■次世代テクノロジーにおいてはスケールメリットの追求が欠かせないと言われているが…
日産自動車が発表した2019年度第1四半期決算は、衝撃的な内容でした。『2019年度第1四半期の連結売上高は2兆3,724億円』と前年同期比マイナス12.7%となっているのはまだいいとして、『連結営業利益は16億円、売上高営業利益率は0.1%となり、また当期純利益は、前年同期比94.5%減の64億円』となっていたのです。ゴーンショックといえるガバナンスに関するゴタゴタが、ダイレクトに売り上げに影響するとは思えませんし、前年同期は4.0%だった営業利益率が0.1%まで落ち込んでしまうというのは尋常ではないという印象です。同時期におけるグローバルでの販売台数は123.1万台(前年同期比マイナス6.0%)ですから、利益の数字に比べると販売自体は極端に落ち込んでいるわけではないのですが、工場稼働率などからくる分岐点ギリギリまで販売レベルが下がったことで、非常に厳しい数字につながったと考えるのが妥当でしょう。
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この状況を放っておいていいわけはありません。決算発表を受けて『2022年度までにグローバル生産能力を10%削減し、稼働率を高めます。同時に、生産能力の適正化にあわせ12,500名規模の人員削減を実施する予定です』と、事実上の生産能力削減を宣言しました。たしかに工場稼働率を上げることは利益率の向上につながるわけですが、これまでの日産のビジネススタイルからすると大きすぎる変革です。従来、ルノー日産アライアンスは数を追求してきました。それが三菱自動車を傘下に収めるという動きにもつながったわけです。CASEと呼ばれる次世代自動車テクノロジー&サービスを考えたときに、いわゆるスケールメリットが活きてくるのは間違いありません。さらに数は正義とばかりにデファクトスタンダードが取れれば、さらに企業にとっては大きくプラスになります。電動化や自動運転というテクノロジーにおいてスケールメリットが効いてくるというのが、日産がこれまで主張してきたアライアンス効果のひとつといえます。
しかし、ここに来て生産能力を10%削減するというのはスケールを追求しないという意味です。これほどの生産能力調整ということは、そう簡単には元に戻せないといえますし、2022年度までに実施するということは利益率が下がったことへの目先の対応ともいえません。スケールメリットが“メリット”にならないと判断したといえます。日産のビジネススタイルが大きく変わったことを、生産能力の削減という発表は示しています。
日産の決算発表では、同社の販売台数が前年同期比マイナス6.0%となったことについて『グローバル全体需要は前年同期比6.8%減の2,250万台』になったとエクスキューズを記しています。市場全体の冷え込みからすれば日産の落ち込みはまだマシという主張です。とはいえ、新興国市場の拡大によってグローバルでの需要は増えるばかりと考えられていた自動車販売ですが、ついに頭打ちになったとすれば、利益を出すためのビジネスモデルが変わる必要がありそうです。だとすれば、日産だけでなく他の自動車メーカーも生産能力の調整が必要になってくるのでしょうか。
日産の生産能力削減という判断は、同社の商品力に起因するものだけではなく、しばらく先までの市場動向を予測したものでしょう。国産メーカーでいえばホンダがイギリスの生産工場を閉鎖するという発表をしたことも記憶に新しいところですが、自動車産業全体として、工場閉鎖の話題が増えてくるのかもしれません。
文:山本晋也(自動車コミュニケータ・コラムニスト)
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