“後ろの席が広い車”といえば、かつてはボディサイズの大きいセダンの独壇場だった。ところ、近年この傾向が大きく変わってきている。
リアシートの乗員を第一に考えた設計で、広さのうえでも象徴的な車といえば、トヨタのセンチュリーだが、今やミニバンや軽自動車でも、同車に匹敵するほど広い後席を持つモデルは少なくない。その広さの“目安”ともなる「室内長」の数値では、N-BOXがセンチュリーを上回るほど。
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ただし、この室内長は実際の広さと必ずしも一致するわけではなく、後席の快適性にはシートの作りなどさまざまな要素も大きく関わってくる。
そこで、セダンやミニバン、軽自動車まで含めて、室内長が長いモデルを題材に、実際の広さや快適性をみていきたい。
文:永田恵一
写真:編集部、TOYOTA
室内長の基準と実際の広さの関係は?
さて、室内長の測り方はメーカーによって異なっており、ザックリといえば「メーターフードなどのダッシュボードのある地点から後席の背もたれやヘッドレストまでの距離」となる。
そのため、室内長は測り方、ダッシュボードの形状や後席背もたれの角度、シートスライドやリクライニングなどにより変わってしまうので、室内長が大きい=後席が広い、快適とは言えないのだ。
数値と実際の広さは必ずしも一致しないものの、車の室内スペースを見るうえで、カタログに記載される「室内長」は、2列シート車で2000mmを超えるとインパクトを感じる。
室内長が2000mmを超える車というと、かつてはビッグセダンくらいだったが、現在は技術の進歩やシートアレンジの充実により、軽自動車でも2000mmを超えるモデルがいくらでもある。
【大型セダン】室内長2000mm超車の快適性
言わずと知れた国産最上級セダン、センチュリー。全長は5335mmで、後席乗員を第一に考えられ、単純な広さ以上の快適性を誇る
■トヨタ センチュリー/室内長:2165mm
現行センチュリーは、全長5335mmに相応しい2165mmという室内長を持つ。
後席に座ると足元空間の広さに加え、1505mmの全高によるゆとりある頭上空間、柔らかな乗り心地と車外の音が気になるくらいの静粛性により、移動時間を有効かつ快適に過ごすことができる。
また、シート地も適度な張りを持つモケット、ふんわりとした革という違った個性を持つ点も面白い。
なお、筆者はV12エンジンを搭載した先代センチュリー(室内長:2045mm)を所有しているが、20年以上前に2代目セルシオをベースに開発された車で、5270mmという全長も考えると、特に足元空間がそれほど広い車ではないというのが率直な印象だ。
また、エンターテイメント機能やマッサージ機能も現行センチュリーは遠く及ばず、当然ながら快適性は現行センチュリーの圧勝といえる。
センチュリーの後席(ウールファブリック仕様)。リクライニング機構を含むパワーシートを採用
■レクサス LS/室内長:2080mm、2165mm
全長5235mmで室内長も2000mmを超えるレクサス LSであるが、4ドアクーペ的なスタイルのためか後席は足元、頭上ともに悪い意味で数値が信じられないくらい狭い。
そのため、リアシートを使う機会が多いユーザーには勧められず、室内長と室内空間の広さが一致しない典型的な例といえる。
■トヨタ カムリ/室内長:2035mm
■日産 ティアナ/室内長:2135mm
■ホンダ アコード/室内長:2050mm
■スバル レガシィB4/室内長:2030mm
北米が主な市場となる実用性重視のこのクラスのセダンは、全長が5000mm近いこともあり室内長が2000mmを超えるのは珍しくない。
この4台を総合的に見て後席が最も快適なのは、1500mmという全高を生かした頭上空間の広さと乗り心地の良さを加味してレガシィB4だ。
【ミニバン】室内長2000mm超車の快適性
モデリスタが手がけるアルファード ロイヤルラウンジ(写真は改良前仕様)
■トヨタ アルファード・ヴェルファイア ロイヤルラウンジ/室内長:3120mm
■日産 エルグランド VIP/室内長:2905mm
「ラージミニバンの3列目シートを取り払い2列目・3列目のスペースを2人で贅沢に使う」というコンセプトは、現行エルグランドのVIPが先だった。
このコンセプトに追従したのが、王者アルファード/ヴェルファイアに設定されモデリスタが制作する1500万円オーバーのロイヤルラウンジである。
この2台の勝負は、ロイヤルラウンジの圧勝だ。
同モデルのほうが100mm全高が高い分で頭上空間に余裕がある以上に、アルファード/ヴェルファイアのレクサス版となる「LM」に通じる24インチディスプレイ付の前後席を仕切るパーテーション、王様用のようなシートなどを持ち、飛行機で例えるとスイートクラスのような雰囲気を持っている。
ロイヤルラウンジの後席。飛行機のファーストクラスを思わせるようなシートで、大型セダンに勝るとも劣らない広さと豪華さを誇る
■ホンダ ジェイド/室内長:2200mm(2列シート仕様)
もともと狭いながらも3列目シートを持つミニバンとして登場したジェイドには、マイナーチェンジで2列シート仕様も加わった。
2列シート仕様は足元、頭上空間もサイズを考えれば上々の広さを持つ。そのうえ背もたれも適度なホールド性を持つ形状となっており、後席に2人までで乗るぶんには快適性は高い。
そのため「リアシートが広いステーションワゴン」という選択肢として面白い車だ。
■ホンダ フリード+/室内長:2310mm
3列シート車がメインのフリードには2列シートのフリード+(プラス)も設定されている。
リアシートの快適性はフリードと同等で特に「広い」、「快適」といった印象はなく、ラゲッジスペースを自由に使える車と考えたほうが良いだろう。
【コンパクトカー】室内長2000mm超車の快適性
登録車No.1のノート。全長4100mmのコンパクトカーだが、ラージセダン並みの室内長を誇る。果たしてその快適性は?
■日産 ノート/室内長:2065mm
ノートは室内長こそ大きいが、後席は着座位置が低く足を投げ出すような姿勢で座ることになる。
そのうえシートの作りも安っぽく、同じスペース重視のコンパクトカーなら、室内長こそ1935mmと劣るもののフィットのほうがずっと快適だ。
ノートのリアシート。広さは充分だが、シートの座り心地を含めて快適性では今一歩に留まる
■スズキ イグニス/室内長:2020mm
イグニスもシートスライドにより室内長こそは広いが、後席に座ってみるとサイドウインドウの外側から内側への入り込みがキツく、足元を広くできる以外は特に「広い、快適」という印象はない。
【軽自動車】室内長2000mm超車の快適性
2年連続で“日本一売れている車”となったN-BOX。全長3395mmという軽自動車の枠内で、室内長だけでみればセンチュリーを超える2240mmと驚異の広さを誇る
【スーパーハイトワゴン】
■ホンダ N-BOX/室内長:2240mm
■ダイハツ タント/室内長:2200mm
■ダイハツ ウェイク/室内長:2215mm
■スズキ スペーシア/室内長:2155mm
■日産 デイズルークス&三菱 eKスペース/室内長:2235mm
【ハイトワゴン】
■ホンダ N-WGN/室内長:2055mm
■ダイハツ ムーヴ/室内長:2080mm
■スズキ ワゴンR/室内長:2450mm
■日産 デイズ&三菱 eKワゴン/室内長:2065mm
軽自動車のなかでも特に全高が高く、後席のスライド機能を持つ車が多いスーパーハイトワゴンとハイトワゴンは、室内長2000mm超のオンパレードである。
そのなかで後席の快適性が高いのは、足元と頭上の広さに加え、シートの作りと乗り心地もいいホンダ N-BOXだ。
N-BOXの後席を最後部までスライドさせるとご覧のような広大なスペースが出現。限られたボディサイズと価格も考慮すると驚きの空間というしかない
ただ、軽自動車は後席を目一杯スライドするとリアウインドウが後頭部と干渉すれすれとなることが多い。
万が一追突された際のダメージが心配であるため、走行中はリアシートをあまり後ろにせず、大きくスライドさせるのは停止中にくつろぐ時などに限定して使うことを勧めたい。
◆ ◆ ◆
室内長だけであれば、軽自動車でもセンチュリーを超える車はたくさんあるが、後席の快適性という観点であれば広さのあるラージミニバンか、乗り心地や静粛性といった質を備えた広いセダンが双璧だろう。
車の広さや快適性は数値だけでは測れないものなので、広さと快適性を重視して車を選ぶなら実車確認と後席も含めた試乗を入念に行って、納得できる車を選んでほしい。
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