デザインの評価は難しい。クルマだけでなく、人間の容姿についても同じ。デザインは趣味趣向、好みが反映されるため、評価軸がバラバラになる。
しかし、人間でも特別美形ではないけどいつまでも若々しく見える、その逆に整っているけど年齢以上に老けて見える、というケースもある。これはクルマも同じ。
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本企画は、21世紀に登場したクルマを対象に、年月が経っているのにまったく古さを感じさせない老けないクルマと逆に時間とともに古くさく見え老けてしまったクルマをそれぞれ5台、清水草一氏に挙げてもらい、その理由を解説してもらった。
文:清水草一/写真:NISSAN、SUZUKI、MAZDA、TOYOTA、森山俊一、ベストカー編集部
老けるか老けないかはデザインの時間的耐久性の差
クルマも年月の経過とともに年を取るが、人間と同様、年を取っても若く見えるクルマもあれば、年の割に老けて見えるクルマもある(今回はメカではなく、あくまで”見た目”に関しての話)。
見た目が若いクルマと老けるクルマの違いは、基本的には、「デザインの時間的耐久性の差」と言っていいだろう。
故・前澤義雄氏(元日産チーフデザイナー)は常々、「自動車デザインにおいて最も重要なのは、時間的耐久性だ」と語っていた。
クルマは10年、20年使われる商品であり、大きさもかなりある。走るたびに、いや止まっていても人々の目に触れる、一種の公共物でもある。そのデザインがすぐに老けてしまっては、公共物として落第ということだ。
では、自動車デザインの時間的耐久性は、どういった要素で決まるのか。
第一にプロポーション。人間で言えば体形そのものだ。姿勢がよくてシュッとしていれば若く見えるが、腰が曲がっていたりすれば、すぐ老けて見えてしまう。
続いて面の張り。ボディパネルの微妙な曲線の具合と言ったらわかりやすいか。パーンと張って見えれば、筋肉や肌が文字どおり張っていうようなものだが、これが貧弱だとすぐ老けて見えてくる。
最後にディテールの仕上がりだ。ヘッドライトやグリルなどの形状や装飾の具合である。これは目鼻立ちや化粧の仕上がりに当たる。無意味にゴテゴテしていると老けて見えやすい。
では、私の独断で、老けないクルマと老けたクルマを、国産車からピックアップしてみよう。今回は、21世紀に登場したクルマに限定した。あくまで一例なので念のため。
いまだに若さを保っている老けないクルマ5選
■2代目日産キューブ(2002年デビュー)
プロポーションは文字通りサイコロのようで、極限のシンプルさを追求しているが、よく見ればボディパネルはすべて微妙な曲線を描き、タイヤの踏ん張り感を演出している。
シンプルな箱が踏ん張っているので、いつまで経っても若く見える……のだろうか?
現行の3代目キューブは、2代目に比べるとすべてがやや演出過剰で、そのぶん老けて見えてしまう……ようだ、たぶん。
■日産V35スカイラインクーペ(2003年デビュー)
世界の自動車デザインが、シンプルな方向に回帰しつつあるいま、改めてこのスポーツクーペを眺めると、プロポーションのシンプルさに感心する。
サイドのショルダーラインは一直線で、その下のパネル面も実にシンプル。ライトやグリルもシンプルで、奇を衒ったところはない。ボディ下部とキャビン部のバランス絶妙で、スポーツクーペに必要な適度なマッチョさを感じさせる。それゆえに若く見える……のだと思います。
ところがこれが同じV35スカイラインのセダンになると、猛烈に老けて見えるのだった!(詳しくは後述)。
■4代目スバルレガシィツーリングワゴン前期モデル(2003年デビュー)
レガシィの中でも名車と言われる4代目だが、とにかくすべてのバランスがいい。人間で言えば、特にマッチョでもグラマーでもスマートでもないけれど、スッと均整が取れている感じだ。
ディテールに関しても同様で、ランプ類やグリルもシンプルでバランスがイイ。よって、いつまでも老けない。
ところがこれがマイチェン後の後期型だと、ヘッドライトとフロントグリルにおかしな化粧が入ったことで、すべてのバランスが崩れ、急激に老けて見えるから不思議なものですね。
■2代目スズキスイフト(2004年デビュー)
故・前澤義雄氏は、2代目スイフトを「素うどんのよさ」と評したが、このデザインはまさに素うどんである。
プロポーションはシンプルでムダがなく、均整が取れている。斜めに直線的に伸びるAピラーが愚直な気品を、リヤピラーの適度な太さは力強さを感じさせる。人間で言えば姿勢がいいので、老けないのである。
3代目スイフトは、2代目をさらに洗練させており、こちらも年とともに美しさを増している。
■3代目マツダデミオ(2007年デビュー)
シンプル一辺倒ではないラインが躍動感を感じさせつつ、すべてがバランスよくまとまっていて、どこにも破綻がない。特に秀逸なのは、ノーマルグレードのフロント回りだ。キリッとした目、小さくて格好のいい花、サワヤカな口。気品に満ちた顔は、老けることを知らない。
ただし、エアダムを持った「スポルト」になると一気に年相応になり、後期モデルも老けが早い。後期モデルは、フロントグリルの中央に横棒が入っているが、それだけでシンプルな気品は大幅に失われたように感じる。
ほんのわずかな無駄な化粧が、年齢を浮き彫りにしてしまうのだった。
時間の経過は残酷、老けて見えるクルマ5選
■日産V35スカイラインセダン(2001年デビュー)
実質的にはインフィニティG35だが、数少なくなった生き残り個体を見かけると、猛烈に老けて見える。この1代前、R34スカイライン(GT-Rを除く)もデザイン的には駄作だったが、あの時代錯誤的な角張ったボディよりも、こっちの方がさらに老けが早く感じられる。同じV35でもクーペは老けないのに、いったいナゼ?
理由は、すべてがヌルいから。フォルムもボディパネルもディテールもすべてがヌルい! ヌルいってどういうこと? と問われれば、「緊張感の欠如」と答えよう。締まるところが締まってないのだ。
例えばクーペには適度なマッチョ感があるが、セダンはキャビン部の上下寸法が大きいぶんそれもなく、左右の絞り込みも小さいので全体に平板。そういった積み重ねが、大きな差になっている。
■初代トヨタアルファード(2002年デビュー)
現行アルファードは飛ぶ鳥を落とす勢いだが、初代アルファードを見ると、方向性は同じなのに非常に古臭く感じる。
その原因は、微妙なプロポーションの狂いにある。Bピラーは初代エルグランドのコピー的な尖った台形状だが、上端の幅が狭すぎて弱弱しく見え、地震があったら屋根が潰れてちゃいそう。
フロント部だけ前傾したウエッジ形状なのも、ボディ後部とのバランスが微妙に崩れている。中央が下がったグリルやバンパー形状のバランスも、どこか「ぶつけて凹んじゃいました」という風情。
現行アルファードのものすごい力感と比較すると、鍛え方の足りない、ひ弱なオラオラだったと言わざるを得ない。
■2代目トヨタプリウス(2003年デビュー)
日本にハイブリッドカーブームを巻き起こし、爆発的に売れたクルマだが、登場から15年余たったいま見ると、妙に老けて見える。登場当初は「そんなにカッコよくないけれど、未来的で悪くない」と感じたはずなのだが……。
実際、2代目プリウスのデザインは、シンプルかつクリーンで決して悪くない。しかし、老けて見えるようになったのも事実。
理由のひとつには、あまりにも数が売れたがゆえに、さすがに見飽きたというのがある。
さらには、空力を優先したきわめて真っ当な未来感をまとっていたため、15年たった現代が、当時の未来を追い越してしまった。
やはり自動車デザインというのは、どこかに意外性が必要なのだ。2代目プリウスはそれが弱かった。
初代プリウスはもっと古臭いが、個性的であるがゆえにあまり老けて感じず、逆に走っていると「老いてますます盛んだネ!」と思わせる。
■13代目トヨタクラウン(2008年デビュー)
21世紀に発表されたクラウンの中では、断然無難で凡庸なデザインなので、相対的に老けて見える。
1代前はゼロクラウン。これはいま見ても適度な緊張感があり、あまり老けていない。1代後はイナズマグリルの先代クラウン。非常に個性的で、いまだに革新的に感じる。
ところがその間の13代目クラウンは、存在感が希薄だし、古き悪しき時代のクラウンが持つ保守性が濃厚。ゆえに老けて感じられる。
■現行(3代目)トヨタヴィッツ(2010年デビュー)
ヴィッツは稀有なことに、新しいモデルほど老けが早い。初代ヴィッツのデザインは傑作で、今見ると、安っぽいながらに守ってあげたい愛おしさを感じるが、2代目はそれを太らせて若干ヌルくしているので、それなりの年を感じる。
そして現行ヴィッツは、無意味なうねりやエッジを加えてゴテゴテさせ、プロポーションもボディパネルもディテールも崩壊。新車でも中古車に見えるほど老けが早くなった。
さらに現行のマイナーチェンジ版は、リヤに踏ん張り感を演出するための無意味なほうれい線が描かれ、リアコンビランプがこれまた無意味に横に延長されて、強烈な加齢臭を発するようになったのだった。
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