メルセデス ベンツのフラッグシップサルーン「Sクラス」に、“直列6気筒"のクリーンディーゼルエンジンを搭載した「S400d」が登場した。
現行Sクラス(W222型)は2013年に登場して以来、ガソリンエンジンはもとより、ガソリン+ハイブリッド、ディーゼル+ハイブリッド、プラグインハイブリッドなど、さまざまなパワートレインを搭載してきた。とくに2.1リッター4気筒ディーゼル+ハイブリッドを搭載した「S300h」はリッター20km(JC08モード)を超える燃費で、あのSクラスが! と大きな話題となった。実際に現行Sクラスの国内販売におけるモデルミックスは、「ガソリン+ハイブリッド」が40%、「ディーゼル+ハイブリッド(S300h)」が30%、「ガソリン単体」が25%、「プラグインハイブリッド」が5%だという。
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現行Sクラスのデビューから5年を経て満を持して投入されたのが、コンパクトな新型“直列6気筒”クリーンディーゼルエンジンだ。3割を占めていた「S300h」に代えてというから責任重大だ。メルセデスによれば近年の電動化に向けたパワートレイン戦略において、ピュアEV、プラグインハイブリッド、そして48Vマイルドハイブリッドの大きく3つにラインナップを集約するため、「S300h」のようないわゆるストロングハイブリッドはあえてやめるのだという。
そして、この新型ディーゼルエンジンは先に「S450」などが搭載した直列6気筒ガソリンエンジンと基本設計を共にするモジュラーコンセプトを採用している。コンパクトで効率性に優れ振動が少なく静粛性が高いといった直6の特徴はディーゼルになっても変わらない。これに低速域で効果を発揮する2ステージターボチャージャーを組みわせ、最高出力340ps、最大トルク700Nmとメルセデスの乗用車が搭載するディーゼルエンジンとしてはもっともパワフルなものだ。
最近のディーゼルエンジンは車内にいれば、それとわからないくらい静かなモデルも増えてきた。以前の「S300h」も同様で、車内にいれば静かだった。ただし、4気筒ゆえエンジン始動時の音も振動もそれなりにあるし、ハイブリッドモデルゆえ切り替え時のエンジン音振も気になった。それが、この「S400d」の新型ディーゼルエンジンは、車外にいてもディーゼルとわからない。ガソリンと共用の軽量なアルミのシリンダーブロックに、高トルクに耐える強靭なスチールのピストンを組み合わせ、特殊な加工を施していると説明を受けたが、とにかくその静かさに驚いた。個人的にはこれまで乗ったディーゼル車の中でもっとも静かだったと言える。
試乗車は、全長が標準ボディ(5125mm)に対して160mm延長されたロングボディでオプションのAMGラインプラスとさらにショーファーパッケージまで装着した豪華仕様だった。ポーセレンというホワイト系のレザーシートをメインに、ダッシュボードの上下段にはブラックのレザーを配した2トーンのインテリアは、なんとも華やかだ。
座りのいいシートに体を預けスターターボタンを押すとわずかな振動とともにエンジンが目覚める。700Nmもの大トルクを1200回転から発揮するため、ほとんど右足に力を込めることなく、わずかなアクセル操作によって市街地から高速道路まですべての日常領域をカバーできる。直6エンジンならではの静かさと滑らかさは、ちょっとディーゼルとは信じがたい。高速道路で試しにアクセルを踏みこむと、3000回転を超えたあたりではちょっといい音に感じるくらいだ。
足回りは連続可変ダンバーとエアサスペンションを組みあわせた電子制御式のAIRマティックサスペンションを標準装備する。タイヤはオプションの20インチ(ピレリPゼロ)で、フロントは40、リアは35偏平のものが装着されていたが、そんなことは乗り心地になんの悪影響も及ぼさない。これぞSクラスともいうべきしなやかさだった。ひっかかるところのないスムーズなステリングフィールに、当たりは柔らかいけれどもしっかりと路面を掴む足の感覚はなんともいえない。アクセルに少し力を込めると背中を押してくれるように加速し、とても心地よい。より固めの足がお好みなら走行モードをスポーツにすれば、過敏ではなくほどよく引き締まった素直な操作性が得られる。ほとほと感心するのは、これだけの図体でありながらも運転が楽しいということだ。
「S300h」が出たときには、これぞベストインSクラスだと感じたのだが、「S400d」はハイブリッドシステムなしで、静粛性も滑らかさも運転する楽しさも上回っている。唯一劣るのは「S300h」のカタログ燃費(JC08モード)がリッター20km超だったのに対して、リッター14.2kmになったことだけだ。それでも7速だったATが「S400d」では9速になっているし、乗り方次第ではその差は縮まるだろう。しかし、直6エンジンのことを“完全バランス”や、“シルキーシックス”などと称するが、それはガソリンでもディーゼルでも変わらないのだということを、あらためて思い知らされた。今さらだけど、素直にいいクルマというほかない。
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