隣同士の店舗でまったく同じ車種を扱うことになる
6月24日にトヨタは、系列ディーラーでの全店舗全車種扱いの開始を、従来の2022年~25年をメドとしていたのを、2020年5月に前倒しすることを発表した。
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現在東京地区を除けば、トヨタブランド車の販売ディーラーは、トヨタ店、トヨペット店、カローラ店、ネッツ店の4チャンネルが存在し、トヨタ店にはクラウン、トヨペット店にはハリアー、カローラ店にはカローラ、ネッツ店にはヴィッツといったように専売車種が設けられている。
すでに売れ筋のプリウス系やアクア、シエンタなど複数の車種が全店舗全車種扱いとなっているが、これが来年5月からはトヨタ車すべてを、全国のトヨタ系ディーラー全店舗で購入することが可能となるのだ。6月中旬にあるトヨタディーラーを訪れた際、「全店舗全車種扱いのスタートが早まりそうだ」という話を聞いていたが、それが正式発表されたのである。
どこの店へ行ってもトヨタ車すべてが買えるというメリットのほかに、さまざまな新しいサービスの提供を進めていくというが、ここで注目したいのが、ディーラー(販売会社)も含めて販売拠点の整理統合などについては触れていないことである。
つまり、地域によっては例えばカローラ店とトヨタ店が隣り合っていたりする場所も多いだろう。そのような地域はそのまま全店舗全車種扱いがまず行われるようなのだ。
また、全店舗全車種扱いとともに、いままであった兄弟車などはいらなくなるので、車種整理も行われていくようだ。しかし、今回のリリースでは車種整理についても同じタイミングで行われるのかについては触れられていない。そのためノア、ヴォクシー、エスクァイアといった兄弟車などもそのままとなるようだ。
全店舗全車種扱いだけをまず実施すれば、トヨタ店、トヨペット店、カローラ店、ネッツ店の間で、クラウン同士、カローラ同士などでの、値引き合戦が多発し、トヨタ系ディーラー同士での“潰しあい”は避けられないとは業界事情通氏。
「カローラ店やネッツ店は、同じ販売地域内に資本の異なる販売会社(ディーラー)が複数存在します。となればまさしく会社の存亡をかけた潰しあいとなります。販売現場では『うちは呑みこまれる側だろうな』などといった話もよく聞かれるようになりました」。
その意味では、来年5月以降はしばらくトヨタ車が断然買い得になるということにもなりそうだ。
単にクルマを売るのではなく付き合いが大切な車種も
トヨタ系ディーラーのほとんどは、メーカーであるトヨタと直接の資本関係のない、各地の有力企業や実業家などがオーナーとなる“地場資本系ディーラー”というもので構成されている。そのため、トヨタが表立って陣頭指揮をとって販売拠点の統合・整理を行うことは難しい。
そこでまずは全店舗全車種扱いを進め、トヨタ系ディーラー間で値引き競争を激化させて弱ったディーラーを力のあるトヨタ系ディーラーに吸収させる。あるいはメーカー直営化を進めて、地場資本ディーラーだけでなく、6000ともいわれる全国にある店舗のリストラを進めやすくしようとしているのではないかともいわれている。
このような動きのなか、たとえばトヨタ店以外、扱い車種のラインアップが近いトヨペット店はまだしも、カローラやネッツ店でクラウンが急に扱えるようになっても手放しで喜べないといった話も聞く。
クラウンはもともと店頭販売がメインのクルマではなく、長い間乗り継いでもらっている、企業経営者など管理顧客への代替え促進、そしてそのような顧客(お得意様)からの紹介によって、売り先の与信も担保しながら大切に販売してきたので、今のステータスを築いている。
コンプライアンスの厳しい時代に、ふらっと店頭にきたお客に購入条件で納得してもらったので契約をもらったという売り方では、クラウンのようなステータスも高い高級セダンの場合、反社会的勢力へ販売してしまい、売り慣れていないがゆえに資金洗浄に手を貸してしまうということにもなりかねない。
一定以上の高額車両などについては、口座振り込みを徹底するなど、“売り方の統一”も全店舗全車種扱いを進める上では必要があるのではなかろうか。セールスマン自らが、高額車両の取り扱いが増えたからとして、不正な新車販売に手を染める可能性も否定できない。
慎重さに定評があり、“販売のトヨタ”ともいわれるほど販売現場を熟知しているトヨタなので、その辺りもしっかり対策を打って全店舗全車種扱いを進めるのだろう。そのため“余計なお世話”になるかもしれないが、消費者としてはやはり、販売現場が混乱しないか心配になってしまう。
東京ではすでに販売チャンネルの統合と全店舗全車種扱いが実施され、好調に推移しているようだ。しかし、東京はかなりマーケットとしては特殊で、全国のベンチマークにはならない(メーカー直営ディーラーを統合している)。
新車販売業界以外でも東京中心で物事を考えた結果、ほかの地域とのミスマッチが発生することは最近ではよくあること。トヨタも当然そのようなことは把握しているだろうから、東京の事例に頼りすぎることなく、全国展開するだろうから、これもおせっかいな話に是非終わってほしい。
車種によっては売っても整備できない可能性もある
前出の事情通氏は「新車販売という視点では、どこのトヨタディーラーでも、トヨタ車ならなんでも買えるというのは、お客にとってはメリットが高いとしながらも、ディーラーはただ新車を売るだけの場所ではありません。販売したあとのアフターメンテナンスを行う場所でもあるのですが、そこでは少々混乱が起きそうなのです。来年5月ではすでに全店舗で全車種を扱うまでに1年を切っています。話を聞くと同じトヨタ車でも、今まで扱っていないので、現状では整備ができない車種もあるというのです」。
たとえばトヨタ店以外のトヨタディーラーに扱っていないクラウンに不具合があるとして持ち込まれたことがあったそうだ。しかし扱い車種でもなく、触ったこともないので対応できないとして断ったそうだ。
いまのところ例外なく全車種扱いとなるようなので、センチュリーやランドクルーザー、マイクロバスのコースターやJPNタクシーなども販売だけでなく、メンテナンス対応できる体制を組まなくてはならなくなるだろう。
果たして1年をきったいまから全国のメカニックに均一に技術指導したり、施設の再整備などができるのだろうか。せっかく全店舗全車種扱いにしても購入後のメンテナンスでモタモタしてしまえば、二度とトヨタ車を買ってもらえないケースも多くなるのではなかろうか。
具体的な計画は今後さらにディーラー各社と相談していく予定としているが、くれぐれもアフターメンテナンスの部分もしっかりケアし、けっして見切り発車のないようにしてもらいたい。
消費者側としては、全店舗全車種扱いだけ先行させるのではなく、その先にラインアップの整理及び統合、そして販売チャンネルの一元化など、それらを含めたトヨタの描く新しい販売ネットワークとはどういうものになるのか(東京のようなケースになるのかならないのか)まで同時に発表されないと不安は残ってしまう。
日産は全国的には、日産、プリンス、サティオのチャンネルは残すが、全店舗全車種扱いをしており、ホンダはプリモ、クリオ、ベルノを廃止し、ホンダカーズとして全車種全店扱いとしている。いずれも軽自動車、コンパクトカー、ミニバンに販売車種が大きく偏り、事実上消費者の選択肢が狭まってしまい、けっしてうまくいっているとはいえない状況になっている。
トヨタはその販売力から、“販売のトヨタ”といわれている。販売現場を軽んじる傾向の目立つほかの日系ブランドに対して、国内市場で圧倒的な販売シェアを誇るのは、まさに販売現場に寄り添ってきた賜物といっていい。
時代に合わせた再構築の必要性は認めるが、是非培ってきた、トヨタならではの販売現場というものを大切にして進め、けっしてお客に混乱を与えないようにしてほしい。
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