毎年、さまざまな新車が華々しくデビューを飾るその影で、ひっそりと姿を消す車もある。
時代の先を行き過ぎた車、当初は好調だったものの市場の変化でユーザーの支持を失った車など、消えゆく車の事情はさまざま。
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しかし、こうした生産終了車の果敢なチャレンジのうえに、現在の成功したモデルの数々があるといっても過言ではありません。
訳あって生産終了したモデルの数々を振り返る本企画、今回はマツダ RX-8(2003-2012)をご紹介します。
文:伊達軍曹/写真:MAZDA
■ロータリーの系譜を受け継いだ4ドアスポーツ
2003年から2012年までの長きにわたり生産され、一部では大いに愛されたものの、残念ながら1代限りで終わってしまったロータリーエンジン搭載スポーツ。それがマツダRX-8です。
小型化・高性能化を進めた自然吸気の新世代ロータリーエンジン「RENESIS(レネシス)」を搭載。RENESISは「RJCテクノロジーオブザイヤー」も受賞(2013年11月)
RX-8の(ある意味)前身にあたるリアルスポーツカー「RX-7」は、年々厳しくなる排ガス規制に対応することができず、近々のうちに廃番になることがわかっていました。
それでもマツダの技術者はロータリーエンジンの開発をやめるつもりはなく、1995年の東京モーターショーには「RX-01」という、FD(最終型RX-7)の後継になりそうなコンセプトカーを出品したりしていたのです。
しかしマツダの経営状態が悪化して1996年にフォード傘下となると、フォード側から「経営改善に寄与しないロータリースポーツの新規開発などまかりならん!」ということで計画をストップされてしまいます。
とはいえその後いろいろあって、「まぁ4枚ドアの車ならばロータリーエンジン搭載車を新たに作ってもよろしい」という方針に転換。そこで生まれたのが1999年の東京モーターショーに出品された「RX-EVOLV」と、その市販バージョンである「RX-8」だったのです。
RX-7やロードスターを生み出したマツダスポーツカースタイリングの原点「アレスティックテンション(緊張感と躍動感の両立)」が惜しみなく注力されたエクステリア
「4枚ドアであること」が至上命題であったため、RX-8のボディタイプはRX-7のような3ドアクーペではなく「4ドアクーペ」です。センターピラー無しで観音開きとなる「フリースタイルドア」を採用することで、「ファミリーでも使える4人乗りのFRスポーツ」という新ジャンルを、なんとか切り開こうとしたのでした。
搭載エンジンは自然吸気ロータリーの「RENESIS」。その最高出力は標準モデルが210psで、TYPE-Eが215ps、TYPE-Sでは250psをマークしました。そこに組み合わされるトランスミッションは5MT/6MTと4速ATです。
2008年3月にはマイナーチェンジを行い、エンジンやサスペンションジオメトリーなどさまざまな改良を行ったのですが、残念ながらRX-8は2012年6月に生産を終了。そしてその「2代目」は、今のところ現れていません。
■マツダが誇る唯一のロータリー なぜ消滅?
マツダは、RX-8を生産終了とした理由を詳細には発表していません。
しかし生産終了となる約2年前の2010年5月、欧州での販売を終了すると発表した際には「現地の新しい排出ガス規制『ユーロ5』に適合しなくなるため」という意味のことを言ってますので、理由のひとつはそれで間違いないでしょう。
つまり当時のロータリーエンジンでは、年々厳しくなるいっぽうの排ガス規制に適合できなくなったということです。
そのほか「新しい歩行者頭部保護基準をクリアできなかったから」という説もありますが、二つめの理由は「要するに(最後のほうは)ぜんぜん売れなかったから」ということに尽きます。
インパネセンター部からセンターコンソール、リアエンドへと、キャビン中央を貫いて連続する躍動感ある造型。これは、 ボンネットフードのパワーバルジを起点とし、ロータリーパワーがセンタートンネルを通って駆動輪に伝わるという流れをエクステリア、インテリアを連続させた造型で表現したもの
2011年8月までのRX-8の世界累計販売台数は18万9000台を記録していました。しかしスポーツカー需要の減退に加えて、ロータリーエンジン特有の「燃費性能の低さ」が課題となり、モデル後期の販売はかなり低迷していたのです。
具体的には、2010年の世界販売台数はわずか約2900台。最盛期だった2004年の約6万台と比べると、なんとその約5%でしかありません。
……売上が95%も落ち込んでしまえば、どんな会社のどんな商品であっても、それを存続させるのはかなり難しいでしょう。
ではなぜ(後半は)売れなかったのかといえば、「時代の変化」にほかなりません。
「RENESIS(レネシス)」を核とした技術革新によって、スタイリング・運動性能と、大人4人がゆったり乗れる機能性とを両立させた
なるべくスポーティな車に乗って活発に走ることが「カッコいい! ステキ!」とされていた時代は、燃費の悪さや車内の狭さなどはあまり問題とされませんでした。
しかしRX-8の販売が低迷しはじめた2000年代後半といえば、だいたい平成20年ぐらいですから、そういった空気は世の中からほぼ消えていました。
まったく別の何か、例えば「車内の広さ」や「低燃費であること」などが求められるようになっていたのです。
とはいえ、かなりの「ブランド力」を手に入れた現在のマツダが、もしも次のRX-8的な車──つまりまったく新しい省燃費なロータリーエンジンを積んだ、家族4人が乗れるスポーティで美しい車──を作ったならば……。
それでもあんまり数は売れないでしょうが、「濃い口ユーザー向けの商品」として、長く地味に売れ続けるような気はするのです。
■マツダRX-8 主要諸元
・全長×全幅×全高:4470mm×1770mm×1340mm
・ホイールベース:2700mm
・車重:1350kg
・エンジン:直列2ローター、1308cc
・最高出力:235ps/8200rpm
・最大トルク:22.0kgm/5500rpm
・燃費:9.4km/L(10・15モード)
・価格:293万円(2009年式TYPE-S 6MT)
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