初代モデルの良さを引き継いで登場
発売は1993年10月。WRCでも退役間近だった初代レガシィがニュージーランドで悲願の初優勝を遂げ、その感動冷めやらぬという雰囲気のなかでの登場だった。
【ニッポンの名車】目指したのは感動性能! 4代目スバル・レガシィ
バブル経済の崩壊でクルマやカーライフの価値観が激変する時期にあって、初代のコンセプトを実直に継承。ヒット作の2代目でありながら、守りに入らず革新的な技術をあますことなく投入する攻めの姿勢が奏功し、当代随一の高性能車として、多くのクルマ好きから絶大な支持を得た。
2リッター小型車の税制枠が外れたことで、ボディサイズの拡大路線をとる2リッター車が増えつつあるなか、拡大こそしながらも5ナンバー枠に収まるサイズを堅持。初代が切り開いた新世代SUBARUの走りの良さにさらなる磨きをかけながら合理性も追求した「グランドツーリングセダン/ワゴン」として誕生している。
走りと居住性の理想バランスを追求した「ツーリングパッケージング」を採用。ホイールベースを初代比で50mmも伸ばし、居住性や直進安定性を高めた。テールゲートの形状やリヤピラーの角度を最適化することで、ドライバーに荷室の大きさを悪い意味で実感させることがないように配慮。タイヤハウスは冬用チェーンの装着に支障のない範囲で容積を小さくするなど、ストラット式サスペンションながら荷室内部の張り出しを減らす工夫も見られる。
ワゴンの荷室の広さと使いやすさは初代でも定評があったが、単なる初代の踏襲作ではない。キャンプやスキー用品を実際に積み込む作業を繰り返す地味なテストをあらためて入念に実施し、基本設計となる理想的な各部のサイズや形状を検討し直して決定された。当時のチーフデザイナー、オリビエ・ブーレイ氏による監修のもと、スタイリングとの調和も徹底的に見直されている。
その結果、初代が開拓したステーションワゴン市場をさらに拡大させ、競合車も激増したが、そのすべてを圧倒する存在感を発揮。ワゴンのひとり勝ち黄金時代を築くことになる。
運転席の着座位置は初代比で15mm下げながら、各ウインドウ上端の位置や面積を最適化し、理想的な前方・側方視界を確保。各ピラーも死角の少ない断面形状と位置とし、フロントフードの形状にも留意して、ボディ先端の位置感覚をつかみやすくした。
車両の直後にある1m程度の高さの物体が確認できるよう、セダンではトランクリッドの高さと形状、ワゴンではリヤウインドウの位置を最適化。SUBARUが1970年代から現在にいたるまで重視し続けている「0次安全」の思想は、2代目レガシィでも一切の妥協もなく貫かれている(1次安全=アクティブセイフティ/2次安全=パッシブセイフティ)。
マイチェンで量産2リッターターボ世界初の280馬力を実現
パワーユニットは、トップスポーツグレードに搭載された2ステージツインターボに衝撃を受けた人は多いはず。狙いはピークパワーの向上よりも、初代で顕著だった低回転域のトルクの細さを補いターボラグを低減させ、実用燃費を向上させることにあった。
前期型250馬力仕様のタービンのA/R比(タービンノズル断面積/タービン径)は、初代RSが20、GTが15であったのに対し、12(×2機)と小さくし、タービンのシャフトはボールベアリング支持とするなどして、アクセルレスポンスを向上。タービンが切り替わるときに感じられる「トルクの谷間」が問題視されることにもなったが、同じEJ20ターボでも、初代レガシィや初代WRX用とはまったく異なる出力特性は2代目レガシィの強烈な個性となった。
とにかくターボのワゴンがよく売れたので、それ以外の印象が薄れてしまった感が否めないものの、NAユニットでは4ブランチY型等長エキゾーストを採用して静粛性を大幅に向上。上級志向の250T、最低地上高200mm確保のクロスオーバー車グランドワゴンなど、グレード展開も拡大された。
トランスミッションでは、ターボのAT車にアルシオーネSVXで初採用されたハンドリング重視の常時四輪駆動システムであるVTD-4WDに注目。駆動トルク配分の後輪重視制御ならではのスムースな回頭性と操舵レスポンスの良さなど、自然なハンドリングを実現した。この時代の前後駆動配分は前35:後65で、雪道などではオーバーステア気味な状態になると、直結4WD化してスピンを防ぐ挙動が楽しめる。VDCやESPがまだ一部の高級車にしか装備されない時代にあって、アクティブなドライビングスタイルのドライバーから初心者まで絶大な支持を受けた。
前期型のままでも当時のクルマ好きに十分なインパクトを与えた2代目レガシィ。しかし、さらなる圧巻は、1996年6月24日に実施されたビッグマイナーチェンジでの劇的な性能向上にある。量産2リッター車世界初の280馬力化や、当時の5ナンバー車としては大径といえる17インチホイール、そして量産車としては世界的にもほかに例のなかった倒立式ストラットのビルシュタインダンパーで武装。ワゴンに設定された新グレード「GT-B」の衝撃は凄まじく、これが超大ヒット。1996年のレガシィの販売台数は9万台を超え、新車ランキングのベスト10入り。1997年には月販1.3万台を超えるなど、空前の大人気となった。
「BOXER MASTER-4」と呼ばれた新エンジンはターボMTの280馬力化に注目が集まるものの、本質的な狙いはピークパワーの向上ではなく、トルク特性の改善と低燃費化にあった。
当時の車両研究実験総括部でレガシィ担当の主査を務めた大林真悟さんは、「280馬力という数字にこだわった訳ではなく、レガシィというクルマを気持ちよく走らせるにはどうすれば良いか? を追求しているうちに280馬力になりました。前期型250馬力時代の2代目レガシィに対し、よりスポーティで高回転域で伸びのあるパワーフィールを追求した結果の280馬力だったのです」と語る。
ふとしたきっかけから採用されたビルシュタインダンパー
ターボ人気がすごすぎてまったく注目されなかったものの、じつは廉価な実用グレードに搭載されるSOHC1.8リッターのEJ18も大幅なポテンシャルアップがはかられている点にも注目したい。圧縮比を9.5から9.7へアップしたのをはじめ、ノックセンサー採用、インテークポート通気抵抗低減、インテークマニホールド長短縮、エアクリーナー一体型中速トルクアップチャンバー採用、低粘度オイル採用、低フリクションピストン採用、シリンダーヘッド冷却性向上など、じつに内容の濃い改良が加えられた。
また、NAの2リッターはリーンバーンエンジンとして、クラストップレベルの低燃費性能を実現。ターボは気持ち良すぎてアクセルを踏みすぎてしまうことの代償として、初代に続き2代目でも極悪燃費のレッテルを貼られてしまうことになったが、じつはよく見ると2代目でも、2リッター車格の4WDとしては優れた燃費性能を実現していたといえたのである。
まだまだ特筆ポイントはたくさんあるが、ここでは今のSUBARUのトップスポーツモデルにも採用され続けているビルシュタインダンパーについてあらためて注目しておきたい。
そもそも、2代目レガシィ後期型で初採用されたビルシュタイン社製の倒立式ダンパーは、STIの強化パーツ商品として先行開発が進められていたものだった。STIの開発現場にサポートメンバーとして参加していた富士重工業の実験部隊のメンバーのひとりが、あまりの乗り味の良さに衝撃を覚え、富士重工業でレガシィのサスペンション開発を担当していた高津益夫さんに興奮しながら電話したことがきっかけとなり、レガシィ量産グレード採用への流れに変わった。
当時はサスペンションのマルチリンク化が流行しており、当然当時の富士重工業でも3代目レガシィ用にマルチリンクの先行開発をしていたが、高津さんは初めてビルシュタイン社製の倒立ストラットがもたらす走りの良さを体感したとき、倒立ストラットのポテンシャルに激しく感動。乗り心地はしなやかなのに安定性が高く、ワゴンボディの上家のバネ揺れもしっかり抑えてくれる。まさに、高出力化されたレガシィに求められるダンパーだった。レガシィのトップグレードにはその後もビルシュタインダンパーが採用され続け、その後の4代目レガシィでもサスペンション設計を担当した高津益夫さんとビルシュタイン社の関係もさらに深いものになっていく。
2代目レガシィは、スバリストのみならず多くのクルマ好きに喜びと感動を与えた傑作車として、今もなお語り継がれている。ステーションワゴンの文化を深化させ、レガシィというクルマの存在感を圧倒的なものとした功績は大きい。
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