私にとって毎年恒例となっている正月の行事は「実家の父親と痛飲」である。80歳を過ぎた父と気兼ねなくお酒を飲めるのは、このご時世にとても幸運であることは理解しているつもりだ。そこで…、飲めるうちは飲む(変に自粛しない)ことにしている。父親は特にコレクターだったという認識はないのだが、毎回、面白いものを出してきては、それを肴にして飲むのが恒例になっている。ある年は阪神タイガース優勝記念のサントリーオールドだったり、ある年は旧い自動車雑誌だったり。で、今年は昔の家のクルマの写真だった。それがこのコロナの写真というわけだ。
若い頃の父は運転免許を持っていなかったが、仕事の関係でゴルフをしなければいけなくなった。そこでゴルフ関連の準備の一環として、運転免許を取得することにしたようだ。筆者も幼心に父が「坂道発進が難しいんだよ」と言っていたのを覚えていて、そのときにクラッチの仕組みを説明してもらって理解した記憶がある。
ユーミンの「中央フリーウェイ」の歌詞に登場する「調布基地」今昔物語
さて、この写真、facebookのとあるグループでシェアしたところ、思いのほか好評だった。その理由を検証してみたが、雑に撮ったと思われるこの1枚が評価される理由が少しわかってきた気がする。
そこで、なぜ、いまこのクルマにドキドキするのか?を筆者なりに掘り下げてみることにした。
ライトが丸い
やっぱりライトは丸くて大きいのがかわいい。今どきの小粒で明るいシカっとしたタイプの方が安全かもしれないが、レンズとリフレクタが大きい方が愛嬌がある。しかも、このコロナは贅沢にも4灯仕様で高級感をかもしているところも人気の理由だったかもしれない。ライトの周囲のリングもキラッとメッキのパーツが使われていてスキがないのだ。
バンパーがメッキ、しかもオーバーライダー付き
ピカールで磨きがいのありそうなメッキが特徴的な、ちょこんとしたバンパーがたまらない。しかもカツオブシ(オーバーライダー)までついている。どこまでがボディなんだが、そもそもバンパーなんていう概念があるのかないのかわからない最近のクルマとは違い、どんなに小さくて華奢でもその存在感の主張が素晴らしい。もう、メッキのバンパーがついてないクルマは「ジドウシャ」じゃない、と言いたくなるほどだ。
ホワイトリボンタイヤ
今どきだと、ホイールが大きくなって、タイヤが薄くなってしまって、サイドウォールに何か手を入れておしゃれにしようなんて、考えもつかない。しかし、当時はパーニー(扁平率82)が主流で、サイドウオールがぶっといので、ここに白いリボンを描いたり貼ったりしておしゃれ感を出してたいたようだ。クラシカルな感じを演出するので、今だにおしゃれパーツとして入手できることを読者の皆さんはご存知だろうか。
ホイールキャップ
アルミホイールなんて、庶民とは関係なかった頃、スチールホイールのホイールナットやセンターハブを隠すための役割をホイールキャップが担っていたようだ。この球面状のホイールはさまざまな車種でラインナップされていて、個性豊かなようだ。ネーミングも「ホイールカバー」ではなくて、「ホイールキャップ」なところがポイントだ。
フェンダーミラー
このちょこんとして細いアームにくっついた小さなミラーがどこまでの視認性があったのか?筆者は確認していないが、少なくとも、サイドミラーというものの位置がドアに移動し、あげくウインカーになって光ることなんて想像できない形状だが、なんともセクシーなミラーであることには変わりない。
メッキのワイパーとモール類
メッキのワイパーとフロントガラスの周りのメッキのモールがおしゃれだ。最近のクルマはこのあたりのパーツは全部黒くなってしまって怖いことこの上ない。こういうところにキラッと光るパーツがついているだけで、こんなにも上品で貴賓ある雰囲気にできるのに。大根おろしみたいなフロントグリルはやりすぎなので、個人的にはあれは上品とはいえないと思う。サイドボディにも細いモールが貼り付けられていて、ほどよいアクセントになっている。当時のプレス技術では繊細ばプレスラインが出せなかったため、単調なボディになりがちだった。そこでこの類いのモールを付けたという理由があったとしても、やはりこういうアクセントの方がいいと思う。
三角窓
機能としても車内の冷却に貢献する三角窓だが、クルマ全体の雰囲気の中で実は重要なアイテムだ。サッシも当然メッキで、パーツ類も華奢ではあるが、ひ弱に感じることはない。助手席に乗せてもらえたときには、必ず開けて顔に風を受けていた記憶がある。
総括・なぜ、このクルマにドキドキするのか?
ご覧になってわかる通り、このトヨタ コロナHT、全体的にはかなりくたびれていることは間違いない。それはそうとしても、ディティールの造作がすばらしく、今みてもまったく古臭さを感じない。もし、この個体が目の前に出てきて、乗っていいぞ、と言われたら喜んで毎日乗ってしまうと思うほどだ。クーラーもなかったし、確かコラム4速だったはずで、パワステもパワーウインドウもなかった。しかし、このクルマで出かけることは、小さかった筆者としてもワクワクするイベントだった。そんな記憶がきっと残っていて、現代のクルマに魅力を感じない偏屈なオッサンになってしまったのかもしれない。
「なぜ、このクルマにドキドキするのか?」
写真がセピア色だから、ということもあるかもしれない。しかし、この頃のクルマは当時の製造技術を注ぎ込むだけでなく、精一杯のおしゃれをしているからかもしれないと感じている。要所要所にメッキを使い、キラっと光るパーツで小さな体にお化粧しているようだ。現代のクルマはロボットっぽくて男性的というか男の子っぽい雰囲気のクルマが多いように感じるが、この当時のクルマはどこか女性的な感じがするから、そう感じるかもしれない。
いろいろなクルマを見たとき、それが「彼」に見えるか「彼女」に見えるか、判定してみると面白いだろうし、仲間と意見を戦わせてみても楽しそうだ。そういう意味では、このコロナはやはり「彼女」だと思う。
[ライター・撮影/ryoshr]
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