昔のマツダ車は、下取り、買い取り額が他メーカーのクルマと比べて異常に安かった。安いがゆえに、少しでも高く買い取ってもらおうと、マツダディーラーに下取ってもらう。
そして、マツダ車を下取ってもらった後は、結局値引き額が大きいマツダの新車を買う、これは世に言う、負の連鎖ともいえる、このマツダ地獄である。
都内のマツダディーラーでは3月、6月、12月になると、大幅値引き、決算セールなどと書かれたノボリが掲げられ、派手な売り文句が書かれた広告のチラシが配られていたものだ。値引き額も他社より大きく、先代MPVなどは50万円引きは当たり前で80万円引きだったと記憶している。
ところが、最近ではどうやら事情が変わってきた、マツダ地獄はもうないらしいという情報を耳にするようになった。それは本当なのだろうか? 中古車事情に詳しい自動車ライターの萩原文博氏が迫ってみた。
文/萩原文博
写真/ベストカーWeb編集部
■マツダ車を買ったらマツダ車に乗り続けるしかない「マツダ車地獄」
みなさんは「マツダ地獄」という世にも恐ろしい言葉を聞いたことはあるだろうか。よく言われていたのが、2012年のマツダの新世代技術群「SKYACTIVテクノロジー」をフル搭載した初代CX-5が登場する前だ。
「マツダ地獄」というのは、新車購入時に大幅値引きをしていたため、3年後や5年後の下取り(買取り)価格が同じ価格帯のライバル車に比べて、非常に安くなる。
したがって、他社に乗り替ることができず、最も高額な下取り価格を提示するマツダディーラーでクルマを買い続けることになるという現象のことだ。
新車時の値引きはすなわち、下取り(買取)価格分をユーザーが先取りしていることになるので、新車時に安く購入していれば、売却時も安くなるのは至極まっとうな話。
とはいえ、当時のマツダはそれほど大幅値引きをしないとクルマが売れない時代だったとも言えるのだ。
■初代CX-5登場時から一変、大幅値引き販売をやめる
そんなマツダ地獄の転機を迎えたのが、先ほど書いた2012年の初代CX-5の登場時のこと。ライバル車に負けない商品力をもつCX-5は、従来の大幅値引きによる販売をやめたのだ。
そしてCX-5以降登場した新世代のマツダ車はすべて、大幅値引きをやめた。同時に真っ黒い内外装が特徴の新世代店舗に、ディーラー店舗のCIを変更するなどプレミアム路線に変更。クルマ自身の商品力、そして店舗の変更などによってマツダ地獄からの脱却を図ったのだ。
その戦略が功を奏し、初代CX-5の3年後の買い取り価格はこれまでのように異常に下がることはなくなり、マツダ地獄は終わったように思われた。
■新たなマツダ地獄が生まれてしまった!?
しかし、現在マツダオーナーは新たなマツダ地獄を味わう状況になってしまっているのを発見した。その新マツダ地獄とは一体どのようなものなのかを説明しよう。
従来のマツダ地獄は“人気”という不確定要素によって起きていたと思う。商品力が同じなら、トヨタや日産がいい。と思うユーザーも多いだろうし、やはりディーラー網の充実度によって集客力の差もあっただろう。
しかし、新マツダ地獄はマツダ自身が起こしている現象なのだ。詳しく言うと、毎年のように行われている年次改良(マイナーチェンジや一部改良)が他社に比べると頻繁に行われており、クルマの鮮度が落ちるのが早いのだ。
しかも、安全装備のアップデートも行われるなどユーザーのために行われている改良が、その頻度の多さによって売却価格を下げてしまい、ユーザーを苦しめるという結果を招いているのである。
例えば、主力車種のCX-5を見てみると、2代目となる現行型CX-5は2017年2月より販売開始された。しかし、その半年後の2017年8月に第1回目の商品改良を行い、先進安全装備のグレード展開の拡大をおこなっている。
そして2018年2月(発売は3月)に商品改良を行い、搭載する2種類のガソリンエンジン、そしてディーゼルエンジンの改良。マツダコネクトの改良。駐車する際に便利な「360°ビューモニター」の設定など利便性が高められている。わずか登場から1年でエンジンが改良されてしまうなんて、かなり衝撃的だ。
そして、同年10月(発売は11月)に2018年2度目の年次改良を行い、2.5Lターボエンジンの追加をはじめ、車両姿勢制御の「Gベクタリングコントロール」はハンドルを切った際の制御に加えて、ハンドルを戻す際の制御が追加された「Gベクタリングコントロールプラス」に進化。
運転支援システムの「アドバンスト・スマート・シティ・ブレーキ・サポート」には夜間歩行者検知機能を追加すると同時に、高速道路での追従走行が可能なマツダ・レーダー・クルーズ。コントロールや交通標識認識システムが全車標準装備。さらにマツダコネクトがスマートフォンとの連携が強化され、Apple Car PlayやAndroid Auto対応するなどコネクテッド機能が充実している。
1年のうち2回の年次改良も多いが、その充実した内容には驚くばかり。実際に2018年にCX-5の新車を購入した人に話を聞くと、「2回目は聞いてなかった。ちょっとショックですよね」と嘆いていた。
■頻繁な改良こそが、売却時の査定が安くなる原因
このような商品改良はCX-5だけではない、コンパクトSUVのCX-3はディーゼルエンジンの排気量が1.5Lから1.8Lへとアップ。ロードスターRFに搭載されている2Lエンジンは高回転型に変更。CX-8は登場して約1年でガソリンエンジンが追加されるなど、挙げればキリがない。
確かに、メーカー側の良いパーツや技術ができたので、順次搭載していく。という真摯な姿勢は好感がもてる。
しかし、モデルサイクルで頻繁にエンジンの変更や先進技術の進化が行われると、ユーザーは「買ってすぐに商品改良されるかもしれないから、マツダ車はいつ買ったらいいのかわからない」と思っているだろうし、実際、この頻繁な改良こそが、新車の購入価格は高いのに、売却時の査定が安くなるという新マツダ地獄を生んでしまったのだ。
■車種ごとに新マツダ地獄が本当に起きているのか徹底検証
では、本当に新マツダ地獄は起きているのか? それを証明しよう。CX-5の2018年3月から10月に販売された直近3カ月の平均相場の推移を紹介しよう。
2018年2度目となる商品改良が行われる前、9月の時点では平均相場は306万円だった。商品改良が発表され、実際に販売された11月になると、平均相場は308万円から290万円と一気に18万円も下がった。
その後、展示車や在庫車などが大量に市場に流入し、現在は298万円となっているが、これは暴落といえる状況だ。このような状況がロードスターRFやCX-3でも起きていた。
別表ではまず、初代CX-5以前に登場した最終型プレマシーとMPVの中古車相場を紹介している。プレマシーはリアにスライドドアを採用したスタイリッシュミニバンとして中古車で人気が高いため、それほど割安感はない。
一方のMPVは年式が進んでいるものの、大きな値落ち率を示している。先代のデミオやアクセラ、アテンザもMPVほどではないが、値落ち率は相当高くなっている。
一方、現行型では登場して1年でアテンザが最大37%、デミオが最大35.5%、CX-5で最大26.4%と商品改良の影響は明らかに中古車相場に暗い影を落としているのは間違いない。
■現行マツダ車の最新買い取り相場
そして最後に現行マツダ車の最新の買い取り相場を調べてみた。ここでは年式ごとにまとめてあるが、実際は年次改良ごとに数値は変わってくるので、年次改良前後では買い取り価格は数万~十数万円は変わってくるのだ。
従来のマツダ地獄は「安く購入したので、売るときも安くなる」だった。しかし新マツダ地獄は「購入価格は高いが、年次改良によって売却時は安くなる」という現象になっていたのだ。今後の動向も随時追っていきたい。
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