モデルで、ブリッソノー・エ・ロッツがルノーの傘下に入るまでの間に、約10万台が生産されました。
会場で思わず「あっ!」と声が出たのが、このシトロエン・SM。シトロエン独特のハイドロシステムに、マセラティ製のV型6気筒エンジンをフロントに搭載・前輪を駆動するこのクルマは、1970年からの5年間に12,920台しか製造されず、日本へも134台が正規輸入されたに過ぎません。
この個体は、そんな希少なSMの中でもさらに貴重なコンバーチブル。フランスのコーチビルダー、「Henri Chapron」(アンリ・シャプロン)製の「SM Mylord」(マイロード)と呼ばれるモデルで、生産台数は5台とも、7~8台ともいわれる超希少車です。2016年のオークションでは、60万ユーロ(約7,200万円)で競り落とされたという記録も持つ「SM Mylord」。まさかこんなところでお目にかかれるとは!
ジャガー・Mk2 3.4サルーン。1959年以降に製造されたモデルで、3.4リッターの直列6気筒エンジンは210psを発生。当時の高性能スポーツセダンの代名詞的存在です。内外装ともに非常に美しい状態を保っていて、多くの人々の注目を集めていました。
まさにコンクールコンディション!といった印象の個体ではありますが、「Oldtimer Open Air」では特にコンクールデレガンスや品評会、来場者の人気投票などは行っておらず、あくまでクルマを見て楽しむ、というシンプルなコンセプトで運営されているのが特徴です。
これまた珍車!ハンス・グラース社の「Goggomobil T」(ゴッゴモビル T)です。1955年から1969年まで生産されていた超小型車で、メッサーシュミットやBMWが製造していた同様の超小型車よりも、乗用車らしい堅実な設計が特徴でした。250ccから400ccの空冷2気筒2ストロークエンジンをリアに搭載した簡素な作りで、写真のセダンモデルは20万台以上が生産されるハンス・グラース最大のヒット作となりました。
ハンス・グラース社は1895年に農業機械メーカーとして始まり、第二次世界大戦後にスクーターなど生産後、ゴッゴモビルで自動車製造に参入。しかし、1966年にはBMWに吸収されてしまいます。ウイングやデカールなどのディティールに、オーナーの愛情を感じますね。
BMW・1600GT。1967年から1968年までの1年間に、わずか1,255台のみが生産された貴重なモデルです。もともとは、先ほどのゴッゴモビルの製造元・ハンス・グラース社が生産していた「グラス・1300GT/1700GT」というモデルがベースになっています。
ハンス・グラース社がBMWに吸収されたのちに、BMW・1600tiに搭載されていたエンジンに換装、サスペンションやグリル、ライトなどをBMW製に変更して販売されたのが、この1600GTでした。同時期のBMW車のデザインとは一線を画す、優美なデザインが目を惹きます。
鮮やかなイエローが印象的な、フィアット・アバルト・850クーペ・スコルピオーネ・アレマーノ。フィアット・600をベースにしつつ、ジョヴァンニ・ミケロッティのデザインをもとに、カロッツェリア・アレマーノが製作したスポーツカーです。
全長3,60mm、全幅1,420mm、全高1,190mmという小さなクルマですが、優美なグランツーリスモを思わせる美しいデザインは、1960年代初頭のアバルトならでは。リアには847ccまで拡大された水冷4気筒OHVを搭載し、最高出力は57hpを発生。600kgのボディを160km/hまで引っ張りました。オーナー曰く、「運転席はとても狭いけど、運転していて楽しいクルマだよ」。
泣く子も黙る、1973年製ポルシェ・911カレラRS2.7。ツーリング、スポーツ、レーシングと3タイプが用意され、合計1,580台が生産された、名車中の名車です。惚れ惚れするような美しいコンディション!日本での人気の高さはいわずもがなですが、本国ドイツでの人気も非常に高く、子どもたちがひっきりなしに記念撮影をしていました。
家族みんなでゆったり楽しめる
日本でいうところのJAFに相当する、ADAC(ドイツ自動車連盟)。 ADACはヘリコプター救急事業も著名ですが、これはレスキューヘリを模した子ども用の遊具です。子どもたちがはしゃぐ中、ご両親は近くの椅子でリラックス…そんなのんびりした雰囲気もこのイベントならではです。
もちろん、ビールとソーセージは欠かせません。
自動車だけでなく、古い自転車の展示も。古い自転車の愛好会が主催するスペースで、黎明期の貴重な自転車が勢揃い。訪れた人々も熱心に見入っていました。
筆者が「Oldtimer Open Air」に来るのは、去年に続いて2度目でした。特に目立つプログラムや、派手な演出はなく、コンクールデレガンスも行われないという、ただひたすら「ゆっくりクルマを見て楽しむ」ということに特化したイベントは、ドイツでも珍しいかもしれません。オーナーの方々はみなさん大変気さくで、「ドアを開けてみていいよ!」「もっと寄って写真取りなよ!」などと話しかけてくれます。来年もぜひ行きたいと思わせられる、素敵なイベントでした。
ドイツでは夏の間、こうしたクラシックカーイベントが各地で開催されています。もしドイツに来られる際は、ぜひお近くのイベントを探して、足を運んでみてください。きっと、素晴らしい体験ができますよ!
[ライター・カメラ/守屋健]
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