マツダでミラーサイクル・エンジン開発を主導したエンジン博士の畑村耕一博士(エンジンコンサルタント、畑村エンジン開発事務所主宰)が、2019年のスタートにあたり、「2018年パワートレーン重大ニュース」を寄稿してくださった。昨年年頭にも、「2017年のパワートレーン重大ニュース」を掲載したが、再びパワートレーンの現在と未来について、プロの見方を聞いてみよう。5回シリーズの第4回をお届けする。
カーボンニュートラル走行を実現する燃料
カーボンニュートラルの走行を実現する自動車として、再生可能エネルギー発電による電力を使うEV、その電力で水を分解して作る水素を使うFCVに注目が集まっているが、大量の自動車に必要な再生可能電力の供給形態について考えてみよう。
EVを充電する電力系統内で火力発電所が稼働していると、再生可能電力でEVを充電するのを中止して、その電力に相当する火力発電所を停止する方がCO2排出量の削減には有効である。EVで充電走行する代わりにHEVでガソリン走行する方が、総合的にCO2排出量が約2/3に減少する。言い換えると、EVがカーボンニュートラル走行する条件として、CO2を排出する火力発電所がなくなりEVの充電需要がないと再生可能電力が余剰になる場合に限られるということだ。
電力不足はよく話題になるが、不安定な再生可能エネルギー発電が本格的に普及してくると電力が余るという問題が発生する。九州で2018年10月に電力が余るので再生可能エネルギー発電を抑制するという事態が発生したように、将来的には全国レベルでこの事態が頻繁に発生するようになる。ドイツの2050年の電力事情を予測した図のような資料がある。再生可能エネルギー発電が78%を占め、天候次第で電力が不足したり余ったりすることが示されている。余剰電力は1ヶ月程度続き、その電力量は年間で200TWh近く(日本の電力量が約1000TWH/年)になり蓄電池(EVを含む)や揚水発電ではとても貯蔵できる量ではない。
これだけの電力を貯蔵するには現在のところ水素にエネルギー変換するしか方法がない。これが水素社会の構築を目指す理由である。余剰電力は真に再生可能エネルギーであり、水素エネルギーに変換しておけば、貯蔵して必要な時に取り出して水素発電で電力に戻すことができる。その電力でEVを充電してもいいし、FCVで水素を直接使うこともできる。どちらを選ぶかは最終的に水素発電→送電→EV充電→電動駆動走行と、水素充填→燃料電池→電動駆動走行の総合効率の優劣で決まるだろう。また、回収したCO2と反応させてエンジンで使える炭化水素燃料を生成することもできる。これからの技術革新によるところが大きい。
21世紀後半はこの水素エネルギーを利用する社会になると期待されている。水素は高圧タンクや液体水素での貯蔵と輸送が行なわれているが、体積あたりのエネルギー密度が低いので700barという超高圧が必要(FCEVのタンクの圧力。通常の輸送は350barで450barにする計画が進んでいる)で、液体にするには-253℃という超低温が必要になるため、水素の貯蔵と輸送には大きなエネルギーを消費する。そのため、トルエンと化合させて液体の有機ハイドライドの形にする、窒素と化合させて液化が容易なアンモニアの形にする、CO2と反応させて天然ガスの主成分であるメタンの形にして輸送する方法が研究開発されている。
一方、自動車のエンジンに使うカーボンニュートラル燃料については、藻類を使うバイオマスや植物や廃棄物を直接燃やしたり発酵させたメタンガスを燃やす方法が知られているが、再生可能エネルギー由来の水素と回収したCO2から合成する気体や液体の燃料についてはあまり知られていない。前者は自動車の大量の需要を満たすだけの量の確保に問題があると言われているので、ここでは後者について考えてみたい。
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