2015年、フォルクスワーゲン車の排ガス不正事件がきっかけとなって、欧州はディーゼルエンジンに強い逆風が吹くことになった。独メーカーを中心に、それまでCO2削減の主流と目されていたディーゼル乗用車に見切りを付け、電動化に一気加速するようにも見えた。しかしメルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲン、アウディなどはディーゼルエンジンの開発も進めている。
それでも続くクリーンディーゼルの開発の理由は?
これは、クリアできなければ罰金を科されるEU排出ガス規制(2021年規制)の対策としてCO2排出量が少ないディーゼル車が不可欠という見方があるからでもある。そんな中、2020年から施行されるユーロ6d NORMの路上試験「RDE Phase2」をいち早くクリアしてきたのが、メルセデス ベンツA200dなどに搭載されるディーゼルエンジン「OM654q」だ。
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ディーゼルエンジンは頑丈さが求められるために必然的に大型で重くなる傾向があるが、OM654qではシリンダーブロックはシリンダーピッチを90mm、シリンダー間の厚みを8mmとしてコンパクト化し、材質もアルミ合金とすることで軽量化を図った。
対してピストンはスチール製だ。シリンダーとピストンは、エンジンが稼働して発熱し膨張することで適正なクリアランスとなるようにできているが、このエンジンは、それぞれを異なる材質で膨張率が異なることを利用して、フリクションを40%以上低減しているという。
さらに、シリンダー表面にスチールカーボン材を溶射コーティングする「NANOSLIDE」と呼ばれる摩擦低減加工をし、徹底的に機械的損失を排除している。
NOx削減のための方策のひとつとしては、高圧EGRと低圧EGRを組み合わせた「マルチウェイ排出ガス再循環(EGR)」を採用した。EGRは、吸気の一部を排出ガスに置き換えて、酸素濃度を低下させ燃焼温度を下げNOxを低下させる技術のこと。
高圧EGRは、タービンの前の排出ガスをコンプレッサーの後ろで合流させ吸気に回す。低圧EGRは、タービンを抜けた排出ガスをコンプレッサーの前に戻す。前者は低負荷時、後者は高負荷時に有効で、これによって後処理を行う前のNOxの低減を図っている。
ターボチャージャーから出た排出ガスは、酸化触媒でCOとHCを浄化し、アドブルー(尿素水溶液)を添加した後、sDPF(DPFにSCRを塗布したシステム)でPMとNOxを低減し、SCR触媒でNOxの処理を行う。さらにアンダーボディにも新規追加されたSCR触媒でNOxを徹底的に削減する。
ここでは余剰のアンモニアを処理するアンモニアスリップ触媒(ASC)を備え、アンモニアが外気中に放出させることを防いでいる。逆に言えば、これで十分な量のアドブルーの噴出が可能となったとも言える。このように何重にも排出ガス対策をすることにより、どのような状況でも基準値を超えない排出ガスに抑えるようにしているわけだ。
同じボディでガソリンエンジンを搭載するA180と比較しA200dは車両本体価格で71万円高い。A180スタイルだと30万円の差となる。排出ガスはクリーンだとして、このコストをどう見るか?が悩みどころと言えるだろう。
■文:飯嶋洋治(Webモーターマガジン) ■写真:井上雅行/メルセデスベンツ日本
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