■楽しいクルマは定義が難しい?
俗にいう、「クルマの楽しさ」とは人によって違います。小さなクルマで小さなエンジンを回し切って運転することが楽しいと思う人や、たとえば大パワーが生む豪快な加速を楽しいと思う人もいます。
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刺激もとくになく、ただ静かに走るクルマなのに、なぜかとっても楽しいと感じる人もいます。つまり楽しいクルマは本人の価値観や主観によって大きく基準が変わってしまうものなのです。
一般的には、スポーツカーやホットハッチなどのスポーティモデルや、マニュアルトランスミッション(MT)を積んだクルマの多くが、楽しいクルマであることに間違いありません。
俊敏なハンドリングで自分の意思通りにキビキビ動く運動性と高いエンジン性能による俊敏な加速を持ち、コーナーを安定した姿勢で素早く駆け抜ける喜びを与えてくれるスポーティモデルが楽しいことはいうまでもないでしょう。
車体が軽いことも楽しいクルマのポイントです。これらの要素を持つスズキ「スイフトスポーツ」は、現代流の楽しいクルマの筆頭といえるかもしれません。
昨今では、スポーツカーでもオートマチックトランスミッション(AT)の採用が進んでいて、MTモデルが減りつつあります。筆者(遠藤イヅル)はMT絶対主義ではなく、ATでのスポーツドライビングをとても楽しいと感じる一人ですが、やはりMTに乗ると、自分がクルマと向き合い、自らの気持ち一つで性能を引き出せる楽しさを感じずにはいられないことは確かです。
そして、運転が楽しいという意味では、モーターならではの淀みないスムーズな加速、アクセルレスポンスの良さを持つ電気自動車も侮れない存在といえます。
また、別のベクトルでは、道無き道を走破する4WD車の運転も実に楽しいです。とくに、本領を発揮するオフロードシーンで、スリルいっぱいにクルマを御する楽しさは他に味わえません。
一方の「楽なクルマ」とは、どんなクルマでしょう。小さい車体で運転が楽というのもあれば、シートや乗り心地が良くて楽なクルマもあります。静粛性に優れているのも楽なクルマを作る要素の一つです。
エンジンに大きなパワーやトルクがある方が運転は楽になります。視界が良いクルマ、車両感覚がつかみやすいクルマも実は楽なクルマ。ハンドリングがしっかりしていて、自分の思った通りにはしらせることができるクルマも楽なクルマなのです。最近、普及が急激に進んでいるACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)を使うとさらに運転が楽になります。
楽なクルマの特徴は、長距離を運転しても疲れが出にくいこと。もしくは、疲れをほぼ感じないことです。それは排気量の大小、車体の大小に限りません。また、優れた空調や装備を揃えた「快適なクルマ」が楽なクルマに100%相当しないことがあります。
たとえば、欧州の小型車の多くは、それが車種内のベーシックグレードであっても、欧州内での長距離移動が考慮されているので直進安定性と乗り心地も良く、体が一番触れるパーツであるシートの出来が優れているので座り続けていても腰が痛くならないことが多いです。
■楽しいクルマと楽なクルマはリンクする
実は、楽しいクルマと楽なクルマには共通する要素が多いです。たとえば、派手なエアロパーツで武装し、320psの高出力エンジンを載せるホンダ「シビック タイプR」も、長距離は楽々なのです。
足は固いですが、ハンドリングに優れ、パワーがあり、シートも良いので疲れにくいのです。ボディが大きくて取り回しが良くないのが難点ですが。
また、ライバルのルノー「メガーヌ・スポール」も、ルノーきってのスポーツモデルでありながら、実に快適。それでいて速く、楽に移動できるクルマです。
ルノーでは、最近登場した「アルピーヌA110」も遠出が楽なグランドツーリングカーといえます。楽に移動するには、飽きてしまわないことも大事。その点、楽しいクルマは「降りたくないな」と思うほど、ずっと運転していられるのです。
「楽しい車」と「楽な車」、どちらにするという答えなら、僕は両方を兼ね揃えたクルマが選びます。欲張りな望みですが、スポーツカーや高級SUVには、両方の性格を持っているクルマが多く、スポーティなモデルでなくても運転の楽しさと楽さを持つクルマは結構あります。
もしくは、ケータハム「スーパー7」のように、快適性は少なくてもレーシングカーのような強烈なハンドリングと加速力で、心の底から楽しめるようなストイック&スパルタンなモデル。
または、トヨタ「センチュリー」や古いシトロエン「DS」、ちょっと前のビュイックやキャディラック、メルセデス・ベンツ「Sクラス」など、乗り心地やラグジュアリー、楽さを極めたクルマを選ぶという方法もアリです。
乗り心地が良いクルマにも運転の楽しさがあります。クルマの選び方は千差万別。それもまた、クルマの楽しみの一つといえるでしょう。 【了】
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