エンジンが生み出した力を効率良く伝えるうえで車に欠かせない「トランスミッション」。かつて「4速」が普通だったオートマチックトランスミッション(AT)ながら、今やなんと「10速AT」も登場。多段化が進む一方、小型車に多いCVT(無段変速機)もネガを改良し進化してきている。
ひと昔前までATは「ダイレクト感に欠けるけど楽」と言われ、他方マニュアルトランスミッションは「伝達効率に優れるけれど、渋滞時などはかったるい」などといったイメージは、どのくらい変わっているのか? 最新ATとMT、それぞれの長所と短所を解説します。
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文:鈴木直也/写真:編集部
ベストカー 2019年2月26日号
最新MTの長所と短所は?
MTの本場欧州でも最近はATの比率が高まっていて、全く新たにMTを開発する例は珍しくなっている。
トランスミッションメーカーは、新たに投資をするなら高効率なATが主流。遠くない将来やってくるEV化の波を考えると、今後はおそらく自動車メーカーの垣根を超えたMTの共用化が進むのではないかと思われる。
つまり、「最新のMTとは?」というテーマで原稿を書こうとすると、意外にネタが少ないのが現状なのだ。
もちろん、シンプルで伝達効率に優れるMTの魅力は捨てがたいものがあるから、フリクションロスの低減やシンクロナイザーの改良など、改良すべきポイントには着々と手が入れられている。しかし、構造がシンプルなMTはそれゆえに開発され尽くした感があるし、人間が操作するだけに多段化にも限界がある。
そうなると、むしろ開発の焦点となるのはエンジンとの協調制御の部分だ。
この協調制御、以前から日産 フェアレディZにはシフトダウン時の空ぶかしを自動化する機能があったが、より進化したカタチで登場したのが新型カローラに採用された「インテリジェントMT」だ。
これは、クラッチミート時の微妙なアクセル操作やシフトアップ/ダウン時の回転合わせなど、これまでドライバーが勘と経験で行っていたことをエンジン制御用のコンピュータが自動的に最適化してくれるというもの。
結果として、初心者ドライバーでも発進時にエンストすることなくスムーズに走り出せるし、シフトアップでガクガクしたりすることも少ない。
アジア市場などではまだまだMTが多数を占めているが、一般的なMTの改良はミッションそのものよりもこういったエンジンとの協調制御をどう進化させるかが主要テーマとなってくるだろう。
一方、欧州を中心にDCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション=MTベースの2ペダルAT)は幅広く使われているから、その自動変速メカニズムを取っ払えば簡単にMTが作れるのではないかという考えもあるが、現実にはそういう例は少数派。
筆者の知る限りでは、例えばポルシェ911の7速MTと7速PDK(DCT)が基本的に同じユニットから派生しているケースがあるが、これはむしろ例外だ。
そんな911のMTとPDKを乗り比べてみると、いちいちクラッチを踏んでから手でシフトレバーを動かすというメンドくさい操作が、メチャメチャ楽しいのだ。
スポーツカーはクルマと対話しつつ乗りこなすのが醍醐味。マイナーな楽しみではあるが、やっぱりMTにも捨てがたい魅力があると思う。
最新多段ATの長所と短所
CVTやDCTが登場する前は、ATといえば今でいう“ステップAT”が主流。昔は“トルコンAT”なんて言う人もいた。
基本的な仕組みは、MTのクラッチをトルクコンバーター(=トルコン)という流体継手で置き換え、その下流にプラネタリーギア(遊星歯車)を使った変速メカニズムを組み込んだものといえる。
プラネタリーギア機構は、中心のサンギア、遊星歯車を掴むキャリア、その側のアウターギアで構成されるが、この3つのうちどこかを停止させると入出力ギア比が変わったり逆転したりする。このプラネタリーギア機構を2~4組使うことで、4~10速のATを構成しているわけだ。
CVTやDCTなど新しいATが登場したことで、ステップATが時代遅れと見られた時期もあったが、最近その巻き返しぶりはすさまじい。
レクサス LCや北米仕様のホンダ アコードではついに10速に到達したことで多段化ではDCTを凌ぎ、レシオカバレッジ(=発進ギアと最高速ギアの比率)は9を超えてこの項目が苦手なCVTを圧倒。マニュアルシフトのレスポンスでも定評あるDCTといい勝負をするようになってきたし、トルコンを備えるからDCTの苦手な渋滞にも強い。
以前から、ドライブフィールに関しては、最も自然かつスムーズなのがステップATという定評があったから、燃費性能やシフトレスポンスがよくなれば“鬼に金棒”。一時期イケイケだったDCTは今や劣勢に立たされているといっていい。
また、今やATは電動化と無縁ではいられないが、トルコンを電気モーターに置き換えることで、ステップATは容易にハイブリッド/PHEV化が可能。日産、ベンツ、BMWがそのパターンで量産化しているし、横置きではアイシンが8速ハイブリッドATを開発し、シトロエン DS7への供給が始まっている。
欠点といえば、機構が複雑で制御系に多板クラッチを多用するため、ほかのATに比べて内部フリクションが大きいことだが、これも最新モデルでは相当に改善されていて、トータルなロスではCVTやDCTと大差なくなってきている。
もうひとつ気になるのは、多段化を狙うとコストが上昇することで、プラネタリーギア機構を3組以上使う8速とか10速はほぼ高級車専用。庶民は6速までで我慢というのがちょっと残念なところだ。
小型国産車で主流のCVT その長所と短所は?
トランスミッション技術者にとってCVTはひとつの理想形。エコランするにしても加速するにしても内燃機関のスイートスポットは狭く、常に最適ポイントを維持できるCVTが理論上ベスト。それゆえ、昔からさまざまなCVTが研究開発されてきた。
そのなかで、現状広く普及しているのが金属ベルト(またはチェーン)とプーリーを組み合わせたCVTだ。
相対する面がコーン形状の円盤2枚でひとつのプーリーを構成し、2枚の円盤に狭まれたV字型の谷にベルトがかかっている。円盤同士の間隔が広がるとベルトは谷底に降りていき接触半径が小さくなり、間隔が狭まるとベルトは円周方向にせり上がって接触半径が大きくなる。2つのプーリーの間で有効半径を連続的に変化させることで、変速比が無段階に変わってゆくわけだ。
こう書くと単純な仕掛けのように感じるが、問題はベルトもプーリーも金属であること。そのまんまでは滑るばかりでロクにトルクが伝わらないから、プーリーへの強い押し付け圧力と剪断安定性の高い専用オイルが必要となる。
このあたりがCVTの弱点で、大トルクに対応するのが難しく油圧ポンプ駆動に食われる内部フリクションが大きい。モード燃費測定のような軽負荷では優れた効率を示すものの、連続高速走行のようなシチュエーションではほかのATより伝達効率が落ちる傾向がある。
その対策として、リダクションギアを入れてプーリー速度を落としたり(ダイハツ)、副変速機を組み合わせてレシオカバレッジを広げたり(ジヤトコ)といった改良が行われているが、基本的に金属接触でトルクを伝達している以上、大トルク/高負荷に弱いという基本特性は変わらない。CVTが小排気量車をメインターゲットとしているのはこの辺に理由がある。
もうひとつ、CVTの課題として加速時のラバーバンドフィール(エンジン回転が先行して車速があとからついてくる)がよくあげられるが、最近登場したトヨタのダイレクトCVTでは、発進専用のギアを導入することで発進フィールをかなり改善しているのが注目される。
発進ギアはトルコン直結だから加速フィールはステップATと同じようにリニアで、その後クラッチが切り替わってCVTにバトンタッチする頃には、すでにスピードに乗っているからアクセル開度も戻し気味でヘンな滑り感はまったくない。コロンブスの卵的なナイスアイデアだ。
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