■アクセルからブレーキに足を踏みかえるのに約1秒の空走時間が生まれてしまう
保育園児が犠牲になった右直事故の報道を見て、多くのドライバーは憤りを覚えていることでしょう。そして、この右直事故がよくあるタイプだったことは、安全運転への意識をあらためて高めるきっかけになっているとも感じます。
交通事故は減っているはずなのに… GW中の報道で気になった20代の逆走事故
ところで、気になるのは報道によって事故のシチュエーションを知った人々の反応です。基本的には「他山の石」として気を引き締めていると思いますが、なかには「自分であれば止まることができた」、「ブレーキを踏んでいないのはとんでもない」といった意見も見られます。衝突時の状況(衝突後の速度など)が正確にわからないので、絶対に止まれなかったとはいえませんが、「自分なら止まることができた」と思うのは自信過剰かもしれません。
たとえば40km/hで走行中、前方に飛び出しを発見したとして、停止するまでに何mが必要かご存知でしょうか。警察庁の資料によれば20mとなっていますが、もう少し長い距離が必要というデータもあります。20mの内訳はアクセルからブレーキにペダルを踏みかえる時間に空走してしまうリアクションディスタンスが11m、実際に制動が立ち上がってからのブレーキングディスタンスが9mといったところ。リアクションに必要な時間は速いドライバーでも0.8秒といわれています。40km/hで走行中には1秒間に11.1mほど進みますから、人間が反応するには1秒程度がかかるというのが定説というわけです。
ですから仮にクルマ同士の衝突から1秒後にクルマと人が接触していたとすると、ほとんどのドライバーではブレーキをかけることができないほどの短い時間といえます。そもそも、前述した停止距離の目安は舗装路で直進時の話で、衝突などによって大きな力が加わったときには同じように止まれるとは限りません。そうした事実を知ってなお「自分であれば、すぐに止まることができる」というのは、もはや物理を無視した発言といえます。
昔から「クルマは急に止まれない」といいます。おおよその目安でいえば50km/hでの停止距離は27~32m、60km/hでは36~44mとなります。速度を上げれば、どんどん伸びていくのです。こうした数字は運転免許の筆記試験の際に覚えたでしょうし、事実として体感しているでしょう。この機会に、あらためてクルマがブレーキによって止まるまでには、結構な距離が必要になるという事を確認しておくべきでしょう。
たとえば、20mといった長さは軽自動車をピタッとつなげたとして6台分になる距離です。40km/hでの走行時に停止するまでに、それだけの長さが必要なのだと思えば、歩車分離がされていない道でスピードを出すことがどれだけ危険なのか実感できるのではないでしょうか。『ゾーン30』といって速度を落とすようにする活動もありますが、30km/hであっても空走距離は8m以上になりますから、目に入ったときには間に合わないというケースも考えられるのです。『ゾーン30』に指定されていなくとも、生活道路全般では速度を抑える意識が重要です。
リアクションにかかる時間や速度と停止距離の関係をあらためて整理することで、クルマを走らせることの危険性を再確認し、より一層の安全運転につなげたいものです。
文:山本晋也(自動車コミュニケータ・コラムニスト)
写真:アフロ
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