先日、イタリア大使館の前を歩いていたら、外交官ナンバーのマセラティ「クアトロポルテ」が、リアシートに立派な身なりの人を乗せて、スーっと大使館に入っていくのを見かけて「カッケー!」と感心した。
感心する一方、スポーティなクアトロポルテがショーファーカーとして使われているのを意外に感じた。けれども、考えてみればクアトロポルテはマセラティのみならずイタリアのフラグシップ・サルーン。サイズを比べると、メルセデス・ベンツのSクラス(標準ボディ)を長さでも、幅でも上まわるのだ。
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面白いのは、外から眺めても、運転席に座ってステアリングを握っても、Sクラスより大きなクルマと感じない点だ。
エクステリアは精悍なフロントマスクと、流れるようなルーフラインの組み合わせで引き締まって見えるし、ほどよくタイトな運転席からの眺めはまるでスポーツカー。しかも、振り返るまでは、広々としたリアシートの空間があることを意識させない。
インテリアを見渡すと、ブラウン・レザーの発色の美しさに、頭がポーッとする。カタログを見ると、試乗車とおなじエルメネジルド製のシルクを使ったインテリアは3タイプ用意されている(通常のレザー仕様まで含めると9タイプ)。しかも、ステッチ・カラーも選べるという。
マセラティが何を大事にしているブランドなのかがよくかわる。
駐車場を出て真っ先に感じるのは乗り心地のよさ。4本の足がゆったりと伸び縮みして、路面からのショックを緩和している様子が伝わってくる。
ただしソフトでありながら、だらしなくボディの揺れが続くようなことはなく、上下動はすっと収束する。このあたりは路面の状況やドライビングスタイルに応じて瞬時に減衰力を変化させる、「スカイフック・サスペンション」の効果だろう。
この乗り心地だったら、要人をリアシートに乗せる用途に使っても問題ないと納得する。
タイヤをチェックすると銘柄はピレリの「P ZERO」でフロントが245/40ZR20、リアが285/35ZR20だった。これだけ太く、かつ薄いタイヤで良好な乗り心地を実現するのは、お見事! としか言いようがない。
市街地をゆっくり走ったり、高速道路を巡航したりするような乗り方であればパワートレーンは穏やかだ。
2250rpmという低い回転域から発生する59.1kgmの重厚なトルクと、ZF製8速ATの丁寧で気の利いた変速に身を任せていると、やんごとない身分の方をお乗せしているショーファーの気分になる。エンジンは振動もなく、音も平和だ。
しかし、マセラティとフェラーリが共同で開発し、フェラーリの工場で生産されるV型6気筒ツインターボは、もちろんそういう乗り方をするためだけに作られたわけではない。
アクセルペダルを踏み込むと、それまで黒子に徹していたZF製8速ATが、さっとあらわれてギアを落とし、回転計の針が“ポン”と跳ね上がる。
するといかにもヌケのよさそうな乾いた排気音が高まると同時に、2トンのボディがまるで1トンを切るライトウェイトスポーツのように軽やかに加速する。
音の高まりと加速感のシンクロが絶妙で、気持ちがいい。実際にタイムを計ったらどうなるかわからないけれど、速く走っている気持ちにさせるという点において、このクルマは天才だ。
さらにシフトセレクター横にあるスイッチで、エンジンとサスペンションをそれぞれスポーツモードに設定すると、アクセルペダルとハンドルの操作により敏感に反応するようになる。
変化の度合いは大きく、クルマ全体がひとまわりかふたまわり、コンパクトになったように感じるほどだ。体感としては、メルセデス・ベンツだったら「Cクラス」ぐらいのサイズを操る感覚だ。
最新のクアトロポルテは、レーダーやカメラを駆使した運転支援装置もしっかり搭載する。前を行く車両にきっちり追従するし、車線からはみ出すと警告を発し、それでもドライバーのことを頼りないと判断すると自動でハンドルを修正する。道路標識をしっかり読み取って、制限速度をメーターパネルに表示もしてくれる。
ただし、執筆するためにそうしたシステムがしっかり作動するのを確認したあとは、運転支援系のスイッチに触れなかった。
V型6気筒ツインターボエンジンをクォーンとまわし、電動パワステとは思えないほど手応えのいいステアリングホイールを操っているほうが楽しかったからだ。
イタリア人のクルマ好きが、「自動運転? アホか。だったら食事もセックスも機械にやってもらえばいい」と、力説していたのを思い出す。
運転が好きだからステアリングホイールを握っているのであり、マセラティもそういう人のためにクルマを作っているのではないか。
マセラティに尋ねたわけではないから断言はできないけれど、最新のクアトロポルテからはそんな匂いがぷんぷんするのだった。
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